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ポール・オースターが亡くなってしまった

昨日妻と一緒に上野を散歩し、帰りに上野駅の駅ナカの書店に立ち寄りなんの気無しにポール・オースターの文庫本を購入した。なんとなくポール・オースターの小説が懐かしくもあり、久しぶりに読んでみたくなったのだ。

その本は今読み進めている最中なので、まだ感想を書けるような段階ではないのだが、今のところポール・オースターらしいストーリーテリングの妙味があり、楽しく読み進めている。

ポール・オースターという作家は私にとって「青春の作家」の一人である。20代の頃、彼の本を数多く読んだ。新刊の訳本が出ると購入し読んでいた。彼は私の本棚にある数少ないリアルタイムの作家であった。20代の頃は彼の新刊が出るのをいつも心待ちにしていた。

私が彼の本に初めて触れたのは、私が大学1年の年だった。大学のクラスの同級生にサトー君という東京出身の賢い青年がいて、私が小説を読むのが好きだという話をした時、彼はすかさず「ポール・オースターのムーンパレスはもう読んだか?」と私に聞いた。
私は、まだその時ポール・オースターの名前すら知らなかった。サトー君は「ポール・オースターのムーンパレスは僕の青春の小説だ」と言って、私にもぜひ読むように勧めてきた。私は人に勧められた本はなかなか読まないのだが、その時は大学に入ったばかりだったので、新しいものに触れたいという強い願望があったので、すぐに「ムーンパレス」の文庫本を購入し読んだ。

それが私のポール・オースターとの出会いだった。

ストーリーテリングの巧妙さ、奇想天外とも言えなくもない物語の展開、微かに香る「青春」の香り、ニューヨークというまだ訪れたことのない都市への羨望に似た感覚が彼の本には詰まっていた。そして、柴田元幸氏の読みやすく現代的な訳がますますポール・オースターの本を魅力的にしていた。
私は、すぐに彼の小説が好きになった。

学生時代には、文庫化されていた彼の小説は殆ど全て読んだ。それに飽き足らず、新刊が出たらハードカバーでも読んだ。もちろん映画「スモーク」も「ルル・オンザブリッジ」(タイトルこれであっていたかしら?)等の映画も観た。
特に彼が脚本を書いたそれらの映画は、演劇を観ているかのような即興の楽しさ、スピード感と静止画のような静かさがあって、何度も観た。

彼の小説には、私が経験しなかった形の青春があった。私が憧れていた青春があった。もう一つの自分が生きたかもしれない人生のようなものがあった。それは、彼の読者の誰もが持つ感覚ではないかと思う。

そうして、彼の本の世界に浸っていると、自分の生きている世界のどこかにも小説のようなミステリアスで刺激的なドラマがあるのではないかと感じることができるようになった。

昨日、帰宅して早速買ってきた本を読もうとしていたら、ポールオースターが亡くなられたというニュースを妻から知らされた。
もう、彼の新作を読むことができないのかと思うと、私は、私の中のもう一つの世界の続きが失われてしまったような感覚がした。

ありがとうございました。ポール・オースター様。

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