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資本主義的価値を超えるスーパーマーケットとは –地域に愛されるインフラに–


前回のnoteでは、スーパーマーケットは人々の生活に欠かせない存在として「インフラ」であること、そして「インフラ」として機能するだけではなく今後世の中や人々の購買行動が変化していく中で支持を継続するためには「愛されるインフラへと進化」することが大切なのではないか、と問題提起いたしました。

そしてクレイジータンクは「愛されるインフラへと進化」するためのキーワードとして、資本主義的な価値を超える、を挙げました。これには、売り上げが上がっている、顧客数は安定的に推移している、といった現代のわかりやすい資本主義的価値では “ない” “何か” が必要なのではないか、と考えたからです。


本noteでは、この資本主義的価値を超える何か、のヒントになりそうだと感じた事例を紹介しながら、スーパーマーケットが「愛されるインフラへと進化」する(できる)可能性について考察してみたいと思います。


事例1:世田谷区のスーパーマーケット「信濃屋」


クレイジータンクが独自に研究を進める「信濃屋」。その魅力はただ単に扱う商品ラインナップの魅力だけではないところにあると考えています。

信濃屋研究を進める中で、信濃屋は、本社ビルを構える世田谷区代田という土地への思い入れがあるのではないか、という一つの仮説にたどり着きました。

というのも、信濃屋はいわゆる駅から近いなど交通利便性がよいとは言えない場所にあります。最寄駅の世田谷代田駅からでも9分程度かかります。周辺は繁華街ではなく住宅街ですので、何気なく周辺を歩いていて前を通りふらっと入ってみるという場所でもありません。


信濃屋は、地図上で見るかぎり店舗面積は470㎡弱、いわゆる小規模店舗に該当しています(一般社団法人全国スーパーマーケット協会によると売場面積800㎡未満の店舗は小規模店舗と定義)。つまり、比較的大規模店で駐車場も多数準備しているような郊外・主要幹線道路そばのスーパーでもないわけです。

なぜわざわざこの地で…?という疑問が湧いてきますが信濃屋の歴史を遡ると

昭和05年 東京世田谷代田中原市場にて酒類食品店として開業

と記載があります。代田中原、とは、現在の世田谷代田駅の旧名です。代田中原駅前には「中原商店街」があり、その周辺で信濃屋は開業したと想定されます。

中原商店街 - 下北沢百科

しかし環状七号線(環七)が東京オリンピック開催に向けて整備されはじめたころ排気ガスや騒音等の問題が出たことで、中原商店街(約140軒)は消滅し、現在は2店舗を残すのみ、になっています。信濃屋も昭和26年に、現在の本社を構える代田1丁目へと移転しています。こういった社会発展の傍で、それまでの人々の生活や文化、生業など失われていった時代もまさに信濃屋は体験してきたことでしょう。

また、現在の信濃屋のそばには、周辺住民の憩いの場となっている北沢川緑道という立派な緑道があります。かつては、この世田谷代田一帯は農耕地で、その水路として北沢川は貢献したと言われていますが、その後周辺の宅地化と玉川上水の取水停止とともに死の川と化しつつあったところを、下水道工事で着目、整備されたことで、現在の北沢川緑道が生まれたとのこと。この北沢川緑道を歩いてみると、初めて訪れた人でもその魅力を感じれる豊かな木々草花に恵まれた緑道で、朝夕には、子どもたちが元気に通学する姿もあり、周辺地域への潤いと活力を与える場と言えます。

北沢川緑道

私たちが信濃屋研究をしている中で、令和3年に信濃屋の代表取締役会長を勇退された長井邦雄氏が、この「北沢川文化遺産保存の会」の会長をされていたり、信濃屋が位置する代田自治会の顧問をされていることがわかりました。

長井元会長は、長くこの世田谷代田の地でスーパー事業を営みながら、この場所や人々の生活の変遷を見守ってきたのではないかと伺えます。そこから地域への愛情や責任が自然と育まれ、現在の活動へとつながっているのではないかと勝手ながら想像しました。「地域への貢献や還元」、「地域を良くしたいという想い」。それらは決して資本主義的な価値では説明できないものだと考えます。

しかし、信濃屋へ訪れるお客様たちからは店員さんと「この前買ったお肉はローストビーフにしたんだけどすごく美味しかったわ」といった会話が多く見られます。こういったコミュニケーションは、自然と店員さんのモチベーション向上や売り上げにもつながっているように思えます。決して因果関係は明確にはできませんが、資本主義的価値を超えた「何か」を考えるヒントが、信濃屋にはあると私たちは感じています。


事例2:香川県丸亀市のスーパーマーケット「フジグラン丸亀店」


クレイジータンクがスーパーマーケット研究調査をしていると、とある注目すべき事例を発見しました。それがこちら。

スーパーで実施され地震防災訓練に約300人が参加…

さ、300人!!

地域住民や幼稚園児など含め300人が積極的に参加をするスーパーマーケット実施の防災訓練とは聞いたことがありません。さらに驚いたのは、このフジグラン丸亀店は、この防災訓練をすでに10年近く続けているというのです…

この防災訓練は平日の午前中に実施されていて、その間もちろん通常の営業はせずに訓練にあたりますし、訓練実施までの準備や参加者の呼びかけなど、まさに「通常業務を超えた」仕事が発生しているはずです。まさに「資本主義的価値を超える」ものがないとこのような取り組みを10年近くも続けていくことは難しいのではないかと思います。

それには地域の方々の要望が多く影響していると思います。

(参加者は―)
「フジグランで(訓練が)あるというのを聞いたら、たいてい参加させてもらっている。やっぱりこうやって(訓練に)出ていたら近所の人の顔も見かけたりするので」 

https://news.ksb.co.jp/article/14624905

(川西地区自主防災会/岩崎正朔 会長)
「何もかも行政にお願いというか、『おんぶに抱っこ』と言ったら表現悪いんだけど、そういうところから来ていると思う。まず自分たちでやってみようということが大事。それが防災につながっている」

https://news.ksb.co.jp/article/14624905

地域の方々の想いや期待を、スーパーマーケットも一緒になって、汗をかく想いで取り組んでいることが伺えます。資本主義的価値を超えて、利用や購買といった実利を超えて、本当の意味で「地域に開かれた」スーパーマーケットなのではないかと感じます。

地域に開かれたスーパーであれば売り上げは上がるのか?お客様は増えるのか?

この問いには直接的な因果関係を明確に表すことはできません。しかし今後、社会や人々の生活が大きく変化をしていく中でも、指示される・愛される価値は、資本主義的価値を超えて残っていくのではないかと考えます。その時代がきたときに、あたらしいスーパーマーケットの価値を創り出せるかどうか。そのためのヒントがこういった「資本主義的価値」を超えたところにあるような気がしてならないのです。

フジグランとは株式会社フジ・リテイリングが展開するスーパーマーケット店。株式会社フジ・リテイリングは昭和42年に創業し、愛媛県を中心に中四国エリアでスーパーマーケット事業を展開しています。HPを拝読すると「お客様との参加型の防災訓練を行なっています」との記載はありますが、決してそれを大々的にPRしているわけではありません。


次回noteに向けて

今回フジグラン丸亀店の防災訓練の事例をご紹介しましたが、実際に災害が起こってしまったとき、地域の方々にとってスーパーマーケットはどういった存在になるのでしょうか。

災害時は、ライフライン復旧までの数日、食料や衛生品の調達などが急務となります。まさに、スーパーマーケットはそれら必需品が一番揃っている地域の防災倉庫ともいえる存在ではないでしょうか。

次回のnoteでは、実際に地震災害を体験された方々へのヒアリングを通じて、地域住民にとってスーパーマーケットについてより考えを深めていきたいと思います。

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