無人島

僕は、大波小波を掻き分けて
大海原の真ん中で
雨に打たれながら
ずっとずっと遠くの島を
幻ではないと疑わずに
泳いで
泳いで
泳いだ

カラカラになった
体はびしょ濡れなのに
声帯からは声をやっと絞りだせた
言葉にならない
いや、できなかった

結局
自ら泳ぎ着けたのか
たまたま流れついたのか
そこは無人島だった

無人島

ひとっこ一人いなかった
何を期待していたんだろう
生き延びたという事実でさえも
奇跡的なことだというのに

つくづく欲深い人間だな

水平線に太陽が沈む

夜が星たちを連れてきた

自分が知り得るあらゆる言葉が浮かぶ

誰も話す相手など居ないのに

小さな頃、祖父と手を繋ぎながら歩いた道や
野の花が風に揺れる様

とりたてて重要だった出来事など思い浮かばなかった

僕は
なんとか起こした火を繋ぎながら
日々を這いつくばった
何日も過ぎた

まだ、生きている

否が応でも研ぎ澄まされていく感覚に
動物としての本能と
途切れることのない思考のうねりに
自分はかろうじてまだ人間なんだと
思い知らされ始めている

なぜ、ここにいるんだろう
なぜ、僕は生きようとしているのだろう

誰一人いないこの島が
今は全てのように思える

星に手は届かなくて
太陽はいつも輝くけれど
日陰をつくってはくれない

海は青くて美しい塩水だ
綺麗な生き物の毒
遠くから見ているだけでは駄目なんだ
ごつごつとした岩場は滑りやすく危険だ
でも食べられる海藻や貝なんかも獲れる
そういうことを学ばなければ
生きられないと
能天気な僕にでも
わかる

この期に及んで神になどに願わない
再びこの海を渡るのかもわからない

もう一人の自分が呟く

"誰か流れ着いたらいいのに"

あれだけ人との繋がりを拒んできた自分の言葉とは思えなかった

もしかしたら、この先
何も望まなくなるのかもしれない

はたまた、この島を見つけたあの日のように
疑わないのかもしれない

ただ僕は賢くなれない

"強い"とはいったい何を持ってそう言われるのだろう

一人きりではわからなかった

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