今朝の話
リビングからそれはそれは大きなピアノの音が。
驚きで目が覚め、数時間経った今でもあの音を思い出すと胸がドキドキしてしまう。
しばらくすると、透き通った女性の声。
どんなことを歌っているのか、私の部屋からは聞き取れない。気になってリビングに行くと、父が嬉しそうにその歌を聴いていた。これまた目が覚めるような、濃いピンク色のTシャツを着ている。下は紺色の半ズボン。
「いい歌だろ〜。覚えてるか?」
言いながら私にCDケースを渡してきた。見たことはあるジャケット。でも、どんな歌が入っているか残念ながらあまり記憶になかった。おはよう、よりも先に口にするぐらい父はその歌を気に入っているようだ。
確かにとても綺麗な歌。
言葉をわざわざメロディーに乗せる意味はこういうことか…。
と、いったい私は何様かしら。
パンを探しにキッチンへ行くと母が洗い物をしていた。
「いい歌よね。よく車でかけてたの覚えてる?」
いつもなら「もう自分で食器洗いなさいよ」とか「いつまで寝てるの」とか、実家に帰省したときならではの言葉で私をちょこっと叱るのだが、今朝はなんだか穏やかで絵本に出てきそうな”ママ”の笑顔。
よく見ると薄いピンク色のTシャツにグレーの半ズボン。
スムージーできたよ、と3つのコップに注いだそれをリビングまで運んでくれたときに聞いてみた。
「その格好はわざとなの?」
2人とも右に首をかしげる。
「ピンクに半パンはたまたま一緒になったの?」
そしたらなんと、2人とも口を揃えて
「この人すぐ真似するから〜」
と。
まぁ、予想していた通りの答えだが。別にいいや。どっちが先だとかが知りたかったわけではないし。私が起きてからこの会話をするまでの間がずっと、2人が言う素敵な歌が流れているこの空間の中で起きていることがとても嬉しかったから。幸せな気持ちになれる歌は、こんなにも人の心に余裕をあたえるのか…。と、だから私はいったい何様なのかしら。
人生で会いたい人がまた1人増えたな。
沢知恵さん。もし会えたら、幸せな朝をくれてありがとうって言いたい。
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