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仕事が変わる、意識が変わる_「50のポイントでわかる 異動1年目の自治体予算の実務」_出版記念著者座談会

1月30日に出版された一般社団法人新しい自治体財政を考える研究会(以下、本会)編著の「50のポイントでわかる 異動1年目の自治体予算の実務」(学陽書房。以下、本書)。
本書は本会で「財オタ」として活動する、行財政に関する本の執筆や専門誌への寄稿、国の有識者委員会の委員を務めるなどの行財政のプロ5人が「予算」の視点から行財政運営のポイントを紹介しています。
多くの自治体が直面する課題解決のヒントが分かりやすい言葉でまとまっており、財政課はもちろん、事業部門で尽力する自治体職員にもおすすめしたい1冊です。
今回は、著者5人に本書に込めた想いを伺った座談会の様子をお届けします。

【座談会参加者】
高岡市・長久洋樹(ながひさ・ひろたか)さん
横浜市・安住秀子(あずみ・ひでこ)さん
福岡市・今村寛(いまむら・ひろし)さん
大東市・川口克仁(かわぐち・かつのり)さん
元足立区教育長・定野司(さだの・つかさ)さん ※当日のファシリテーター

座談会の様子。右上から時計回りに長久さん、川口さん、安住さん、今村さん、定野さん。

※以下、敬称略


■ 担当した章の推しポイントは?

長久:私の推しはポイント1の「予算査定は誰のためのものか」です。「誰のために予算を要求して、誰のために予算を執行するのか」を要求する側も査定する側も意識しないと、費用対効果の高い予算=税金を無駄遣いしない予算にはなかなか行きつかないのかな、と思います。まずは、お互いが事業の価値を共有するため、違う視点から同じ場所を見て、要求・査定に臨むことが大事だと思い、これを1つ目のポイントにしました。

定野:この1つ目のポイントの中に「財政課が指揮者であれば、原課は演奏者です。そして、市民が観客です。」という表現がありますが、要求や査定が前年同額だと録音を聞いているようなもの。やっぱり市民は、その場に合った生演奏が聞きたいですよね。

安住:私は自分が担当したポイント全体を通して、予算~政策立案~執行~決算~評価の「経営サイクル」の視点から書かせてもらったことが推しポイントです。「経営サイクル」や「EBPM」「アジャイル」といった視点は地方自治体より国の方が進んでいると感じていたので、地方自治体の皆さんが予算編成や施策・事業立案の時などにこの視点を意識していただけるよう、国の動向に関する情報も意識して取り入れています。

定野:ポイント13の「これからはアジャイル型要求」に出てくる船着き場のお話はとても分かりやすく面白かったです。おっしゃる通り、総務省や内閣府から「EBPM」や「アジャイル」といったキーワードが出ていて、先を読んで動いている感じがしますよね。

安住:そうですね。デジタル行財政改革会議や(国の機関ではありませんが)令和臨調でもこの辺りの話が出てきていて、動きを感じます。

定野:デジ庁に近い方とお話をする機会がありましたが、各省庁が「このままでは自分の省庁が無くなってしまう」という切迫感を抱いているように感じます。

今村:私は、やはり枠予算について語らなければ始まらないので(笑)、枠予算を中心に書かせていただきましたが、その中でもポイント26の「任せてやらねば人は育たず」が推しポイントです。私も実際にこのポイントを実践していますが、現場に任せたことによって職員みんなが理解してくれて、各担当部署で自律した予算編成ができるようになりました。また、「子育て施策と少子化対策って同じなの?」という具体例からロジックモデルの考え方を書かせてもらったところもポイントです。「政策の目的は?」「どうやって評価する?」といった、一見分かりやすそうだけど勘違いしやすいところを解説しました。

定野:ちょうど子ども家庭庁が「こども大綱」(※)を公表したタイムリーさも相まって、とても面白かったです。ポイント25の「誰が枠配分予算を殺したか」という衝撃的な見出しもありましたね(笑)(※)令和5年12月22日閣議決定

今村:実はそのポイントの話は横浜市さんがモデルなんです。私が財政係長だった頃、枠予算を勉強するために先行していた横浜市さんにお話を伺い、福岡市に枠予算が導入されました。そして、私が財政課長の頃に横浜市さんから「実は枠予算を止めたんですよ」というお話を聞き、「なんでですか?」と驚いて理由を聞いた時に教えていただいたお話が、ポイント26です。

安住:実は、完全に枠予算を止めていたわけではなく、枠を配分して現場が予算を組む仕組みではありました。ただ、最終的には、財政課が枠内の予算も査定し、現場からの信頼を失ってしまうやり方になっています。(ここは、いつも今村さんに怒られるところです(笑))今もこのやり方が続いているので、頭の痛いところです…。。。

川口:私は地方公会計に関心のない方にも手に取っていただけるのが有難いと思いながら書いていました。推しポイントとしては「『官庁会計よりも企業会計の方が優れている』は間違い」と言い切ったところです。色々な考え方があるので、言い切るというのは難しいところですが、大事なのは民主的統制を考えた場合の役割の違いですよね。その役割の違いを考慮せずにキャッシュを重視する官庁会計が批判される場面が多々あります。民間企業でも「キャッシュフロー経営」という考え方があり、損益計算上、黒字であっても、資金がショートすると経営が成り立ちません。民間でもキャッシュは大事なはずなのに、キャッシュ重視の官庁会計はレベルが低いと批判されることがよくあり、だいたい内容を精査すると誤解に基づく批判が多いのです。最近はこの風潮は和らいできてはいますが、こういった批判に対する考え方を明確に主張できたのが良かったと思います。

定野:地方公会計を実務に活用できずに悩んでいる自治体の方も多いので、今回、予算の本の中に地方公会計が盛り込まれているのは画期的だと思っています。ポイント40の「予算インセンティブとサービスデザイン思考」には川口さんの想いが詰まっているのかな、と思いながら読みました。

川口:はい、サービスデザイン思考はとても大事だと思っています。やはり一人ひとりのニーズにこだわることは大切だなと思っていて、今村さんが書かれていたポイント(第3章)に響くところもあるな、と感じました。この部分だけでなく、この本は全体を通して、各著者が書かれたポイントが相互に響くところがあり、面白いなと感じました。

定野:全く打ち合せをせずに書いたのに、こんなに共鳴するとは驚きですよね。

今村:同感です。例えば、私が枠予算の中であまり深掘りしなかったシーリングのことは長久さんが書かれていて、役割分担をしたわけではないのに、お互いのポイントをお互いがフォローするような形になっていますよね。

長久:私は安住さんの書かれたポイント(第2章)にフォローしていただいている部分が多いです(笑)。お互いが良い感じで補完し合っていて、どのポイントも被っているようで被っていない、良い本だと思いながら読んでいました。


■ 事業部門にも読んでほしい!

長久:私の章は、悪く言うと「財政課はこういう視点を持っているから、そこにすり寄った方が楽だよ」と財政課目線で現場の都合をあまり考えずに書いている、とも言えてしまいますが、良く言うと「情報が足りないと相互理解が進まない」という意味合いもあります。財政課の方にはもちろんですが、一般的に財政課を経験する職員の方が圧倒的に少ないので、現場の方に「財政課職員の思考を理解する」という視点で読んでもらえると良いかもしれません。

安住:専門書とは違い、分かりやすい言葉でまとまっているので、現場の皆さんにも手に取ってもらい「経営サイクル」について理解を深めていただけると思います。また、企画部門・財政部門・評価部門の関係性なども含めた今後の仕組みづくりのノウハウも詰まっているので、官房部門の方にもおすすめです。

今村:私も財政課に行かないと分からない仕組みを財政課の外側の人たちが手に取って分かる本であってほしいと思っています。私の書いたポイントの前半5つは「こんな風に枠配分を運用できませんか?」と財政課向けに書いていますが、ぜひ財政課ではない方にも読んでもらって、ご自身の自治体の予算編成フローと照らし合わせてみてほしいです。後半5つも、もちろん財政課の方にも読んでほしいですが、現場で政策立案する時に「どこにポイントを置くか」を考える参考にしてほしいです。

川口:私は「迷える財政課に向けて」という気持ちが大きいです。地方公会計の意義や活用を理解する、というのが大前提ですが、気持ちの持ち方も大事です。地方自治法に基づく予算決算制度が大切で、地方公会計を変に意識することなくフラットに理解した上で、今のやり方に自信をもってほしい、というメッセージを込めました。

定野:明治政府が企業会計を導入した時は現金主義では無かったんですが、その後、企業会計では庶民が分かりづらい、ということで官庁会計が生まれて今に続いているんですよね。そう考えると、自信を持って大丈夫ですよね。一方で、「どうやって使うの?」と悩んでいる人も多いので、この本では、予算に結び付けた地方公会計の話になっています。

川口:決して、みんなが「地方公会計、万歳!統一的な基準、万歳!」と言っているわけではなくて、色々な議論や批判があり、多くの関係者が悩んでいます。私は総務省の「今後の地方公会計のあり方に関する研究会」に参加させていただいているので、ここでの議論を紹介することで、全国的な地方公会計への期待感や願いのみならず、悩みや苦しみも共有できたなら、という思いもあります。

定野:「地方公会計をやろう」と立ち上げた総務省自身が悩んで、研究会を発足しているのは面白いですよね(笑)


■ 最後に一言

長久:私は役所生活の3分の2くらいは現場で、あまり官房系にはいませんでした。なので今回は「現場目線での予算要求」という点をとても意識しました。先ほども話題にあがっていましたが、財政課以外の職員の方にも積極的に手に取っていただきたいです。また、著者全員の共通認識は「財政の知識やテクニックを身に付け、より効果的な予算編成を実現してほしい」ではないかと思っています。自治体職員なら財政の知識やテクニックは持っていて然るべきリテラシーだと思います。自分のやりたい事業を成し遂げることを大きな目標として掲げる現場職員の方は多いと思うので、その目標を達成するためにも、本書をご一読いただき、自分の武器としてこういったリテラシーを身に付けていただけたらと思います。

安住:本書は自治体の動きが分かるので、民間事業者の方にも読んでいただき団体要望や予算要求のタイミング・内容の参考にしていただくのも良いと思います。どんな方にも役立つノウハウが詰まっているので、ひとりでも多くの方の手に届くと嬉しいです。

今村:先ほど川口さんから「悩める財政課職員にメッセージを発信した」といったお話がありましたが、私も「悩める」という言葉が重要だと思いました。どのポイントも、悩みに対して解決策のヒントを提供するような内容になっているので、「財政」という難しそうなテーマについて悩んでいる人が色々な切り口から悩みを解決する手立てとなれる本になっていると思います。悩んでいる人が手に取ると、何か1つでも解決できるような本になっていると思います。
 
川口:みんなが色々なことを書いていますが、各著者が気になっていること、目指していることは、やっぱり似ている。一章一章が響き合って補完し合いながら、全体として醸し出している雰囲気があって良い本だと思います。

定野:私は本書の「はじめに」と「おわりに」も担当しました。どちらも長めに書かせていただいているのですが、これは「飛ぶ教室」(エーリヒ・ケストナー著)という児童文学を真似てみました(笑)。また、章間の3つのコラムも担当しました。コラムのテーマは共通で、「稼ぐもの」であり「買えるもの」でもあり「貯められるもの」でもあります。ヒントは「誰にも平等に与えられているはずなに、使い方によって、どんどん違いが出てしまうもの」。何だか「予算」に似ています。「予算」を作るときも、使うときも、これ抜きでは考えられません。答え合わせは本書のコラムをご覧ください。

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50のポイントでわかる 異動1年目の自治体予算の実務

第1章 財政課はこんなところを見てる/見られてる(著:長久洋樹)
第2章 要求を通したい/通してあげたい(著:安住秀子)
第3章 予算の枠配分を活かす(著:今村寛)
第4章 地方公会計制度を予算に活かす(著:川口克仁)
第5章 どうしても押さえておきたい10のポイント(著:定野司)
 
学陽書房 定価2,420円(税込)
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