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【コンサル物語】エンロン事件とコンサルティング会社

エンロンを筆頭に、大手企業の不祥事さらには破綻が相次いだのを受けて、サーベンス=オク スリー法(SOX法、正式名称は上場企業会計改革および投資家保護法)が2002年に成立した。この法律では公開会社会計監視委員会(PCAOB)の設置、監査人の独立性確保、財務ディスクロージャーの拡大、内部統制の義務化、経営者の不正行為に対する罰則強化などが 定められている。

『帳簿の世界史』

2002年7月にアメリカで成立したサーベンス・オクスリー法はコンサルティング業界にも大きな影響を及ぼすものでした。監査の独立性を守るため利益相反に強い規制を求めるこの法律により、会計事務所が経営コンサルティングを行うことが実質的に禁止されたからです。

監査法人のコンサルティング業務との間の予想される利害の対立を取り除くために、この法律は、クラ イアント企業の役員会付きの監査委員会で事前に承認されたものでなければ、監査法人が税務とかの監査以外のサービスを提供することは法律違反であるとした。また、監査以外のサービスが監査に支払われる金額の5%以下である場合には、事前の承認は必要ないとされた。この法律は、次にかかげる8つのカテゴリーの監査以外のサービスの提供を禁止した。

1.監査クライアントに対する会計記録や財務諸表に関する記帳等のサービス
2.会計情報システムのデザインとその実現
3.評価とか価格設定のサービス、公正であるという意見の表明、物による拠出、出資等に関する評価等のレポート
4.年金計算
5.内部監査の外注(アウトソース)引受け
6.経営業務または人材選定の職務
7.ブローカーやディーラーの投資アドバイス、またはインベストメント・バンカー的サービス
8.監査に関係のない法律的、または専門家的サービス

『名門アーサー・アンダーセン消滅の軌跡』

サーベンス・オクスリー法は、会計事務所が監査役を兼務する企業クライアントに対して経営コンサルティングサービスを提供することを禁じた。サーベンス・オクスリー法以降、現実問題として、米国に拠点を置く大手会計事務所が、同一の企業クライアントに対して同時に経営コンサルティング・サービスを提供することはできなくなった。

『The World Newest Profession』

20世紀末頃から大手会計事務所Big5(ビッグ・ファイブ)※は自社で抱えていたコンサルティング部門を売却し切り離すようになっていました。2002年のサーベンス・オクスリー法の成立がその流れにとどめを刺したと言えるかもしれません。今回はこの法律の成立に影響を与えたエンロン事件の歴史とコンサルティング会社の関わりを見ていきたいと思います。

※Big5(ビッグ・ファイブ)
20世紀末からアメリカに存在していた大手会計事務所5社。アーサー・アンダーセン、アーンスト・アンド・ヤング(EY)、デロイト・アンド・トウシュ(Deloitte)、KPMG、プライス・ウォーターハウス・クーパース(PWC)のこと。2002年にアーサー・アンダーセンが消滅しBig4(ビッグ・フォー)となる。

最初にエンロンという会社とその顛末をご説明しましょう。
1985年に2つの天然ガス会社が合併しエンロンという会社ができました。当初は天然ガス・石油の卸売等を生業としていましたが、1990年代に入りアメリカ電力市場の規制緩和政策の進展に合わせ電力事業にも進出しエネルギー事業を拡大しました。20世紀末にはインターネット上に電力・原油・天然ガス・石炭等のエネルギー商品の取引所(エンロンオンライン)を開設、海外展開にも力を入れ、会社を急速に拡大していきました。その結果、2000年の売上は全米7位にまで拡大、株価上昇とともに優良企業の名声を手に入れるまでになったのです。

一方で、好調に見せていた利益の裏には巨額の負債が隠されており、その大半を連結対象外の会社(SPE 特別目的事業体)等に飛ばし、不正処理を行っていました。そのことが明るみになるとエンロンの株価はわずか数か月の内に暴落し、2001年の末に会社は破産したのです。

そして、エンロンのこの一連の不正会計を監査し結果的に投資家を欺くことに加担してしまった会計事務所社がアーサー・アンダーセンだったというわけです。更には、エンロン本体の負債を別会社に計上するという会計処理をエンロンにアドバイスしていたのが、アーサー・アンダーセンのコンサルティング部門であり、マッキンゼーであったわけです。

エンロンの簿外での金融取引を承認した。1997年の「クォータリー」※で、コンサル タントたちは「機関投資を使った簿外資金の展開は、エンロンの証券化スキルを育み、大手石油会社の期待率収益より低く資金が得られるようになった」と書いた。マッキンゼーの重鎮であり金融機関業務のパイオ ニアであるローウェル・ブライアンは、別の言い方をした。「証券化が有望なのは、資本金とバランスシートを成長の足かせとみなしてはずすからだ」

※マッキンゼーが発行するビジネス論文誌『マッキンゼークォータリー』

『マッキンゼー』

アーサー・アンダーセンは、エンロンの突然の破たんとともに消滅した。SPEの設立方法を会社にアドバイスしながら、会社の帳簿を監査していたが、利益の相反ともとれるこのような行為もめずらしいものではない

『バランスシートで読みとく世界経済史』


『エンロン崩壊の真実』『闘う公認会計士』等をもとに作成

20世紀が終わる正にその瞬間まで絶好調に見えたエンロンですが、21世紀に入るやその綻びが表面化し、1年も経たないうちに破産してしまいました。そして、後を追うように会計監査を担当していたアーサー・アンダーセンにも同じように正義の風が襲い、89年続いた巨大会計事務所を消滅させました。

なぜこんな事になってしまったのでしょう。会計監査とコンサルティングサービスを同じ企業に提供し続けた大手会計事務所でどのような問題が起こっていたのでしょうか。

(続く)

(参考資料)
『帳簿の世界史』(ジェイコブ・ソール 村井章子訳)
『名門アーサー・アンダーセン消滅の軌跡』(S・E・スクワイヤ/C・J・スミス/L・マクドゥーガル/W・R・イーク 平野皓正訳)
『The World Newest Profession』(Christopher D. McKenna)
『マッキンゼー』(ダフ・マクドナルド 日暮雅通訳)
『バランスシートで読みとく世界経済史』(ジェーン・グリーソン・ホワイト 川添節子訳)
『コンサル一〇〇年史』(並木裕太)
『エンロン崩壊の真実』(PETER C.FUSARO/ROSS M.MILLER 橋本碩也訳)

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