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拍手喝采の中で ⑧『note de 小説』



☝前回までのお話❤

ーーーーー 15 ーーーーーーーーー


「父さん
あ、父さんですね。」

ノブユキは顔を上げた。

そこに薄グレーの人間の身体をした
物体があった。

「物体」といっていいだろう。
髪はなくただの人間の裸体を
したモノ。

それがノブユキを呼ぶ。

「父さん。僕だよマサシです
老けましたねぇ、父さん」

「おま・・・マサシなのか。
ほんとか・・」

言葉がでない。
しばらく言葉がでなかった。


どのくらい見つめあったであろうか。
するとこの物体がはなし始めた。


「役所の人たちからはなしは聞いてます。
父さん、僕に会いに来たんですって?

でも現場との伝達の漏れがあって
父さんがはぐれてしまった事も。

石榴さんたちや門番たちも
みな総出であなたのことを
探してます

ここまでよく来れましたね。
お久しぶりです、父さん。」

マサシだ!
この口調は、まさに。


涙がこぼれた。

やっと。
やっと会えた。

ノブユキは涙をぬぐうことすら
忘れて堰を切ったようにはなし始めた。
我を忘れてはなし始めた。
込み上げるものを抑えられなかった。

まずは詫びた。
生前、マサシをそこまで追い込んでしまった
ことを詫びた。

膝をついて詫びた。
マサシのことは片時たりとも忘れた
ことがないことも話した。


するとマサシも嗚咽し始めた。


感動の地獄での親子の再会であった。


マサシも詫びた。
死ぬことでしか自分の気持ちを
表現できなかったことを
ただひたすら詫びたのだった。

マサシは地獄の蓋から
ずっと見ていて知っていたらしい。

自分が死んで家庭が崩壊してしまったこと
タカシが変わってしまったこと。
ノブユキが家庭を顧みず仕事に没頭して
しまったこと。

そしてノブユキがガンで他界したこと。



マサシはいままでここで
生前と同じ苦行を繰り返している。

本来なら体はとうに朽ち果て
人間の形をしているはずもないの
だという。

ただ、そこは役所の計らいで
会ったときに分かりやすいように
仮の姿をあてがってもらって
いるようだ。

「父さん、あなたのやって来た事は
間違っていません。

だってその証拠に
ここでの面会が特例として認められて
いるじゃないですか。
人間界でいう10世紀ぶりらしですよ

みな、あなたに感謝しているんです。」


「でも、俺は・・・自分の家族を
こんな目に・・失格だよ。

父親失格だ。
あとで俺、お前と役目を代わってもらえる
ようにいうつもりだ。」

そんな道理が通用するものかどうか
わからないが、ぜひともそうしたい
つもりだった。

するとマサシが言った。
「あれ、聞いてませんか?
ボク、ここから釈放らしいんです。

これも滅多にない恩赦らしくって。


もう一度人間の容器に入ります。
うまれかわるんです。

だれに生まれ変わるかご存じですか
父さん?」


ノブユキは思わず
目が点になった。


そうなのか。

マサシはここから
離れるのか。
だったらノブユキは
自分が肩代わりしても
構わない、とさえ思った。


「父さん、じつはボクもう
旅立ちます。
決済が下りたので。

あなたが来た道をボクが今度は
逆に上がっていきます。

そうです。滅多にない事なんですが
ここの苦行を途中で終えて
人間として生きていくんです。」


「そっか。
お前と話したいこと、もっとあったん
だけどな。残念だ。

で?だれに生まれ変わるんだよ。
教えてくれないか?」

マサシはクスっと笑った。
「タカシ兄の子供だよ。

知らないんですか?
タカシ兄、もうすぐパパになるんだよ。

男の子。もうすぐ出産だ。

その赤ちゃんがボクだよ。」


まったく知らなかった。
何せ、タカシとは生前、出ていったきり
はなしなどしていなかった。

そうか、タカシが・・
そしてタカシの子供にマサシの魂が・・・


「父さん、じつはねボク・・・

父さんの会社を継ぐ気はなかったんだ。
しってるよね。

ボク、じつはタカシ兄と
漫才師になりたかったんだ。

おぼえてますか。
忙しい最中家にいてくれた父さんを
元気付けようとしてやったボクと
タカシ兄でやった漫才。

おぼえてますか。
あんなに大笑いをした父さんを見たことが
なくって。
それが嬉しくて・・・」

「あぁ、おぼえているとも。
そうだったんだな。お前。
そうだったんだな。
なのに・・・すまなかったな・・・」


すると薄いグレーの影を帯びたマサシの
体がまばゆい光で覆われた。

そして別れ際にこう告げた。

「父さん、アナタ、むかし優しかったね。

ボクがタカシ兄と漫才師やるっていったらさぁ
大手を降って賛成してくれたよね。

笑ってくれたよね。

ねぇ、父さん。
人って・・・
人ってなんでそのままで。

なんでそのままでいられないの?

なんで・・・
人はそのままで・・・
いてほしい・・・・」


そういってマサシは光の中に
旅立っていった。

マサシの気配すらもなくなった。

またここにノブユキだけが取り残された。
一人に帰ったのだ。



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「お話はお済みですか?」


すべてのはなしが終わったのを確認して
石榴がやって来て言った。

「マサシさんは人間としてもう一度  を
歩みます。タカシさんのご長男として。

ただし、彼の記憶は産道を通ったあと
消去されます。
ここでのこと、アナタの事は当然
覚えていません。


ですが、よかったじゃないですか。

タカシさん、どうやらアナタの跡を継ぐそうです。
そしてタカシさんの跡はマサシさん。

あなたの育てたお子さまたちです。
後継者として問題なくやっていくでしょう。」


「そうか・・・」

「え?」

「そうか、マサシのやつ、漫才師に。
あれ、本気だったんだな。
死ぬほど本気にしてたんだな。


俺、ずっとあいつらの
話聞いてやれなかったんだよ。
ほんのひととき、ほんの束の間に
あいつらの漫才を見させて
もらっただけだったんだ

それをアイツ。
そんなにも・・・
ほんとに嬉しかったんだな。

じゃぁな、マサシ。
今度は父親がタカシなんだ。

幸せになれるさ。」


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「ところでよぉ、石榴ぉ。
お前、伝達ミスだぞ。

鬼に思いっきり殴られたじゃねぇか。

でもまぁ、許してやるから


俺をここで働かせろ!
マサシの代わりに俺をここに置け!

どうだ!!」


「無論、こちらとしては
反対するつもりはございません。
空いた欠員を補充できるんですから。


ですが、アナタへも
新たなお達しが来ています。

あと1ヶ月後。
アナタの魂も人間の器に入れられます。

そのかたのお名前は

「ムロ キヨシ」
腕と右目に障害をもって産まれます。

いまのあなたのそれと同じです。
人間の世界でもって生まれた
ハンデを背負って生きていかなければ
なりません。
これは傍目で見るよりも辛いことです。

あなたの苦行は生まれてより後に
していただきます。

そしてノブユキさん。
あなたはなんと
マサシさんが生まれ変わる人と


漫才のコンビを結成する。
という運命です。

いかがですか?」

「悪くない!
いや、大歓迎だ!!

障害?何てことねぇよ。
またマサシと会えるんならな。

ただ・・・」

「何です?」

「それすら忘れるんだろ」

「そうです。
これには例外はありません。」



「しかたがない。だれだっけ?
 ムロ キヨシ?

 いいねぇ。また人間やれるのか!」


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地獄での1ヶ月、ノブユキは
嘆願書を書いてだした人を片っ端から
探しだし、礼を言って回った。

広い地獄のなか、一人も漏れることなく
ありがとう、を伝えた。

だが一人。
一人だけは逢うことが叶わなかった。
石榴たちからもこの一人だけは
責任を負いかねないので
やめておけ、と忠告もされていた。

彼の事はよくおぼえている。

生前、裁判員をノブユキが勤めたこと
のある人物。

家族を闇に葬った男として
マスコミでも取り上げられた。

彼は・・・

彼はいま「地獄の蓋」を開けた
奥にいる。

役所の人間すら知らない
未知の世界。
そう、それこそ地獄なのだ。

「俺がそこに行けばよかったのかも」
とノブユキは思った。

そんなところからも嘆願書を出したい、と
思わせるようなノブユキの人格が
約1000年以来の特例を生んだのだろう。


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「ノブユキさん。
短い間でしたが、アナタをご案内できて
大変光栄でした。

ここだけのはなし、わたしはアナタの出方次第で
ずっと地獄での苦行もやむ無し、との命令も
いただいていたのが事実です。

ですがあなたからマサシさんに会いに行きたいと
おっしゃっていただけたので、あえて
逆の提案を閻魔大王にお伝えしたんです。

ほんとに怖かったんですけどね。」

「そっか、ありがとな。
上司の山梔子にもありがとうって
伝えといてくれよ。

お前とあえてよかったわ」


これを最後の挨拶にして
ノブユキの魂もまた
マサシと同様に輝きだした。


そして、静寂が訪れた。





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キヨシは産まれた。

産前の検査により障害をもって
生まれてくると知りながら

キヨシの母は出産を決意した。

小さくて消えそうな産声をあげて
1300グラムの男の子が
この世に産まれた。

そしてノブユキだった
物体がなくなった瞬間である。


ここは菊田産婦人科。

キヨシは特別な哺乳機に入れられていたが
すぐに親族が駆けつけた。

これが我が子かぁ!
駆けつけた父親、祖父母ともに
泣いていた。

キヨシは中から見ていた。


ばんざーい!
ばんざーーーーい!


ばんざーーーーーーーい!

看護師に怒られながら
父親のバンザイ三唱が聞こえる。

「よかったですね。」

そこに居合わせたみんなからの
拍手喝采!

拍手喝采のなかでキヨシは静かに
そとを見ている。

「おぉ!あんがとな!
名前は清だ。

清く正しく生きろってな。
俺らが世話になったあの社長さん
みてぇに清く正しく、だ!」

一般病棟ににもその声は聞こえていた。

「なんだ、うるせーな」

迷惑そうにポツリと一言。

「まぁまぁ。」
となだめられた父親がいた。


タカシである。
マサシと彼の奥さんの退院日が今日このひ。

キヨシ、つまりノブユキがこの世にやって来た日。

ふたたび家族がひとつ屋根に集まった日
なのだ。


ーー 21 ーーーーーーーーーーー


月日は流れて21年後。

「大学全日本お笑いコンテスト決勝戦」

この日、壇上に上がった一組のコンビがいる。



かれらこそ

地獄で堅く約束しあった
二人のもうひとつの姿だとしたら・・・?


ここでも散々に浴びるであろう。


拍手喝采の中で
栄光を!



FIN

ありがとうございました。

長々と、途切れ途切れになって
ここに完成をみました。

実際に楽しみにしていてくれた方がいらっしゃいました。

僕の休業期間中、会えなかったけど
noteをずっと読んでくれていた
会社の事務員さんです。

勇気付けられる一言をいただきました。

はなしを書かせていただく者として
最高の称賛の言葉です。


それは
「おもろいね」


このはなしの続きが気になる、との
仰せなので心を込めて
描きました。

ほか、フォロワーの皆様
立ち寄ってくださった皆様にも

お礼を。

ありがとうございます。

サポートをお願い致します。 素敵なことに使います。何にって?それはみなさんへのプレゼント! ぼくのnoteをもっと面白くして楽しんでいただく。これがプレゼント。 あとは寄付したいんです。ぼくにみなさんの小指ほどのチカラください。