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垣根をゆるやかに壊す人たち

金曜日の夜っぽく、
ひさびさに小さなおしゃべりのようなコラムを書いてみました



垣根をゆるやかに壊す人たちの話です。

その方はインディーズのバンドマン。
この方の活動を25年ほどSNSやたまにライブハウスなどで軽くチェックしているのですが、そのたび「あらゆる"垣根"を緩やかに壊し続ける人だなぁ」と思ってきました。


「この人、やっぱりとんでもない!!」


と本気で心から思ったのは、数年前、「介助の一環」として車椅子に乗る脳性麻痺の方をボーカルにして数回ライブハウスでライブをしてたのを知った時でした。






この方は長い間介助の仕事をずっとやっているようなのですが、その一環とはいえこんな誰もやってないことを思いついて、しかも実際にやってしまえる人はもうこの人しかいない…と、YouTubeでその映像を初めて観た時にはしばらく口が塞がりませんでした。


その数年後、この方がメンバーを変えて似た形態の「バンド」を新たに組んで企画ライブに参加しました。そのライブを観に行って、私は改めて腰が抜けました。


そのライブは私が人生で計100本ほどライブを観てきた中で5本の指に入るほど、とんでもない現場でした。


とにかく、カオス。カオス。カオス。


そのカオスと一体となって、いろんな常識や垣根を緩やかにダンディーに壊すのを目の当たりにしました。



今日の投稿は、そんな体験のお話です。
※万が一ご本人がこの投稿を見つけてしまったら大変恥ずかしいので色々ぼかします



垣根を壊す現場の様子


場所は都内の、とある人気ライブハウス。
出演バンドは3組。

ここまでは他のライブと変わりません。でも会場に入るドアを開けると、いつものライブハウスにはない光景が広がっていました。


会場中央には車椅子スペースを確保するためのテープが引かれてあり、その周辺に車椅子に乗ったり乗らなかったりの障がい者さんと介助者さんと、たぶん親御さんや仲間たちが集まっていました(迫り来るアウェイ感…)。

ライブの準備が終わりしばらくすると、1組目のバンドが出てきました。


ステージには背もたれが倒れるタイプの車椅子に乗った男性ボーカルさん。

その周りには介助者である前述のバンドマンを含むメンバーたち。



目を丸くしてるうちにライブが始まりました。



痛快なバンドサウンドに合わせて男性ボーカルさんが言葉にならない言葉で歌う。それを観る観客の皆さんも各々のスタイルで拍手を送り、一緒に歌い、踊る。


途中、男性ボーカルさんがMC(=ライブ中のトーク)をするのだけど、介助者バンドマンさんがボーカルさんに抜群のツッコミをしたり、多くの人が聞き取れなかったであろう言葉を要約して観客に伝える。
それを受けてみんなは笑い、さらに笑顔が増え、見守り、応援し、はっちゃけ、楽しむ。踊る。歌う。
バンド演奏が終わると拍手喝采。


2組目のバンドさんも、楽器隊はたぶん同じくまた別の介助者を含むバンドメンバーさん。今度は複数の障がい者さんたちが代わる代わるボーカルを取るスタイル。
このバンドも同じように、歌い、踊り、佇み、楽しみ、MCでは前述のバンドマンが客席からツッコミと要約を入れる。
それを観てみんなも笑顔で、笑い、見守り、応援し、はっちゃけ、楽しむ。踊る。歌う。最後は拍手喝采。

最後の3組目は、このライブコンセプトに共感し出演を決めたギターウルフが登場。小さなライブハウスならではにバリバリにかっ飛ばし、観客と参加バンドメンバーを巻き込み、主催者であるバンドの方に楽曲のギターを弾かせ、一体感ある最高にアガるステージをしてくれた。


その間、出番の終えた人たちは観客席にそのまま残ったり、傍で休んだり、車椅子の上で自分の体調の様子を伺っていたりしていた。それを前述のバンドマン含む介助者さんや親御さん、お仲間さんたちがそっと寄り添う。自分たちも楽しみながら、温かく気を配りながら、鋭く目を光らせながら。

そんなライブだった。



本当は怖かった


このライブに行くのはとても勇気が要りました。

結局、チケットを買ったのは行くと決心できた開催日が迫ったギリギリの日。かつ、当日も本当に開始時間ギリギリまで行くのをものすごく迷いました。


理由は2つありました。
ひとつは、自分が衝撃を受けることはわかっていたから。
もうひとつは、客席で完全アウェイになることがわかっていたから。


結果、本当に、本当に行って良かった。


ライブを観ている時は、

こんなに楽しい空間が他にあるか?
こんなに安心感のある空間が他にあるか?
こんなに何もかもが初めての空間が他にあるか?
こんなに、さも当たり前のような優しさに見える技術の賜物をまとめて見られる空間が他にあるか?

そんな現場に立ち会えたことで、私が無意識につくっていた「垣根」がいつの間にかに緩やかに壊されていたように感じました。


このライブは、ホームな人たちにとってはもしかしたら"ちょっと特別ないつもの風景"だったのかもしれません。
でも完全アウェイな私にとっては、「障害」を取り巻く環境への勝手なイメージを、自分が気づかない間にいつの間にかゆるやかにほどかれた、そんな時間でした。


なんというか、とても楽しかった。


垣根はいつだって自分の心の中にあるし、
垣根を壊すのは時に、カオスの渦中にいる人だ。



名前無きカオス


今の時代、「福祉と音楽の融合」と言えば美しいかもしれない。
でも、そんなつもりでやってない感じが微塵もないのがとてもかっこよかった。


カオスはカオスのまま、
名前もつけず、威張りもせず、実績とするわけでもなく。
カオスのまま、行動できる熱意と意思と技術と仲間と、今を生きる。

「カタチにするには名称が必要なんです」
それも分かるし、私も言う。
理想を実現するために、認知されるために、名称はとても重要だ。

しかし、名前をつけてる暇はない。
認知はされたいけれど、それよりも
誰を何を大切にすべきかに重心を置き、
それを大切な人と共有する方を優先する。

垣根を壊すのは、そんな人たちだ。

小さなライブフライヤーに書かれた開催の意図を熟読してに熱く興味を持ち、これを観たくてここに来て、新しい体験を音と共に最高に楽しんだ。
いつものライブハウスで。
いつもカッコいい人たちの姿を観て。
ただそれだけのことなのかもしれない。


「またみなさんと会ってみたい」と思った。

体力のない私が関われるとしたら、どんな方法があるんだろう。しばらくそんな考えが止まらないくらいには、とてもとてもパンチのある出来事だった。




(おまけ)ライブの感想


最高の「ライブ」でした。

10代からずっと観てきたインディーズのバンドマンさんの演奏を観るのも10年以上ぶりでしたが、今もまあ驚くほど格好良く、年齢を重ね渋い味も乗り、昔と変わらず誰よりも一番楽しそうにめいっぱい演奏していました。格好良かったぁ。

この方のそういう姿や介助者として滲み出る安心感が、始終会場を包んでいたような気もします。

音楽やっている人で昔「格好いい!」と思った人は、時が経ってもずっと格好いい人たちが多い。当たり前ではないと思う。すごいことだと思う。向き合う姿勢なんだろうなと思う。


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