見出し画像

『サバカン SABAKAN』がいざなう、少年時代の懐かしく甘酸っぱい冒険の記憶

『サバカン SABAKAN』という映画を観た。草彅剛さんが「大人になった主人公」を演じていて、そこからの回想劇という形で、長崎で過ごした少年時代の物語が幕を開ける。てっきり観光ガイドに登場するようなお決まりの風景がてんこ盛りなのかと思っていたら、意外や意外、これが全然違った。なんと舞台は80年代の長与町。わたしの出身地でした。。。こう見るとなんと緑に囲まれた場所なのだろう。今でこそ住宅地がひしめき合うようになったと聞くが、わたしが育った頃は確かにこんなイメージだった。交わされる長崎弁のイントネーションが心地よい。そして80年代の家の感じって確かにこんな風だった。今と何が違うのか一言では説明できないけれど、一眼で「わ、懐かしい」と頭より先に心がそう反応してしまった。

ここから少年どうしが「ブーメラン島まで、イルカを見に行こう!」ということになるのだけれど、実は長与出身のわたしもブーメラン島の存在を全く知らず、後からgoogleマップを眺めてみて「ほんとにあるのかい!」と驚いてしまった。故郷の知らないことってまだまだたくさんある。

子供の頃って、坂道を登って一つ丘を越えるだけでもうそれは立派な冒険だったなとつくづく思う。今となってはあの頃の「目的」なんてものはとうに忘れても、坂道がきつかったなということはいつまでも覚えているものだし、あのときどんな友だちと共に歩んでいたのか、友の表情も含めてなぜか覚えていたりする。40歳を超えて曖昧になってしまった思い出もあれば、逆になぜか鮮明になって自身に訴えかけてくる記憶もある。草彅さんの声のトーンが観る者をとてもナチュラルにその回想の境地へと向かわせてくれる。サバの缶詰を空けた時のように、記憶の香りがさっと鼻まで届く。

ふと、ブラウン管テレビから長崎人なら誰もが知る、あの天気予報の音楽が一瞬だけ聞こえてきて思わずニヤリ。いまだに同級生と集まるとこの曲が話題に昇ったりする。あまりに壮大な合唱組曲だったため、子供心にとても怖かったのを覚えている。まさか映画を通してあの曲と再会できるとは。自分の中の懐かしい少年が、むくむくと起き出している感じです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?