Web3×環境問題を考える 二酸化炭素吸収量の測定における現在地

1,はじめに


二酸化炭素(以下CO2)吸収量の測定は、環境対策全般における重要なテーマです。しかし、この取り組みは専門知識を要するため小難しく、社会一般的にあまり注目されることさありません。また、CO2吸収量測定と言っても目的や、森林、海洋、農地といった地域特性ごとに最適な測定方法が異なるため、その方法は多岐に渡ります。このような背景から、気候変動問題に興味はあるけど、そこで何が行われてるかはよくわかっていないという人も多いのではないでしょうか。(僕もその一人です)

今回は、ReFiプロジェクトにおけるカーボン・クレジット発行の前段階の知識として、森林のCO2吸収量の算出やモニタリングがどのように行われているのかを調べてみました。現在、一般的に採用されている調査方法とその課題点、実用化が期待されてる技術について調べたことを簡単に解説します。

2,主な森林のCO2吸収量測定方法


CO2の吸収量測定方法を大きく分けると、「直接測定法」と「間接測定法」に分けられます。

(1)直接測定法


直接測定法は、環境センサーなどを用いて直接的に測定する方法です。現在は、主に「渦相関法」と言われる地表に近い空気の中にある物質や熱エネルギーの流れを測定して評価する手法が一般的です。センサーが付いた観測タワーを設置して、森林が大気からどれだけのCO2を直接吸収しているかを測定します。大気中の風速とCO2濃度の同時変動を測定することで、CO2のフラックス(流量)をリアルタイムで評価することが可能です。

参考:長期観測を支える主人公—測器と観測法の紹介—[1]渦相関法

メリット:短期間(例えば1時間、1日)のCO2吸収量をリアルタイムで正確に測定できます。日々、季節ごと、または特定の気象条件下でのCO2吸収・排出の変動を詳細に評価できます。

デメリット:測定装置が高価で、操作とデータ解析に専門知識が必要となります。長期間や広範囲の測定は困難で、測定結果は測定地点の近傍の情報に限定されるため広範囲の測定には多くの測定装置が必要になります。

(2)間接測定法


間接測定法は、計算式を使った推定でCO2吸収量を測定する方法です。事前に森林の樹木の体積や密集度を計測し、樹木の成長を踏まえてCO2吸収量を計算します。具体的には、日本では林野庁が公表している『森林による二酸化炭素吸収量の算定方法について』にその方法が定められています。この方法は大規模な森林でも、計算さえできれば測定できるという利点がありますが、あくまでも推定の域を出ません。様々な条件で短時間で変動するCO2吸収量の測定においては正確性に限界があるとされます。

出典:私の森.jp

参考:森林による二酸化炭素吸収量の算定方法について

メリット:長期間、そして広範囲のCO2吸収量を推定できます。大規模な森林でも計算さえできてしまえば比較的簡易に適用可能です。森林の炭素貯蔵量(森林の植物量と土壌中の有機物など)を大まかに把握できます。

デメリット:落雷による倒木や寄生虫の繁殖など予想外の空間変動や天候などの短期的な変化を捉えるには限界があります。推定には樹木の成長モデルや変換係数などのパラメータが必要で、その数値が不確実である場合、推定結果も不確実になります。

(3)どちらがいいのか


直接測定法、間接測定法は、どちらが優れているというものではなく、通常、補完的に用いられるそうです。直接測定法で得た詳細な情報を基に間接測定法のパラメータを調整したり、間接測定法で得た広範囲の情報を直接測定法の測定地点選定の参考にしたりします。このように組み合わせることで、各方法の弱点を補いつつ、より正確かつ包括的なCO2吸収量の評価が可能となります。

3,実用化が期待されるCO2吸収量測定技術

(1)リモートセンシング


「リモートセンシング」とは、人工衛星やドローンから各種センサーを使って地球環境の様々な情報収集を可能とする技術です。CO2吸収量の測定だけでなく、様々な分野で活用が期待されていますが、CO2吸収量の測定においてリモートセンシングの実用化が期待されている理由として、大規模な地域の観測や継続的なモニタリングが可能である点が挙げられます。リモートセンシングを使った具体的な観測としては、2009年に、環境省、国立環境研究所、宇宙航空研究開発機構の3機関が共同で打ち上げた温室効果ガス観測技術衛星「いぶき(GOSAT)」が有名ですが、規模が大き過ぎて実用的ではありません。民間向けの現実的なリモートセンシングとしては、ドローンを使った観測手法が各企業や研究機関で進められています。

出典:マイナビ農業

先に説明した渦相関法を使った観測タワーに変わる直接測定法として期待されるリモートセンシングですが、特定のセンサーの精度や波長解析といった技術的な難しさ、そして、導入や運用のコスト的なハードルの高さがあり、一般的な実用化にはまだハードルがあります。

また、衛星は特定の時間や周期でしかターゲットとする地域の観測できなかったり、ドローンにもバッテリーの問題があることから、常時モニタリングを行いたい場合には制約が生じることもリモートセンシングの課題と言えます。

参考:人工衛星が観測するクロロフィル蛍光を利用した陸域植生CO2吸収量推定

参考:カーボンニュートラルに必要な「森林資源」の再評価 ~ドローン×数学×コンピュータグラフィックスを駆使して森を測る

(2)AIやディープラーニングを用いた高精度な推定


リモートセンシングの課題点を克服する鍵として、AIやディープラーニングが期待されています。環境センサーから取得できるデータは非常に膨大になりやすく、人間がそのデータを確認して解析することは時間的・肉体的な制約がありハードルがあるとされています。そこでAIを使って大量のデータを迅速に解析することで、データの集計、抽出、解釈までのプロセスを効率化することができます。また、低解像度の映像から高解像度映像を生成することや、欠損データや取得が困難な期間の情報を推定し、データの連続性を保つ役割を果たせることから、リモートセンシングの課題点を補完する役割を果たすことが期待されています。

このようなAIを使った環境測定の例として、リモートセンシングではありませんが、SoftBankから販売されている「e-kakashi」が挙げられます。もともと農業効率化の為に販売された商品ですが、環境センサーとSoftBankの独自アルゴリズムを使った様々な環境測定が可能とされています。2020年にはCO2吸収量推定システムを活用した実証実験も行われており、環境分野での利用拡大が期待されています。

出典:PR TIMES

農業AIブレーン「e-kakashi」のCO2吸収量推定システムを活用した実証実験を「YKKセンターパーク」で開始

4,まとめ


現時点で利用されているCO2吸収量の測定方法と、今後の活用が期待されるCO吸収量測定技術についてまとめてみました。

今回リサーチしてみて改めて感じたことは、CO2吸収量の算出や測定は、かなり専門的な知識や技術を要するいうことです。素人だけで正しくCO2吸収量の測定をするのはかなり難易度が高く、基本的には外部の専門知識を持つ企業に協力してもらうのがベターな選択になりそうです。

最後に、カーボンクレジット生産者にとってCO2吸収量の算出やモニタリングはカーボンクレジット発行の大きなハードルの一つと言われていますが、この問題に対してWeb3的な解決方法を考えてみます。
例えば、クレジット生産者に対して外部の企業が積極的に協力したくなるようなトークンのインセンティブを設計したりすることで、カーボンクレジット生産者のクレジット発行のハードルを下げ、カーボンクレジットの市場を拡大していけないだろうかと思いました。

この辺りの仕組み作りは、他のReFiプロジェクトをリサーチする際にも今後注目するポイントになるかもしれません。

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