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23話「管理費等の不払いでお湯が止められた!」

5ヵ月も 風呂が使えぬ 不自由で 心労たたり 仕事もできず

 本件マンションは、建替増築マンションで、集中冷暖房給湯システムを備えたものとして設計施工され、これを宣伝のポイントとして販売されました。
X1は、冷暖房、給湯の供給、その費用の支払等についての定めを含む本件マンションの管理規約を承認して、406号室を購入しました。
一か月当たり暖房費は36000円、冷房費は17000円の定額制であり、給湯料金は一か月当たりの基本料金2500円、使用料1㎥当たり950円によって算出するものと定められていました。

 ところが、X1は冷暖房費が高すぎる上、使用しないでも事足りるものを定額で請求されることに疑問をもちました。さらに昭和53年10月ごろから自治会と管理会社との間で管理費、冷暖房給湯等設備関係費用をめぐって話合いが行われていたため、X1は、管理費に加えて、冷暖房費も支払いを拒否していました。
実際、建替前の旧マンション時代からの区分所有者のうち7戸は、その希望により各自戸別の冷暖房をしており、本件マンションの冷暖房設備を利用していませんでした。

 本件マンションの管理規約では、管理者に管理を委任した区分所有者が管理費、冷暖房費、給湯料金の支払いを一回以上遅延した場合には、管理者は暖房、給湯等の供給を停止することができる旨、定められていました。

本件では、管理会社Bは、管理費等を滞納していた入居者に対し、その支払いを督促し、あらかじめ給湯停止措置の警告を発していました。にもかかわらず、支払いがなかったため、管理規約に基づいて、給湯を停止しました。Bからすれば、手順をふんだ上で、ルール(管理規約)に基づいて行ったまでで、支払わない側が悪いという主張はその通りです。
X1の未払い金は、管理費、給湯料金、冷暖房費、駐車場料金などを合計すると、369万円になっていました。

 一方、給湯が停止されたX1はどのような生活を送っていたのでしょう。
昭和55年2月に給湯が停止され、その後、調停の申し立てを行い、ようやく同年7月になって給湯が再開されましたが、この間5ヵ月余りにわたり、X1とその夫X2およびX1の75歳の母親は、風呂、シャワーが使えず、ガスコンロ一つで炊事等をせざるを得ず、日常生活に不自由をきたしました。

 また、X2は外国人の方で、大学の講師、商社及び放送局の嘱託などの仕事のかたわら、夜は自宅で翻訳の仕事をし、翻訳により1週間平均28万円の収入を得ていました。高給取りの方ですね。
ところが、X2の主張によれば、給湯停止のトラブルの対応と心労のため、昭和55年2月12日ころから同年3月初旬ころまでの約三週間は自宅での翻訳の仕事はほとんど断らざるを得なくなり、少なくとも70万円の得べかりし利益を失ったそうです。

 ルールに基づいて給湯停止した管理会社と、給湯停止されたことにより5ヵ月余りにわたり日常生活に不自由をきたしたX1X2、はたして司法はどちらを保護すべきでしょうか。

東京地裁は、日常生活に必要なものである給湯を停止することの重要性を考慮して、管理規約に基づいたこの制裁措置を直ちに適法なものと認めませんでした。
つまり、給湯停止措置は管理者が滞納問題で手を尽くした後の最終的手段であるとして、裁判所はその制裁措置の安易な発動に歯止めをかけようとしています。

 では、本件の具体的事情のもとでは、管理者はどのような対応をすべきであったでしょうか。
判決では、以下のように述べられています。

「X1の不払いの最大の原因となっていた冷暖房費については、現に建替前の旧マンション時代からの入居者7戸ほどに対しては、その意向に沿って冷暖房の供給をしていないのであり、冷暖房設備の撤去工事も、後にX1が自らしたように、他の区分所有者への供給とは切り離して、比較的容易にすることができたのであるから、管理会社Bとしては、給湯停止前に、冷暖房の供給停止を条件に、それまでの管理費及び冷暖房費の滞納分の支払を求める交渉をしてしかるべきであった。その上、Bの事務処理上のミスからX1の入居後約1年を経て冷暖房費の請求がなされるようになったことが、X1に管理会社に対する不信感を抱かせる原因となったことが容易に推認できるから、BのX1に対する対応は適切を欠いたもので、本件給湯停止の措置は、権利の濫用に当たるものといわざるを得ない」

管理会社が管理費等の滞納問題を解決していくためにどのような対応・手段をとるべきかを考える上で、一つの参考となる裁判例です。

「集中冷暖房給湯システム」がウリのマンションでしたが、住民の一部にとっては、費用対効果を考えると、不要の産物でした。

加えて、X1の入居後まもなく、施工不良でトラブル続きの上に、事務処理上のミスと、管理会社に対する不信感を抱かせる事件があまりにも重なりすぎました。住民と管理会社が真向から対立するのではなく、どこかで折り合いがつけなかったものか、お互いにとって不幸で残念な事案です。

東京地裁平成2年1月30日判決
[参考文献]
木崎安和『マンションの裁判例[第2版]』206頁

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