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50歳のノート 「スタートアップ泥船航海記〜終わる世界のカウントダウン〜」



◯ 資金ショートで余命わずかとの全社発表

資金ショートの話が全社発表されたにも関わらず他の人から「どうする?」話も無く転職活動をしている気配が無い。
他のチームの社歴の長い人がぽつんと1人辞めるくらい。
え、どういう…? あれは夢だったのか? というくらいだ。
毎月の支出が◯億で売り上げが◯億。前回の資金調達は◯億でもういくらいくら使ってしまったとのこと。普通に足し算引き算をすると最大で滅亡まで一年のカウントダウンである。
なのに「◯億売り上げ目標です!」などと絵に描いた餅を発表している。受注見込みではなくただの目標だ。そしてお客様もいまさら微妙な機能に大金を出す理由が無い。

◯ 会社が空洞化した理由

政治に強い同期入社のYさんによると「組織運用を考えずに採用の頭数を成長の目標にしたから」とのこと。
プロダクト開発にはフェーズの違い(まったくの新規開発、稼働して5年以上経って維持しつつ安定稼働させるなど)がある。
それを無視して当たるか当たらないかわからないプロダクトの立ち上げのたびにガンガン人を社員で雇って行った。
さらに立ち上げフェーズはとにかく作るのが速い人(品質に躊躇なく)が求められるが、安定稼働に入ったプロダクトなのにまだその人たちを維持している。安定稼働の経験値のある人に入れ替えなければならないのに速く作ることだけに特化した人たちを据え置くと「安い速い、まずい」になってしまう。

社員で人の入れ替えは難しい(本当はできるけどなぜかやっているところが少ない)ので業務委託の方にお願いし入れ替え続けるのが定石になっている。
それすらもやっていなかった結果が今になっているようだ。

私でもわかるようなことをやっていなかったのは、お上たちの謎の素人感が伝わってくる。
開発経験や組織運用経験が部分的にしか無かったからでは。
かつて他社で巨大なプロジェクトの一員だったかもしれないが本質を経験していないから再現できない。
けれど彼らは「やっているふう」の見せ方が上手なため中身が無いのに時間だけ上手い具合に溶かされてしまったのだ。

「やっているふう」で実態がないお上たちは他のスタートアップでも組織(とお金と何よりも時間)を蝕んでいるのではないか。
プロダクトが売れてしまえば実態が無くても目につかないかもしれない。
けれど今いる会社では売り上げがしょぼかったので本質の無さがあらわになっている。
社長も含めてなぜこうなったか気づいていらっしゃると良いが…。
「やっているふう」の上手い人たちに上手に思考停止させられているように見える。

◯ エンジニアたちが辞めない理由

そんな中でエンジニアたちに動きが無い。
会社が潰れる前に一度リストラの嵐が吹く想定なのだが、自分たちはまるで圏外と思っているかのようだ。

うっすら不安を匂わせつつ、あるエンジニアに状況を聞いてみるとまだ粘るとのこと。
フルリモートワークかつ裁量労働制の会社がいま少ないとのことだ。コロナが明けていつのまに出社推奨の企業が増えている。
さらにその方はきちんと勤務されているが、だいたいがカレンダーに午前「子共対応」 、夕方「子供の習い事送りお迎え」など、1日のうち10時から16時までしか働かないなどザラだ。(それも毎日である)。
しかも男性である。習い事の送り迎え?お父さんが行かないとだめな何かとは…?
嫁は何をしている…?
そんな人たちが市場より高いギャラなのだ。

時間が長ければ良いという意味ではなく、自分の都合、恣意的な動きが最優先になってしまっている。当然問題が起こったときもなんだか他人事である。
問題の再発防止のための改善など仕事が増えるのでむしろ余計なことである。問題ごとなかったことにしてしまうのだ。
エンジニア天国になっている。それでもプロダクトが売れていれば良しなのだが、そうなってないからやはりこの「個人の楽園スタイル」はダメなんだなと心する。

ただ楽園に終わりが来たらどうするのか?
話をしたエンジニアによると「転職になるかもしれないけど転職に役立つ何某かの爪痕をのこそうとしている」とのこと。
うん、やっぱり恣意的よな、と思う。終わる世界に種まきもなぁ、、というのもあるけれど。

エンジニアたちは時が止まった楽園で過ごして、いよいよとなったらどっか入れるだろうというふうに見えた。
早期退職制度をつくる資金が無いようなのでエンジニアたちが出ていく動線も無いと言えば無いのだった。

◯ 下克上に動き回る雲上お上たち

そんな中で上位のお上たちの動きが活発である。
会社をなんとかしようとしているのかと思いきや、なんと自分たちの出世競争をしていた。
〇〇部門、〇〇チームなど構成要員はそのままで新規の組織名が次々発表された。
きっと実態のない提案をするお上の1人がなんちゃらと理屈をつけて立ち上げたのかもしれない。ありもののラベルを張り替えただけなのだが、なぜかその「新ラベルを統括する席」というものが誕生した。
エンジニアマネージャーの上がCTOだったのだが、エンジニアマネージャーの上に新ラベルの統括マネージャーなるものができるそうだ。
その新ラベル席をめぐって各チームのエンジニアマネージャーたちが活発に動き回っている。
そのうちの1人は「〇〇さんて口だけですよね」と競争相手をdis るうわさまで流している。
「口だけ」は本当のことだったが目的は相手を蹴落とすことだ。
新ラベルの席にいかなる特典があるのかわからないが沈みゆく船なのにのしあがろうとするモチベーションがわからない。

◯ 危機感ゼロの中間お上たち

一方で船の行方と関係なく潰しの効かない面々がいる。PdMとかPMMとかいう人たちだ。
エンジニアマネージャーと同列七日その上なのか位置付けがいまだにわからない。それほどこの会社では何もしていない。
開発を知らず、プロダクトのお客様の業務を知らない人たちである。しかもお客様と直接やりとりするのは別部門なのでそこからの中継御用聞である。「〇〇ができるといいな」という七夕の短冊程度の要求だけ開発に投げてあとはお客様よろしく出来上がりを待っている。

減らされてもいなくなっても全く困らない面々なのだけどご本人様たちはリストラだのどこ吹く風である。
泥船の母船が沈むかもしれないのにそれを憂う気配もない。
同僚のYさんになぜどこ吹く風なのだろうと聞くと「ご本人様がたが自分を優秀だと思っているから」とのことだった。
ほかのスタートアップでもこうなってないことを祈る気持ちだ。

◯ 自分のチームが解散後の未来を描け

世間知らずの職人として生きてきた自分に政治の手解きをしてくれる同僚のYさん。
Yさんから私のチームがゼロになったあとの品質保証の絵を描けという話があった。
え…と面食らう私にYさんは「業務委託も全部切り、社員も半分に減らさないとこの会社は保たない。半年か一年以内にその状況になるからその提案を作っておけ」とのこと。
入社して一年、チームを入れ替えて再生し自分たちがいることで価値が出るんだというところまで進めてきたのに、解体後の価値をどう作るか…。
私すら切られているかもしれないが、その後の未来…。
そして速く作るだけで安定稼働の知見が全く無い開発陣。頭数はいても本質がわからないのでカタチだけなんかやってるふうのお上たち。
うーん。お客様のことを考えるともう他社にプロダクトごと買い取ってもらったほうが良いくらい絶望的だ。
何を提案しろと…白紙の前にうなっている。

◯ 終わる世界が見せるもの

自分のチームの業務委託のひとには潰れるカウントダウンが始まっていることはあからさまに言っていない。けれど全社発表(業務委託の方も全員呼ばれている)では資金ショートの話が発表されている。
正直に言っても彼らにとってはここの現場を去って次の現場に行くだけなのだ。
終わる世界と知ってアンテナが立つと不思議な感覚になった。
自分のチームの業務委託のリーダーから「いやーこれだとチームメンバーのモチベーションが…」と言われる。
以前ならそりゃ大変と浮き足立つが、今や「フカシだな」と気づく。リーダーが自ら仕事をしてない言い訳のカバーにフカシを入れているな、と。メンバーが稀に見るほど優秀なので、それに乗っかってリーダー本人が大したことをしてないことも。
泥船が後三年持つなら彼を入れ替えるべきだが、余命わずかとなると「ああ、もう終わる世界だな」と静かに思って放置する。
(Yさんは彼の行動を評価して「デスノート」を作りコスト削減になったら真っ先に生け贄にしろと入れ知恵する)。

さらに別のチームで私の職種をかじってきた人がマウントを取ってくると、以前はキーッとなっていたが、今や「沈みゆく船でマウントとってどうするんだ?」と相手が珍奇な生物に見えてくる。
沈むことを同じく知ってるはずなのにここで何してるんだろう?

沈みゆく船でお互いがうぞうぞうごめいているだけ。
これが人生の縮図なのかもしれない。
こうやって生きて死ぬとしたら何か嫌だなあ。

ものづくりに熱を込めたり抽象的なことを煮詰めたり。
そんな日々にまた出会いたい。
新しい旅に出る小さな勇気を灯したい。

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