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ずるい人

ほんの少しだけ雨が降っていた。
金曜夜のホームは人ばかりで、少しでも目を離すとはぐれてしまいそうになる。行く人と来る人の間に流されそうになったとき、一歩前を行くあなたの紺色のパーカーを掴んだ。気付いているのか、気付いていないのか。そのまま乗りこんだ電車は混んでいて、ぐっと距離が近くなる。目の前のほとんどが紺色のパーカーになる。「楽しかったね」と笑うあなたを見上げると苦しい。ガタン、と電車が揺れる度にあなたはわたしの肩を引き寄せた。
別れ際あなたはわたしの頭に手を置いて「またね」と笑った。恋人がいるあなたはきっとわたしとどうにかなるつもりなんてない。ずるいと思った。紺色の後ろ姿はあの人が待つ街へ向かうホームに消えた。帰り着いた駅はもう傘なしでは歩けなくなっていた。


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