Aptosの成長戦略を探る -高性能チェーンが見据えるWeb2企業との発展-

1,はじめに


Aptosは、元MetaのDiem開発チームによって作られたレイヤー1ブロックチェーンです。Aptosの最大の特徴はスケーラビリティの高さと、安全性と柔軟性を兼ね備えた開発環境が整えられている点です。スケーラビリティに関しては、1 秒間に理論上10万〜16万の処理を達成するように設計されています。また、Moveプログラミング言語をサポートしていることで、ブロックチェーンエンジニアにとって柔軟性の高い開発環境を提供しています。今回、この記事では、Aptosで採用されているテクノロジーと成長戦略に注目して詳しく解説します。

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この記事では、下記の記事を参考に要約しています。より詳しい解説をお求めの方は、下記の記事を読んでください。

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2,Aptos の特徴: テクノロジーと機能

2-1. テクノロジー: 効率的なコンセンサスと並列処理テクノロジーによる高い拡張性


Aptosがスケーラビリティ問題を解決するために採用している主要な2つのテクノロジー「AptosBFT」と「BlockSTM」を解説します。

AptosBFTは、一言で言えば超高速なコンセンサスアルゴリズムです。コンソーシアムチェーンで採用されることの多い「PBFT」と言うコンセンサスアルゴリズムを、さらに進化させたHotStuffがAptosBFTのベースになっています。PBFTは、高いセキュリティを持つ一方で、ノードが増えると指数関数的にスケーリングに支障が出るという課題を抱えていました。HotStuffは、ノード間の通信を徹底的に減らすことで、この課題を解決しています。そして、この仕組みをベースにしてるAptosBFTも、ネットワーク負荷が極端に低く、高いスケーリング性能を持っています。ちなみに、AptosBFTは、ステーキングを必要とするため、PoS(プルーフ・オブ・ステーク)の亜種であるとも言えます。

また、Aptosは、独自のスマートコントラスト技術を採用しています。BlockSTMはスマートコントラクトのための並列実行エンジンです。トランザクションを順番に処理する必要がある既存のメカニズムとは異なり、BlockSTM は個別のトランザクションを複数のスレッドに分散して並列実行します。これにより、ブロックチェーンの処理速度を大幅に向上させるという仕組みです。

2-2. 言語:Moveを利用して安定かつ柔軟な開発環境を構築


EthereumがWeb3.0ネットワークの主要プレイヤーになるにつれて、"EVM(Ethereum Virtual Machine)の互換性"は非常に重要なテーマとなっています。しかし、EVMとSolidityはセキュリティ面で脆弱であることが知られていて、多くのハッキング事件がそれを証明しています。(監査済みであるにも関わらず起きています)

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また、スマートコントラクトの一部としてSolidityを使用することは、開発後の変更が難しくなり、これも開発者を悩ませるポイントになっています。このような背景から、よりバグが起こりにくく、柔軟性の高いプログラム言語のニーズが高まっており、そのニーズに応えられるMove言語に注目が集まっています。

Moveは開発、テスト、デプロイのプロセスを高速化し、Solidityよりも安定性が高いとされています。これはMoveがアセットの恣意的な発行と削除を防ぐ機能、コード検証を強化するサポート、そしてメモリ管理の容易さ等を提供しているからです。これらの機能により、Moveは開発者にとって信頼性が高く、柔軟な開発環境を提供することができます。

2-3. エコシステム:アプトス財団の支援


Aptosは、2022年10月のローンチ以来、着実に成長を続けています。現在では400万以上のウォレットが作成され、日々50000から100000の新規ウォレットが生まれています。1日の平均取引件数は約50万件で、様々な分野のプロジェクトが立ち上がっています。
特にゲーム分野で注目を集めているプロジェクトがあり、NPIXELのWeb3ゲームプラットフォーム「METAPIXEL」や『グランサーガ アンリミテッド』がAptosで人気を集めています。

とは言え、他の主要なブロックチェーンと比べてAptosまだ小さな存在です。Aptos財団はこの状況を認識しており、ハッカソンなどの資金提供プログラムに取り組んでいます。先日、50以上のプロジェクトに350万ドルを授与するフェーズ1助成プログラムを終え、アーティスト助成プログラムとAptos及びGoogle Cloud Acceleratorプログラムを含むフェーズ2の助成プログラムを開始しました。

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2-4. トークンエコノミクス:安定したインフレ率


Aptos ネイティブ トークン $APT に関する統計情報は次の通りです。

Aptosのネイティブトークンである$APTは、最大供給量に制限が設定されていません。現時点の総発行量は10億3800万 $APTです。そのうち市場流通量2億$APT程で、残りの約80%はステーキングのためにロックされています。(Aptosのステーキングは一定期間のロックが必要)

$APTのステーキング報酬は年間7%から始まり徐々に減少する仕組みです。初期のインフレ率は約5.6%と見込まれ、時間の経過とともに2.6%に低下すると予想されています。初期供給量の50%以上が約2年以内に流通するため、潜在的なインフレリスクが存在します。ただし、$APTのリリース期間は最長10年で、初期インフレ率は他のL1トークンに比べて高くはありません。

3,Aptosの将来のビジョン

3-1. 成長戦略(1):拡張性による未来志向のネットワーク


Aptosはそのスケーラビリティを活かした10億人のユーザーを収容できる未来志向のネットワークを作るビジョンを持っています。イーサリアムやソラナ、コスモスといった他のブロックチェーンは、主要なプロトコルアップデートを多くても年に1回程度行うのに対し、Aptosは高速かつ効率的なアップグレードシステムにより、より頻繁にアップデートを行うことができます。この柔軟な開発環境がMove言語であるAptosの利点です。

たとえば、Aptosはメインネットの立ち上げから8か月間でコア層のアップグレードを含む24のAIP(Aptos Improvement Proposals)を通過しました。これまでにトランザクション実行コストの削減やネットワークスループットを3倍以上に増加させるなどのアップデートを行っています。このように現在進行形でネットワークを進化させています。

3-2. 成長戦略(2):Web2企業の参入を中心としたエコシステム拡大


Aptosは、成長戦略としてWeb2企業の誘致とエコシステムの拡大に重点を置いています。多くの競合レイヤー1プラットフォームがDAppsなどのWeb3プロジェクトの開発を優先するのとは対照的に、Aptosは大企業の参入を中心にエコシステムの発展を目指しています。その目的はWeb2企業の知的財産とユーザーベースを取り込むことです。
資金調達の面では、Aptosは昨年、シードおよびAラウンドで合計350万ドルの資金調達を完了しました。また、Aptosが発行するAPTトークンの51%をエコシステム開発に割り当てると約束していることから、パートナー企業に対してAptos側から十分な資金を提供していると考えられます。

Aptosの主なターゲット市場は「ゲーム」「金融」「メディア&エンターテイメント」「ソーシャルネットワーキング」の4つの主要市場です。現在、MastercardやGoogle Cloudと協力して成長の基盤を築いています。特に韓国市場においては、Hashed、Irongrey、Hybe、YGからの投資と、NPIXELとの重要なパートナーシップを結んでおり、これにより、Aptosはゲームおよびエンターテイメント市場への参入に有利なポジションを築いていると言えます。

3-3. 企業に専用ブロックスペースを提供する長期計画


Aptosのもう一つの成長戦略としては、自社のブロックチェーンをスケールアップ(拡大)して企業に専用のブロックスペースを提供することが考えられます。

Web3への進出を目指す大手企業は少なくありませんが、大きなハードルがあります。もし自分たちだけのブロックチェーンを作る場合、セキュリティや信頼性、データの可用性といったリスクも存在し、開発費用も膨大になります。しかし、独自のメインネットを構築できれば、ネットワーク制御と独自のブロックスペースを持つことができるため企業側にとってメリットもあります。
Aptosは、これらの企業に、時間、コスト、開発リソースといったメインネットの運用の負担を軽減するための有力な選択肢と考えている可能性があります。

4,今後の見通し

4-1. メタピクセルとの戦略的パートナーシップ


Aptosという会社は、韓国のゲーム開発企業であるNPIXELとの戦略的パートナーシップを結んでいます。このパートナーシップがAptosにとってとても重要で、NPIXELが制作したブロックチェーンゲームをAptosが独占的にホストする契約を結んでいます。NPIXELは世界的に人気のあるモバイルゲーム「グランサーガ」を開発した会社で、このゲームのダウンロード数は420万回、収益は1,800億ウォンに達しています。
さらに、NPIXELはAptosのパブリックチェーンに基づくWeb3ゲームエコシステム、METAPIXELを開発しています。その中のゲーム「グランサーガ: アンリミテッド」は、2024年1月に発売予定です。
さらに、METAPIXELは「Pixelcraft」や「Catcha」などのプロジェクトも開発・運営しています。「Pixelcraft」は、ピクセルアートのRPGゲームで、その中のミニゲーム「Knight Survivor」は1日あたりの収益が150万ウォン、平均1日あたりのアクティブユーザーは7〜8,000人を記録しています。これらの成功により、METAPIXELは半年間で加入者数が80,000人に到達し、Aptosエコシステムの発展に繋がることが期待されています。

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4-2. エコシステムの発展は長期的な観察が必要な見通し


Aptosメインネットはまだ始動してから9ヶ月しか経っておらず、インフラ、開発者コミュニティ、ユーザー数など、ほぼ全ての指標で他の主要なL1ブロックチェーンに比べて遅れをとっています。
例えば、イーサリアムのTVLはAptosの615倍、フルタイム開発者数は26倍、GitHubリポジトリ数もAptosの49倍となっています。

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Aptosの今後の課題としては、やはりこの部分だと思います。資本と人材の持続的な流入が無ければ今後のAptosの発展は望めないでしょう。このため、まだまだAptosについては、長期的な発展が求められています。しかし、前述した通り、そのポテンシャルは高く、Web2企業との連携や柔軟なグレードアップにより一気にシェアを獲得する可能性も秘めています。まずは、ゲームインフラの開発ツールが2023年後半に導入される予定であるため、本格的な成長は来年に現れ始めるかもしれません。

5,まとめ


Aptosの特徴や成長戦略を解説しました。Aptosは非常にポテンシャルの高いブロックチェーンプラットフォームではあるものの、まだまだスタートしたばかりのプロジェクトでエコシステムの発展が今後の課題であることを述べました。
個人的には、Aptosが非EVM互換チェーンであることからどのようにエコシステムを発展させていくのか、その具体的なビジョンに興味を持っていましたが、Web2企業との連携でエコシステムを発展させようとしている点は面白いと思いました。特にゲームはWeb3.0でも本丸となり得るカテゴリーの一つだと思うので、この領域でキラーアプリを作れたらプラットフォームとして一気にプレゼンスを高める可能性を感じました。
今後も引き続き、Aptosの動向に注目していきたいと思います。

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