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空耳図書館のはるやすみ2021推薦図書

 今年の「空耳図書館のはるやすみ」推薦図書はこの2冊。今回のコレクティブメンバーは、福祉作業所カプカプ、コミュニティスペース芝の家の「祭り」仲間でもあります。見田氏の著書は映像編集後に読みましたが、今回取り上げた「序」に関する哲学的論考が大変面白いです。高校生を対象に平易な文体で書かれていますので、哲学的な専門知識が無くても大丈夫です。
 詩集は色々な版がありますが、いちばん装丁が気に入ったもの。
『宮沢賢治コレクション 6 春と修羅 詩1』筑摩書房2017
『宮沢賢治 存在の祭りの中へ』
 見田宗介 岩波現代文庫 2001/1984

 賢治は二千年前と二千年先を見つめながら、常に「今」を生きている。ひとりの短い人生の中では到達できるはずがない、もっと大きな世界を生きている。それゆえの未完なのだと思いました。「序」の達観も同じ視点です。その中に出てくる「海胆」が印象的で、これがヘッケルの『生命の不可思議』につながっていると知って大変興味深かったです。
 劇場にいた30代の頃に舞台化された賢治の作品をたくさん観ていて、ずっと賢治のもつ音楽性、時空に興味がありました。その後、娘への「読み聞かせ」からあらためて童話そのものの奥深さに気づきましたが、3.11後の混乱期にふたたび桜美林大学プルヌスホールの市民群読音楽劇『銀河鉄道の夜』を観る機会があって、あらためて賢治の目指す普遍性に救われた気がしました。
 この10年は自分も「星めぐりの歌」をホスピスで演奏してきましたが、100年前の小さな音楽の大きな力を感じています。
 今回あらためて「序」と向き合うと、やはり自分は哲学よりも賢治の作品の中に潜む音楽性(時間と空間)に惹かれます。この詩が「難解」と言われるのは文学的に解釈しようとするからで、賢治はもっと感覚的に、ペンを走らせる手の感覚や、文字を声にしたリズム、字の造形の美しさ等から言葉を選んだのではないかなと。その共感覚的な世界の捉え方が、結果的に心象と宇宙をつなぐサウンドスケープとなっているところに共感するのでした。

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