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『作家の手料理』より〜鮪とこんにゃくのりゅうきゅう

小説や随筆、または詩歌を読みながら
背景となる場所に行きたくなるのと同じように、
話の中に時折登場する料理を、どうしても作ってみたくなる。
読む側のそんな気持ちを丁寧に掬い取ってくれるそんな本に出会いました。

目次を開くなり、この一冊を編纂されたライターの野村麻里さんの作家や作品選びの巧みさにまず心を掴まれ、順不同にあっちへ、こっちへ、とページを開きたくなります。

大好きな作家や脚本家、その生き方を尊敬してやまない随筆家、食通で名高かった著名人などが、たくさん選ばれていました。

もちろんレシピ本ではありませんから、
作り方も分量も適当で、写真もイラストもありません。
中には他のどなたかに作ってもらっているため、最後まであらましが描写されていないものも。
けれど、それが自由な余白となり、不思議と楽しくてたまらないのです。

料理だから、食べて仕舞えば消えてなくなる。
先生方の提唱された味とあちこち違っていても、
わからない部分は勝手に楽しめばよい。
そんな気楽さがこの本には在りました。

その気楽さも手伝って
私などがおこがましいとは思いつつ、
先生方の大好きだった品を真似して作らせてもらおう、と思うに至りました。

まずは尾辻克彦さん(別名赤瀬川原平さん)の「少年とグルメ」の中の“りゅうきゅうとコンニャク”を。

りゅうきゅうというのは大分の郷土料理で、刺身をごまやネギを入れた醤油風味の漬け汁でつけたご飯のおかずです。
義実家で教わったのは酒と醤油とすりごまのシンプルな作り方で、自身もよく作るのですが、
こんにゃくを加えるのは初めて知りました。
そうなると気になって気になって、やらずにいられなくなった次第です。

こんにゃくは熱湯で茹でてから冷やし、刺身と共に薄切りにします。
醤油とネギで一晩漬ける、とありましたが、九州の甘い醤油でないとしょっぱくなりすぎるそう。昆布を敷き、煮切り酒と醤油を同量割ったもので漬け込んでみました。
翌朝、ワクワクして一口つまみ食い。
おいしい!
特にこんにゃくが、ともに漬けた刺身の風味をまとっていて、食感はつるりんと、心地よい舌触りの後の喉越しで、これが思いのほか良いのです。

せっかくなので、気持ちアレンジさせていただき、酢飯を作って握り寿司風に。

薬味はあるもので、ネギのほか、紫蘇や茗荷もよく合います。
このほか、ご飯にのせて熱い出汁をかけた出汁茶漬けにするのも美味しいです。

りゅうきゅうにこんにゃくを入れるか否かは、大分県内で諸説あるようですが、
刺身のかさましとは思えない味わいでした。

尾辻さんをはじめ、類稀なる文才をお持ちの皆さんが著す料理の魅力が、キラキラと輝いているこの本。
それを一つずつ自分勝手に再現するのは、
えも言われぬ面白味に溢れていました。

これからも、できたらその折々のことについて、作りながら書いてみたいと思っています。

*作家の手料理   野村麻里編(平凡社)


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