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著作権法の入り口:「著作物」とは一体何か

前回の記事でも触れましたが、過去、今ほど「著作権」に注目が集まっている時代はなかったのだろうと思います。しかし、著作権が気になる皆さんも、「著作権とは何ですか?」と問われると、よくわからないという方がほとんどではないでしょうか。絵画や音楽、写真など、現代は著作物は世の中に溢れています。これまでにも多くの作品が世に生み出されてきています。こうした各種の作品の多くは、法的には著作物として取り扱われ、法的な保護が与えられています。今日は、著作権法の最重要概念であるといっても過言ではない「著作物」を中心に学んでいきましょう。


著作物とはつまり何か・・・「思想や感情の創作的表現」をいう

冒頭に挙げた、絵画や音楽、写真の多くは、創作をした人の思いや気持ちが表れたものであり、著作物に該当する可能性があります。絵画や音楽、写真以外であっても、例えば小説、映画、彫刻、舞踊なども著作物になり得ますし、建築物や地図、プログラムといったものも著作物として保護される余地があります。

そして、「著作物には著作権が発生する」という仕組みになっていますから、対象とする「ソレ」が著作物であれば、自動的に著作権が発生することになります。そうすると、その著作物は、著作権によって保護されるという状態に置かれることになります。

こうした仕組みは、著作権法という法律によって形作られており、以上でお伝えしたことの裏付けでもあります。大切なところなので、少しだけ法律的な裏付けの部分を見てみたいと思います。

上記で、著作物に該当するものというのは例えばこういうものだと、いくつか挙げてみました。実は、ここに挙げたものは、著作権法に例示がされているものになります。あまり複雑でないので条文を載せてみましたのでご覧ください。

第十条 この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
一 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
二 音楽の著作物
三 舞踊又は無言劇の著作物
四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
五 建築の著作物
六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
七 映画の著作物
八 写真の著作物
九 プログラムの著作物

著作権法第10条

言語、音楽、舞踊・無言劇、美術、建築、図形、映画、写真、プログラム・・・なるほど、著作権法には著作物の例が書いてあるのだなということはわかりました。では、ここに挙げられていないものは著作物として認められないのでしょうか。繰り返し「例示」だとお伝えをしているので、お気づきの方はいらっしゃるかと思いますが、上記した10条は、あくまでも例えばこういうものが著作物になる可能性があるよということを書いているものに過ぎないので、必ずこれらのどれかに該当する必要があるわけではありません。「おおむね」と書いてあることからもお分かり頂けるのではないかと思います。

このように、著作権法はある意味親切で著作物を例示しているのですが、却ってそれが原因で、これらのどれかに該当しなければならないという意識を持たれることもしばしばあります。しかし、現実にはこれらの例示に必ずしも当てはまらないやり方で創作活動がなされることは少なくありません。そして、それらが著作物にならないかと言ったら、著作物になり得ると言えます。

一つ例を挙げますと、漫画が挙げられるかと思います。確かに、漫画は著作権法第10条には一言も書かれていません。しかし、漫画が著作物だという結論に違和感を覚える方はそう多くはないのではないかと思います。

漫画については、一説には、イラスト部分は美術の著作物として捉えるとともに、吹き出し等の文字部分は言語の著作物と捉え、美術と言語の著作物というように評するものもありますが、一部の著作物を除き、そもそも具体的に例示著作物のどれに該当するかというのはあまり関係ありません。ですから、単に「著作物」で構いませんし、強いて種類を言いたければ「漫画の著作物」という言い方をしても差し支えないと思われます。


著作物の定義を見てみよう

それでは、著作物かどうかというのは何をもとに判断していけば良いのでしょうか。その答えは著作権法第2条に書いてあります。

第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
(以下略)

著作権法第2条

この規定は、著作権法の中でも最重要の条文と言っても過言ではありません。冒頭に記載しましたが、著作物というのは思想や感情の創作的表現だとされるのは、この規定が根拠になります。では、この「思想や感情の創作的表現」というのは一体どういうものでしょうか。もう少し噛み砕くと、「思いや気持ちを創意工夫を凝らして表したもの」だと言い表せるかと思います。

目の前に広がる絶景を見た時に、綺麗だなあと感じたり、誰かに伝えたいと思ったりしたことがある人は少なくないかと思います。こうした絶景はどうしたら人に伝わるのでしょうか。方法は様々で、写真を撮るとか、絵を描くとかいうことばかりでなく、俳句にしてみるというやり方もあるでしょう。あるいは、曲を作ってみたり、踊りを作ってみたりというやり方もあるかもしれません。

ここで皆さんは、どう写真を撮影をしたら、どう絵を描いたら、どう曲や踊りを作ったらご自身の感動が伝わるだろうかを考えながら実践されることだと思います。考えながら、試行錯誤を重ねながら思いや気持ちを写真や絵、曲や踊りなどを通じて表していくことになります。そこに、著作物としての保護が与えられる根本的な理由があるということになります。

なお、著作物かどうかというのは、作った本人が「著作物だ」と思ったかどうかは全く関係なく、客観的に判断されるものですので、法的評価として著作物でないものは、作った方がどれだけ著作物だと言おうとも、著作物にはならないということは覚えておいて頂けたらと思います。


誰でも著作者になることができる

このことからお分かり頂けるように、生み出された作品が著作物となるためには、何も作り手が芸術家であるとか著名人である必要はないということです。プロであることもアマチュアであることも関係ありませんし、幼児であっても構いません。あくまでも「ソレ」が思いや気持ちを創意工夫を凝らして表したものであるかどうかがポイントになります。そして、著作物を創作する人のことを著作権法では「著作者」と呼んでいます。

この裏返しで、例えば監視カメラ画像や誰が作っても同じになるようなごくありふれた絵は、たとえ著名な芸術家が関与して生み出したものであったとしても、そこにその人の思いや気持ちがまるで表されていないようなものは法律上の「著作物」になりませんし、したがって監視カメラを設置した人やごくありふれた絵を描いた人は「著作者」になりません。

アートの世界では、もしかすると監視カメラ画像やごくありふれたものであっても、そこに紐付けたストーリーやコンテクスト(文脈)次第で「芸術」として受け入れられるかもしれません。しかし、芸術であるかどうかと著作物であるかというのは別の次元のお話になります。


著作物となるには具体的な「表現」であることが必要

また、「表現」になっているかというのも非常に重要なポイントです。とても素晴らしい作品の構想を思いついたとしても、それが具体的な表現になっていない限り、著作物とはなりません。同様に、着想や手法といった表現それ自体ではないものも、著作物とはなりません。

したがって、例えば「ごみ」を用いたアート作品を作るということそれ自体は、あくまでもコンセプトやツールに過ぎませんので、仮にその道の有名人がいるからといって、その手法がその人に独占されるということにはなりません。

具体的な結果としての表現が似ているのではないかという段になってようやく、著作権が及ぶのかどうかということが問題になるのであって、アイデアレベルで共通する程度では、著作権を侵害することにもなりませんし、誰かが独占するということもありません。誤解が多いところでもあるので、注意しましょう。

この点は、特にコンセプトやツール等のアイデアが斬新であれば斬新であるほど、あたかもそれが表現であるかのように捉えられがちで、後発のクリエイターが萎縮しがちなところでもあります。

著作権法は、究極的には「文化の発展」を目指している法律であり、実は模倣それ自体を禁止しているものではありません。絵画にせよ音楽にせよ文学作品にせよ、コンテンツが豊かになればなるほど、それを選択することから楽しむことができるようになります。著作権法は、新たな創作を歓迎している法律であると言えるでしょう。

そして、新たな創作が活発な状況であると、その時代時代によってブームやトレンドというものも巻き起こります。振り返ってみれば、過去に起きた各種のブームやトレンドというのは、実はアイデア部分で共通しているということも少なくないと言えるのではないでしょうか。

確かに、具体的な表現を無断で盗用することは著作権法で許容されてはいません。しかし、表現となる前段階あるいはそこから昇華させたアイデアの部分というのは著作物ではありませんので、ある表現が他人の表現と比較して、仮にアイデア部分が共通していたとしても、それは著作権侵害ということにはならないというのが著作権法の建て付けとなります。


むすびに

ここまで、「著作物」についての入り口のお話をまとめてみました。実際は、問題なっている「ソレ」が著作物であるかどうかというのは、最終的には裁判所の判断となり、時に判断が難しい場合も少なくありません。今回学んだことを活かしつつ、判断に迷われた際には専門家に相談されることが良いのではないでしょうか。

今回もお読み頂きどうもありがとうございました。次号もお楽しみに。


文責:弁理士 伊藤 大地
(弁理士法人秀和特許事務所・クリエイティブサポートチーム)
お問い合わせはこちらからどうぞ:弁理士法人秀和特許事務所ウェブサイト

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