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「強みに基づく業績評価面談と目標設定」の6つの原則と6ステップ

こんにちは。紀藤です。本記事にお越しいただき、ありがとうございます。
さて、本日ご紹介の論文は、「強みに基づく業績評価と目標設定」というタイトルです。

従来の業績評価面談による欠点を考察し、それらを補いつつ、より高い効果を実現できるような「強みに基づいた業績評価と目標設定」の方法を開発し、イスラエルのグローバル企業ソーダストリーム社(家庭用炭酸水メーカーの会社)が実際に導入して、その成果を検証したものとなっています。

フィードフォワードインタビュー(FFI)が、実際にどのように企業において導入され成果につながるのかを、理論的な背景も含めて解説をされた事例紹介のような研究。

ということで、早速みてまいりましょう!

<今回ご紹介の論文>
『強みに基づく業績評価と目標設定』
Bouskila-Yam, Osnat, and Avraham N. Kluger. 2011. “Strength-Based Performance Appraisal and Goal Setting.” Human Resource Management Review 21 (2): 137–47.


30秒でわかる論文のポイント

  • 多くの上司や部下は、人事考課に苦手意識を持っており、また従来の人事考課がもたらすパフォーマンスへのメリットも疑問視される研究もある

  • 今回の研究では、従来の業績評価面談の代替的なアイデアとして、『強みに基づく業績評価(Strength Based Performance Appraisal:SBPA)』を提案する。

  • SBPAは、ポジティブ心理学の研究と業績評価の実践者の声を踏まえて、フィードフォワードインタビュー(FFI)を軸に進める組織的な6つのプロセスである。

  • 本プロセスを実施し、そして部下へのインタビュー調査を行ったところ、上司との関係性の向上、強みの理解、モチベーションやパフォーマンスの向上などが見られた。

従来の業績評価の課題

ソーダストリーム社について

家庭用炭酸水システムの世界最大の製造・販売会社であり、世界30カ国以上で事業を展開している企業です。

この論文の6年前、業績評価プロセスを導入しました。目的は、「1,会社の期待を明確にすること」「2,従業員に業績に関するフィードバックを提供し期待値を設定すること」「3,従業員の弱点と課題を特定し育成計画の基礎とすること」の3つです。

実際に上司ー部下で行われるプロセスは、管理職が業績評価アンケートに回答し、次に部下が自己評価アンケートに回答し、最後にマネージャーは部下と評価会議を開き、3つの長所・3つの短所・目標・次年度の行動計画について話すことをしました。

業績評価に関する課題

しかし、従業員に意見を聞くと、これまでの職場でのフィードバックに関する不愉快な経験が多く語られました。たとえば、

・「業績評価はストレスの多い期間である」
・「フィードバック会議は対立会議である」
・「壊滅的であった」「プロセスは時間の無駄であった」
・「フィードバックは批判に等しく不愉快である」

について述べました。一方、少数派は肯定的な経験もありました。(「私は管理職と対話し、彼/彼女らの期待を理解した」など)

そして、このような結果から、

問題点1:業績評価は業務改善に繋がらない
問題点2:業績評価は人間関係を破壊する

とまとめられる、と指摘しています。

「強みに基づく業績評価(SBPA)」とは?

SBPAの目標

上記の課題も含めて、ソーダストリーム社の経営チームとのディスカッションで、本事例において以下の3つを含めることとした。

1,SBPAは、組織のパフォーマンスと業績の向上に貢献すること
2,SBPAは、従業員の長所に焦点を当てつつも、問題を軽視しないこと
3,SBPAは、業績評価だけでなく「感謝」の意を反映させたものであること

”強みに基づく”とはいえ、業績への向上には資するものであり、また問題も軽視しないというところに実用的なこだわりを感じます。

SPBAの設計のための6つの原則

さて、SBPAの開発には、これまでポジティブ心理学を始めとした知見が含まれており、特に以下の6つの概念がSBPAのプロセスに反映されています。

(1)フィードフォワードインタビュー(FFI)
(2)映し出された最高の自己像(リフレクテッド・ベストセルフ:RBSF)
(3)幸福度調査
(4)強みの開発
(5)ポジティブ:ネガティブ=3:1の原則
(6)Win-Winのアプローチ
(自分も周りもどちらのWinも考える)

それぞれ、これまでの研究者が論文として発表している内容に基づいています。

SBPAの実施プロセスにおける6ステップ

では、上記の6つの原則を含めたSBAP。どのように実際に組織において実践されたのでしょうか? 以下6ステップとして紹介されていました。

STEP1:上司と部下の面談
1,「フィードフォワード面談(FFI)」を上司が部下に対して実施する。
2,「映し出された最高の自己像(RBSF)」について上司から部下へフィードバックする。

STEP2:WEBアンケートへの記入(FFIとRBSF)
・STEP1で行われたFFIとRBSFの内容を、簡単に文書化する。それを通じて部下が職場で活躍する条件を明確化し、それらの条件がどれくらい含まれているかをお互いに評価する。

STEP3:強みの基づく評価の話し合いと目標の合意
・部下の職場での強みを伸ばすためのディスカッションを行う。
・Win-Winアプローチ(自分も周りもプラスになる時)を使って、目標設定を行う。
・上司と部下が共に、部下が強みを開発して活躍するための職場条件を検討し、また強みを新しい方法で活用する方法を1つ以上見つけることとした。その際には、「3:1の原則」を伝え、3つの長所+1つの短所を話し合うこととした。

STEP4:「ポジティブな核となる組織像」を作成する
・このステップではWEBアンケートからFFIとRBSFの内容を収集した。そして「組織の強みを明確にするとともに、改善すべき点を示すこと」を目指した。(組織における強みも、個人の強みと同様、強みにフォーカスすることで自己効力感ならぬ「集団的効力感」を得ることができるとされる)
・その上で、a,組織の強みを新たな方法で拡大する、b,組織の多くのメンバーが認識していない既存の強みを特定する、c,現在使われていない強みを復活させることを目指した。

STEP5:フィードフォワード・パーティーをする
・人事部長より、上司と部下とその配偶者をパーティーに招待した。
・SBPA参加者にFFIとRBSFのエピソードを共有し、自社のよいところを祝福するイベントを行った。

STEP6:上司と部下のフォローアップ面談(6ヶ月後)
・目標の実施状況と、部下の強みが職場でどの程度発揮されているかを評価した。

とのことでした。

上記は全社を挙げた大規模な組織開発のステップにも思える内容です。特にSTEP1~3は上司-部下のSBPAの人材開発のプロセスのようで、STEP4~6は全社を挙げた組織開発のプロセスのように見えます。

よって、6ステップを始める前段階として、この実践プロセスを成功させるためポイントが論文で明確に書かれていました。それは、”経営メンバーとパートナーシップを構築すること(=目標を握る、共に進めることを握る)”とのこと。
うーん、たしかに。当然ではあるものの、管理職も巻き込む組織開発のプロセスは、経営メンバーの協力がなければ、巻き込んだ実施、そして継続もできません。あらゆる組織開発に共通のポイントですね。

SBPAの評価

では、このプロセスを導入したソーダストリーム社では、実際にどのような成果が得られたのでしょうか?

50人の部下にインタビューを行い、その結果をまとめたところ、部下と組織への影響は、それぞれ以下のような回答結果となりました。

◯SBPAが「部下」に与える影響について
・上司と充実した時間をすごし、肯定的な評価を受けた(37%)
・強みに焦点を当てた(19%)
・目標設定と経験から学ぶことの恩恵を受けた(16%)など

◯SBPAが「組織」に与える影響について
・エンパワーメント、モチベーション、パフォーマンスのレベルが向上した(49%)
・期待や目標を設定するためのインフラが確立された(19%)
・部下のニーズをより良く理解できるコミュニケーションが改善された(12%)
・ポジティブなことに焦点を当てることで組織文化が改善された(9%)など

インタビューの定性調査からみた結果だと、「上司と部下の関係性への影響」「モチベーションへの影響」が大きいようですね。(まさに、ポジティブ感情の拡大構築理論のとおりです!)

まとめ

フィードフォワード面談(FFI)を上司-部下間で行う方法については、Kluger(2010)の論文で丁寧に説明されていました。今回の論文では、同Klugerさんが、このFFIを、従来の業績評価面談に代替するプロセスとして、どのように組織に組み込んでいったのか?というリアルなケースであり、参考になりました。

一方、ツッコミをいれるとすると、定性的なインタビュー調査であるため、これらが離職やエンゲージメントなどの定量的な指標に、具体的にどのくらい影響を与えたのかは気になるところです。

また従来の業績評価面談に代替するプロセスとして導入されたとのことですが、SBPAを通じた評価に対する納得性、また従来の業績評価面談を本当に代替することができるのか?、少し気になるところではありました。(音論文の主張から、業績評価面談は良くない!みたいなスタンスになっている気もしました)

しかし、こうしたプロセスは、もっともっと日本での導入されて、事例も増える良いなというのが率直な感想です。できないところ/弱みを見過ぎな日本人ですが、強みや成功体験に焦点をあてることで、個人の自己効力感も、組織の集団的効力感も高まり、挑戦をする後押しにもなるのかもしれない、そんなことを期待させられた論文でした。(ここは私も実践していきたいと思います)

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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