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料理本は心の声に素直なタイトルがヒットする

書店においては、料理本というのは実用書と呼ばれるジャンルに分類されます。
実用書とは、平たく言ったら、ハウツー本のこと。作り方とか勉強の仕方とか考え方とか。
世界的に有名になった「こんまり」こと近藤麻理恵さんの主戦場である収納の仕方もたくさんの種類の本がありますね。アドラー心理学をとてもわかりやすく教えてくれた『嫌われる勇気』は今もベストセラーランキングの常連で、こうしてみると一般的な意味で言うところの「売れてる本」は実用書ジャンルが圧倒的に強いということがわかります。

料理本も毎年たくさんのヒットが出ています

ただ、他の実用書と違って字がぎっしりは敬遠されがちで、「ちゃんと作れ」て「おいしい」が担保されつつも、ゲーム攻略本よろしく調理手順やノウハウが大きな画像と、短くぴしっと明快にまとめられたキャプションでわかりやすく構成された本が最近は大ヒットしています。

そういう本のもっとも特徴的なところは、タイトルがふっきれてること。

例えば、先ごろ発表された料理レシピ本大賞の受賞作品

大賞のはらぺこグリズリーさんの『世界一美味しい手抜きごはん』(KADOKAWA)は、著者さんが「はらぺこ」なクマさんなのに、「世界一」と「手抜き」が同列で。
このクマさんは2017年にも『世界一美味しい煮卵の作り方』(光文社)という新書で大賞を受賞していますが、今回の『〜手抜きごはん』は先行の『〜煮卵の作り方』より判型が大きい分、わかりやすくてキャッチーな言葉がダンスしてるみたいにたくさん表紙を飾っています。
「世界一」とか「最速!」とか「やる気のいらない100レシピ」とか。
どどーんと「手抜き」と迫ってこられると、ネガティブワードだったはずの「手抜き」がポジティブワードになる勢いったら。
そうか、手抜きって言っていいんだ、そうか、世界一美味しいからいいんだ。
そうか、「最速!」だもん、手抜きもオッケーみたいな。

ちなみに、今年3月の発行にもかかわらずすでに30万部超え(と手元の本の帯には印刷されています)。
書店では「料理レシピ本大賞!」の文字がデカデカ目立つようになっているから、発表からちょうど1か月経った今はもっと増刷されたかもしれませんね。
前回の『〜美味しい煮卵の作り方』を加えると累計67万部だそうですよ(twitterプロフィールより @cheap_yummy
編集者としては憧れますです、こういうの。

はらぺこグリズリーさん本は料理部門大賞だけど、お菓子部門大賞はみきママこと藤原美樹さんの『世界一親切な家おやつ』(主婦の友社)。
おお、ここでも「世界一」が目立っています。

「最速!」じゃないけど「速攻」で作れるとうたうのはリュウジさんの『クタクタでも速攻でつくれる! バズレシピ 太らないおかず編』(扶桑社)。
クタクタに疲れてても太らないおかずが作れるんだ! 
いやいやいっそ『料理が苦痛だ』(自由国民社)を読んで、そうだそうだ、私も家人に向かって言うぞ、「もういやだ」って言ってもいいんだ! 
とギルティフリーなタイトルには共感しかないと感じる読者がたくさんいると思うんです。

「私たちは楽して美味しいものを食べていいくらいは頑張っている」

とは、『世界一美味しい手抜きごはん』の腰巻に書かれた文言。
心の底から大声で叫んでいい。
がんばってる私を癒せるのは自分だけ、自分の気持ちに忠実に、本当の自分を大切に。
これ、絶対に担当編集者の声。溢れ出ちゃっていますね。
私、この部分にもぐっときました。お疲れ様です! て。

そんなみんなの気持ちが、世相が、見えてくるのが料理本のタイトル。
じっくり読んでみてください。

ちなみに……。

本のタイトルって、著者がつけたっていうよりも、版元の編集者や営業・販売部の声が反映されて、書店など現場の声を分析して一生懸命考えて、時にはあの言葉、こっちの言葉、これもつけちゃえ! みたいなパズルみたいにしてやっとやっと決まるものなんです。そこには初めの著者の意向なんて微塵も残ってないことも…。
タイトル次第でセールス結果は大きく変わるのはここで書いた通りですから、めちゃくちゃ尖ってるなーと感じたら、きっと営業戦略です。
だから著者に対して「何考えてんだー」みたいな炎上発言をするのは酷と心得ておいてくださいね。むしろ編集の修羅場を覗いたような気分でいていただければ。温かく見守っていてください。鬼のような形相の編集者がものすごくがんばってますから。

ありがとうございます。新しい本の購入に使わせていただきます。夢の本屋さんに向けてGO! GO!