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【コンサル物語】成長を続けるBig4コンサルティング

西暦2000年前後のアメリカではBig4(Deloitte、PWC、EY、KPMGの各会計事務所)各社は相次いでコンサルティング部門を切り離し、コンサルティングサービスから距離をおきました。2002年に成立したSOX法(上場企業会計改革および投資家保護法)は、会計事務所が経営コンサルティングを行うことを禁止しました。時代の流れは会計事務所に対して時計の針を戻し本業である会計監査への回帰を促しているように思えました。

ところが、SOX法成立から10年、20年後、Big4各社のコンサルティング部門は息を吹き返し、むしろ以前とは比べ物にならない程巨大化しました。

各社のアニュアルレポート等から集計したコンサルティング部門の売上(下表)を見ると、2010年から2020年の10年間で2倍から2.5倍以上の伸びを示しています。PWCの場合、会社全体も162%の伸びになっていますが、コンサルティング部門はそれを凌ぐ成長をしていることが分かります。

Big4コンサルティング部門の売上推移(2010年~2020年 単位:億ドル)

実はBig4のコンサルティングを規制したはずのSOX法が、皮肉にもコンサルティング全体を拡大する要因の一つになったと言われています。企業に統制を促したSOX法により、企業はコンサルタントを雇い改革を進めようとしたためです。

サーベンス・オクスリー法の裏返しとして、同法は、企業の取締役が社内の経営判断を監視する法的義務を大幅に増大させた。

連邦規制当局は、取締役会メンバーに対し、コンサルタントのサービスを一層頻繁に利用するよう要求するようになった。

企業統治の危機を防ぐことができなかったにもかかわらず、経営コンサルタントは、企業責任の増大に対する最良の解決策であると再び宣伝されるようになったのだ。

『The World Newest Profession』

エンロンの崩壊は、マッキンゼーにとっても不都合な結果を招いた。なかでも、これがきっかけで制定されたサーベンス・オクスリー法では、より明確に企業役員と役員会が訴追の対象にされている。では、これらの役員会が責任から身を守るために雇ったのは誰なのか。もちろん、コンサルタントだ。マッキンゼーのエンロンでの失敗は、間接的に彼らのさらなる成功に貢献したのだ。

『マッキンゼー』

21世紀に入りBig4各社はこれまで以上に注意深くコンサルティングをコントロールするようになりました。会計監査を行っている同一企業にはコンサルティングサービスを提供しないということをSEC(証券取引委員会)に示すことで、利益相反の問題を回避しているというわけです。


(終わりに)
約一年間に渡り書いてきたコンサル物語は、アメリカでのBig4会計事務所におけるコンサルティングの成立ちと発展の歴史をメインテーマにしてきましたが、現時点で歴史として書ける時代はカバーしましたので、今回をもって一区切りしたいと思います。

コンサルティングの歴史をきちんとまとめた書籍や記事があまりないので、自分で整理してみようと始めたこの連載ですが、当初想定していた方々以外にも多くの人に見ていただいたことも継続できた理由の一つです。

整理をしたといっても、コンサルティングの歴史の一面をご紹介したにすぎませんが、その過程でコンサルティングの歴史について私自身も様々な示唆を得ることができました。Big4の源流となる会計事務所では20世紀初頭からコンサルティングを行なっていたこと、特に1920年代はシカゴのアーサー・アンダーセン会計事務所を中心に財務調査コンサルティングがある程度認知されていたこと、第二次世界大戦中にその後のBig4コンサルティング各社に直結する独立したコンサルティング部門が設立され始めたこと、その中身はシステムコンサルティングが中心であったことなどてす。

21世紀に入りBig4コンサルティング各社は戦略コンサルティング会社を始め、大小様々なコンサルティング会社を買収しサービスを拡大していきます。非監査業務を拡大し巨大コンサルティング会社としても認知されるようになった各社ですが、その直系の出自がシステムコンサルティングであるということを理解していることは、現代の我々がコンサルティング各社のポジションを把握するうえで、一つの手助けとなることでしょう。

最後になりますが、コンサル物語は今後既出記事の見直しやスポットでの記事追加で、非定期ではありますが継続的に更新して行く予定です。

これまで読んでいただいた全ての皆様に御礼を申し上げ、終わりにさせていただきます。ありがとうございました。

(参考資料)
『The World Newest Profession』(Christopher D. McKenna)
『マッキンゼー』(ダフ・マクドナルド 日暮雅通訳)

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