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あなたを動かす「パルス」は何?

みなさんは「組織開発」という言葉をご存じでしょうか。

これは企業などが行う人事関連の施策の一つで、従業員のチームとしての一体感を醸成したり、従業員同士の信頼関係を強くすることで、組織としての力を向上するための施策のこと。

日本の会社でいえば、過去から「飲みにケーション」とか「ファミリートレーニング」が一種の組織開発の役割を果たしてきたのかな。日本ではとりわけ飲み会が、従業員同士の関係構築や会社への帰属意識を高めてきた。みなさんの中にも飲み会に多大な時間を費やしてきた人もいらっしゃるでしょう。

ドイツの会社の組織開発は

ただ、僕が働いていたドイツでは、日本の一般的な会社と比べると飲み会の機会はずっと少なかった。

じゃあ従業員同士の交流は全然ないかといえば、そんなことはない。やはり従業員同士の信頼関係やチームとしての帰属意識は、業務の成果や効率にも大きく影響する。それに、日本よりも頻繁に転職することが一般的で、従業員たちからその会社で働き続けたいと思ってもらえる、つまり選んでもらえる会社になることは、会社にとってダイレクトに死活問題につながっている。

そんな背景があって、僕が働いてきたドイツの会社ではいずれもシステマチックに研修や行事の中で組織開発(Organization Development)を行っていた。そのため僕自身も、組織開発の行事に参加する機会がよくあった。

例えば、ドイツで二つ目の会社では、半年に一回の決まった頻度で定例の全社マネジメントミーティングが開催される。そこでは、上はCEOから下は全社の管理職全員までがオーストリアやスペインに集まって、二日半のミーティングに参加。

その中で二日目の午後は、必ず「チームビルディング」と呼ばれるイベントを開催していた。

組織開発 ①チームビルディング

どんなイベントを開催するのか。例えば、

■ 零度に近い気温の中、オーストリアの急流の川へ行ってウェットスーツを着て寒中ラフティング。途中で身長2mのCEOがわざとボートをひっくり返して、そのボートに乗っている10人近くが極寒の中でずぶ濡れになるのがお決まりだった。

■ 登山をして山頂の山小屋でビールを飲んで語り合う。

スノーシューを履いて雪山登山

■ 小さなクルーズ船を借り切って、川下りしながらお酒を飲んで語り合う。

■ バルセロナの海で小さめのヨットに乗ってセーリング競争をしたり、SUP(スタンドアップパドル)に乗ったり。

バルセロナでのチームビルディング中の写真

だいたい年に1回は苛酷な内容のイベントを企画して、もう1回はゆるくて楽しいイベント、という感じで緩急をつけるパターンが多かった。

ということで、こういったチームビルディングは組織開発の典型的な一つの手法。

組織開発 ②リーダーシップ研修

次に、前述の全社マネジメントミーティングの3日目は、リーダーシップ研修と相場が決まっていた。

何をやっていたか、だいぶ記憶が薄れてきたけれど・・

■ たとえば、会社全体のビジョン・ミッション・行動指針などを改めて確認した上で、現在の会社にとっての課題を話し合う。出てきた課題をポストイットに書いて壁にペタペタ貼って、それらをグルーピングして主要なポイントを炙り出して、それに対する対策を考えたり。その際にはみんな「最善の対策はCEOが会社を去ること」とか思いながらも、そこは暗黙の了解で口に出さず、次善の対策について語り合っていた。

■ 「リーダーには信念と自信ある態度が必要」ということで、自分の信念を自信に満ちた態度で大きな声で喋る練習とか。昭和の体育会を現代に焼き直したような雰囲気で、僕は苦手だった。という趣旨のことを帰り道でCEOに言ったら、大ゲンカになったなぁ・・・。

多いパターンは、いろんな立場のメンバーで構成するグループに分かれて、各グループの中で議論して結論を発表することが多かった。そうやってお互いに関係を深めていった。

組織開発 ③自分たちの内面を語り合う

思い出深いのが、一つ目の会社ではじめて組織開発のイベントに参加したときのこと。

その中で、最初にアイスブレーク的な位置づけで、チームで話し合う機会が設けられた。

講師役の人が「自分のパルスは何なのか、グループで話し合ってください」と。

「パルス」とは、一般的には脈拍とか鼓動の意味。でもここでは最初に講師から言葉の定義について説明があり、「自分を動かす源となっている力のようなもの」を意味する言葉として使われた。

なぜこのようなセッションがあるのか?ざっと2つの狙いが思いつく。

一つは、従業員が自分自身のモチベーションを明確に意識することで、仕事をする意味とかやりがいについて、自分の中で明示的に理解できるようになり、それがモチベーションの向上につながる。

もう一つは、同僚同士がお互いに内面を理解し合えることで、相互に関係が深まったり、信頼関係が構築される。それが組織としてチームのチカラを向上させることになる。加えて、同僚たちとそういう関係を構築することで、会社に対する心理的な親しみも湧くだろう。

さて、前置きが長くなったけど、そんなこんなで同僚たちから出てきた言葉が印象的だった。

①スペイン人女性
「家族だわ。家族からのサポートあっての私なの」

彼女はとても子煩悩で、家族を愛している。僕がイメージしているとおりのスペイン人っぽい答え。

②年配のドイツ人男性
「宗教。宗教が僕を律して、そして動かしてくれている」

彼はとても正義感の強い人。理不尽な振る舞いをする同僚に対して、すぐにカッカと頭を真っ赤にして怒っていた。

③営業職のイタリア人
「人に何かを与えること。僕は人のために生きている」

彼はサービス精神旺盛で賑やかな人。これまた僕がイメージしているとおりのイタリア人っぽい回答。

④営業職のドイツ人
「バランスかな。仕事と私生活の両立ほど大切なことはないよ」

何事もそつなくこなす彼は典型的なドイツ人。仕事と私生活は別モノと分けて、それぞれの場で「スペシャルな自分」を目指して輝いていた。

⑤若いドイツ人エンジニア
「目の前に何か問題が起こったら、それを解決する。僕の人生はそれを繰り返すこと」

普段は必要なこと以外は全然喋らない人だから、みんな言っていることのイメージが湧かなかった。思わず誰かが「え?誰か人の問題を解決してあげるの?」って質問。そしたら「いや。僕自身の問題を解決するの」って。やっぱり。

⑥ロシア人エンジニア
「魚釣り」

ということで、みんな個性が表れている答えで面白かった。

ちなみにこの時のイベントでは、こうやって個人個人のパルスを語り合った後は、次にそれぞれ自分が仕事をするときに大事にしていることを語り合った

そして最後のセッションでは、一人ひとりに様々な打楽器が配られた。ドラム、小太鼓、マラカス、シェーカーなど。それらを講師の指揮で演奏し、みんな音は違っているけれど、心を一つにして打楽器を鳴らして、同じリズムをみんなで刻む。

そうやってみんなで心を一つにして同じことに取り組むイメージを、打楽器の演奏をとおして感じさせる。つまり、毎日の仕事っていうのはそういうこと、ということを分かりやすく体感させる研修だった。

ちなみに最後の打楽器のセッションのタイトルは「共通のパルス」と名付けられていた。つまり研修は、個人のパルスを紐解くことから始まって、最後はみんなで共通のパルスを奏でましょう、と。

当時の僕にはあまりピンとこなくてちょっと不思議な体験だったけれど、後から振り返って考えてみると、これが組織開発というものか、と理解できるようになった。

最後に

さて、「あなたを動かすパルスは?」という問いに、当時の僕は何て答えたのだろうか。自分のメモにその部分は書いておらず、もう10年近く前のことなので思い出すことができない。

いま思い返すと、この手のオープンクエスチョンを問いかけられたのは、僕にとってこの時が初めてだったかも。オープンクエスチョンなので、もちろん「正解の答え」が解説されることもなかった。

それでも同僚たちの内面を知るよい機会になり、また自分にとっても、このテーマは常に心の隅に常に置かれることとなった。

さて、あなたを動かすパルスはなんでしょうか?

チームビルディングの後の夕食で

by 世界の人に聞いてみた

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