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お家映画 『お名前はアドルフ?』

ブラックなユーモアが光る、大人のための会話劇!
公開 2018年
制作 ドイツ
監督 ゼーンケ・ヴォルトマン

恋人や家族よりも、友達と観たい一本。

あらすじ

ドイツ現代文学の教授シュテファンと国語教師のエリザベト夫妻は、子どもを預けて夕食会を開くことに。招待されたのはエリザベトの弟トーマス、エリザベトと兄弟のように育ったクラリネット奏者のレネ。トーマスの恋人で妊娠中のアンナは女優の卵で、その日はオーディションのために遅れてくることになっていた。
夕食会の席で、トーマスは生まれてくる子の名前をアドルフにすると宣言。批難が集まるも、トーマスはヒトラーを超える人間になれば良いとうそぶく。レネはこれがトーマスの冗談だと気付いたが、シュテファンは真に受けてしまう。険悪な状況の中、アンナが到着。名前についてシュテファンが強く批難したことで、アンナと言い合いになり、そこから大人の喧嘩が発展していく。


上質な会話劇

 子どもの名前を発端に、これまで抱えていたそれぞれの思いが大爆発。様々な真実が明らかになっていきます。場面転換のない会話劇は、どうしても映像的に驚きや山場が作れないので、役者の間が全て。映画というよりも、舞台を見ているような感覚。『お名前はアドルフ?』は、あまりの衝撃に笑ってしまったり、揚げ足取りのような反論をしたり、すごくキャラクターがリアル。そうはならんやろ!という流れなのに、すごく自然に話が発展していきます。役者の表情や動きが、本当に良いんです。私は癒やし系のレネが好きです。

 コメディとして面白かったのもとても良かった。家とか身内だけで、特定の人をちょっとからかいを込めたあだ名で呼んだりすること、ありませんか? バレたら、気まずくてバツが悪くなるような。そういう、身近な悪意とまではいかない悪さの露発が至るところにあって、それがちゃんとコメディ的に昇華されていて。脚本の出来が光る作品です。

現代の問題や意識を顕在化する

 本作はドイツでは観客動員数150万人の大ヒットとなったようですが、これはきっと、脚本が面白いからだけではないのかも。

 育休を取りたがらないトーマスに不満があるアンナ。家のことを手伝わないシュテファンに苛立つエリザベト。男性陣の暴露と怒りの後ろに実はこの2つがずっと見え隠れしています。そして爆発する。

 エリザベトとアンナの不満だけではなく、作中には様々な偏見や無意識の差別心、役割分担が俎上に載せられます。そして、“正しく”落ちないままに次へ次へと進んでいく。解決されないまま、しかし顕在化させていくことによって、さっきまで笑っていたのに、不意にドキリとさせられる。説教臭く説かれないからこそ、ドキリとし、ちょっと気まずくなる。でも、次には笑っている。すごくシニカルな造りです。でも、この鋭さがこの作品をただのコメディではなく、大人のコメディにしています。

大人の友情へようこそ

 酔も回って、まるで子どもみたいな言い合いをして。でも彼らは大人なので、また日常に戻ってく。

 喧嘩するって怖いですよね。もしかしたら、友情や恋人を失ってしまうかもしれないし、自分も傷つくかもしれない。いざしてしまっても、世界は一変してしまうのか、といったら、そんなことはないとわかっているはず。それなのに、やっぱり怖いのが大人の喧嘩。

 喧嘩して、傷ついて、相手を信頼できなくなりかけて。それでも相手の汚い部分を理解して続けていくのが、大人の友情なのかも。そう思える作品でした。

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