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ドラッグストアの店員は見た。【note de ショート】

ひとむかしまえ。
ボクがまだ、しがないドラッグストアの店員だった
ころの話。

そう、この店員は僕自身なのだ。
僕はみた!

当時はまだインフルエンザが人々を脅かす
ウィルスの頂点に君臨していた
平和な時代でもあった。

そんな中、こんなお客様が来店された。

お客様
「ズルルルル。す、すいません。ガクガク
あの、寒気がするんですが・・・」

ボク
「いらっしゃいませ
ほぉ、熱は測りました?

あと、寒気以外になにか
症状はありますか?」

答える気力もないくらい
お客様の具合が明らかに悪そうだ。

立つのもやっと。いや
とうとう座りだした。

心配になりパートさんや
他の同僚、そしてたまたま
臨店中だったエリア長まで
やってきた。

「どうした」
「大丈夫か?」
などぞろぞろ
やってきた。

そして閉店間際にいらっしゃる
常連のお客様まで心配になって
その方の周りは埋め尽くされた。

ふと、その時。
パートさんがこんな一言を。

「最近、インフルも流行ってる
からねぇ。高熱出したら
心配よねぇ」

とその時!

「・・・ました・・・」
とそのお客様。

ボク
「え?なんですか?」

お客様
「いわれました・・・」

ボク
「何をですか?」

お客様
「インフル・・・

インフル・・・


今日・・
病院で・・
診断されました」

ボク
「ま、まさか・・・」


お客様
「俺、インフルって診断されました!!
ゴホゴホゴホ!!

はーーーっくしょ江!!」

ここから店が
カオスと化した。

そこからは蜘蛛の子を
散らしたような店内。

ぎゃーーーとか
うわーーーとか。
助けてーとか

親が逃げ出し
子供が親を探し出し
泣き叫ぶ。

じいちゃんがばあちゃんの
下敷きになって
うー・・と
別で騒ぎが起きている
シマツ。

エリア長に至っては
そのお客様に肩を
貸していた。

その話を聞くや否や
そのお客様を振り払って
その方は地面にうずくまっている。

この接客が本部にばれたら
降格は間違いなかろう。

でも僕らはそのお客様を
放ってはいけない。

惨状の中、平静を保っていたのは
その方だけ。

聞けば近くの大学生だという。

意味のないことと知りながらも
ボクは試供品のリポDを
飲ませて差し上げた。

お客様
「う~ん・・うまいねぇ
ねぇ、風邪ってさぁ
リポDとカゼ薬と一緒に飲むと
治りが早いんでしょ?」

と訳の分からぬ
処方を論じ始めた。

ボク
「うーんと、まぁね。
ところでお客様は何型?」

お客様
「俺っすか?よくBって
言われるんすけどAっす」

ボク
「いやイヤ、
血液型ちゃうよ。
インフルエンザのウィルスの話」

とまぁ
まだ混乱冷めやらぬ店内で
一番の大ぼけをかますこのお客様。

改めて
ボクはそのお客様に諭した。
「外出禁止」
「接触禁止」
「病院処方以外だめ」
「副作用気をつけろ。
飛び降りるな」

などなど。

やっとそのお客様は
自分がかなりバツが
悪いと悟ったらしく
帰っていった。

混沌が終わり
やがて静寂が訪れた。
店じまいの時間だ。

翌日。
店舗の誰一人欠けることなく
出勤した模様。

ボクとエリア長を除いて。

どうやらエリア長は
至近距離で咳の飛沫を
喰らったらしい。

くたばった。

僕もくたばった。
インフル客に接客など
論外だと知った。

ドラッグストアの店員はみた。
阿鼻叫喚の店内絵図を。

ありがとう。
今考えたら平和なワンシーンかもね。



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