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読みました。『栞をはさんで、離さんで。』

「古びた店内で 有害な煙に巻かれながら (-略-) 自分の居場所はここだ、という気がしてくる」

枝折さんの本が届いた。楽しみにしていたのは、本だけではない。栞もだ。彼女の手作りだという。栞には文章が書かれている。栞は数種類のバリエーションがあるようだ。冒頭の文章が(全文ではないが)栞となっていた。飲食店でまだ煙草が自由に吸えていた頃、ライブハウスでは各テーブルの煙草の煙が薄い雲母のようにフロア全体にたなびいて見えることがよくあった。客は酒を飲み、音楽を楽しみ、我々は生演奏を提供する。そんな少し前の空間はまさに私の居場所であった。匿名配達でお願いしたのに、どうしてわかったのだろう?

枝折さんの作品はどれも共通した世界観がある。それはまるで部屋で揺れるカーテンのように生活に馴染んでいて、いつも当たり前のようにそこにあるかのような、何気ない世界。枝折さんはそんな日々の何気なさの中に、一抹のあやうさを捉えている。明日が確約されていることが、薄氷の上に成り立っていると錯覚するかのような瞬間を切り取った物語。

私はこの中でも『はじめまして、マスター』が好きだ。一行目からその世界にすんなり入れる。そして”マスター”がとても魅力的に書かれている。主人公の女の子の魅力は最後の最後でわかるのだが、数ページのうちに感情移入してしまっていて、つい「こんな展開ならいいな」と思ってしまう。そして、結びは期待を裏切らず、ほっこりとする。

もし少しでも興味があるのなら、ポチリのアクションを取ることをオヌヌメする。本屋さんで個人的に知ることもない作家の本を読むのとは一味違う、それでいて本屋さんで買った本を読むのと同じくらいワクワクするひとときを手に入れることができるだろう。


下記の枝折さんのページから本は買えます。彼女の本製作への思いもお読みになった上で作品を読むと、感慨もひとしおです。


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