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創作している瞬間はどんなに疑っても「今」が持ちうるすべて。葬送 感想2

創作している時は、昨日、今日、明日の積み上げられることがとても小さく思えて、それが全てなんだよなぁ…。

「葬送」第一部下を読了したところで思ったことだ。

ドラクロワも、ショパンも、自らの芸術と日常の生活を突き合わせて、瑣末なことも消化しながら長い課題に取り組んでいく。

芸術を追いかけているのに芸術から逃れられないのが、芸術家の宿命だ。

自ら選んでいるわけで誰にも文句を言いたいわけではないが、ぶつける先がないからこそ感情に責任をもってまとめ上げることも芸術家の一部になる。
その重さを引き受けられなければ世間から影を消していく。
批評や大衆の評価は気ままに揺らいでいく。

他人の作品を模倣して誰かの第二になるのではなく、人が見たことのないものを最初に創作することの、終わりなき道のりを追随するかのようだった。

第一部下ではソランジュとクレサンジェの婚約を目指して奔走する若い男女とその母ジョルジュ・サンド夫人家族の生々しい金銭的問題や不動産の話が浮上する。

こうした話題に病弱で繊細なショパンが巻き込まれていくのかと思うと、ショパンという人物は決して「後世の人間から見た作品全集の揃った完全形の姿態」を成しているわけではなく、雑踏のパリ市民の一員であった当たり前のことを再認識させられる。

ショパンとドラクロワ以外の周辺にいる登場人物の緻密な感情描写が埋め込まれているからこそ、主たる彼らに視点が戻ってきたときに血の通っている肉体でこの地上に生きていたんだなとも思わされる。

これらのドラマは決して短くなく、解決してもいないが、第二部に入ると伏線を回収していくように各人のミクロな人生がマクロな時点で展開していく。

結末ではドラクロワによる下院図書室の作品が九年の暁に完成され、漸く…と溜息をついた。

現地で生で観ることができたらと思いながら検索をして小さな画像からドラクロワが高所で描き続けていた姿を想像した。

ここに行き着くまでに自らの筆致を生み出し、疑い、悩み、信じ、貫き通した。

ドラクロワの安堵は、粘り強く暗闇を掘り続けて、列島の巨大な山脈を長いトンネルで貫通しようとする瞬間のような希望の光を感じられた。

続く

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