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W.D.エアハート「あるベトナム帰還兵の回想」刀水書房

愛する国のために命を捧げた一人の青年が、「正義のために」ベトナムで動物を殺すように子どもも女も殺し、地獄の戦争を戦い抜き、1968年テト攻勢、フエ戦闘での負傷で帰還したとき、眼前に現れたのは「帰還兵への不理解」と「J・Fケネディ、ジョンソン、ニクソンの嘘と暴力」そして「自分の無知」だった。

「国防総省白書」を読み、「ベトナム戦争は偽善にまみれた国家の権謀術数であった」という事実が目の前に顕現し、自分がただの「無差別殺人者だった」ことに愕然とし、軍人としてのプライドは粉々に打ち砕かれる。

その衝撃で著者は精神的に追い込まれ、愛人に暴力を振るいだし、仲間ともいざこざを繰り返す日々を過ごすことになる。帰国後の地獄はベトナムの再現でしかなった。

しかし著者はアメリカの負の歴史を知り、大いなる国家の過ちをベトナム帰還兵でしか書けない詩作という形で生を選ぶ事になる。代表作の「ゲリラ戦争」は65語(英単語)でベトナム戦争の現実を鮮明に描き出した。

「そいつは実際、不可能でしかないのさ 民間人とべトコンを区別するなんていうことは。誰も軍服なんて着ちゃいない。みんな同じ言葉を話してる。やつらは手榴弾を衣服の内側にテープでとめ、カバン爆弾を市場で使う籠に入れて運ぶのさ。女でさえ戦う。少年も、少女も。そいつは実際不可能さ、民間人とべトコンを区別するなんて。最後にはあんたも諦めるさ」

アメリカはベトナム戦争によって国家が内部から引き裂かれる結果をもたらすことになった。栄光の歴史に隠された暗黒の歴史や国家的な偽善が明らかになったのだ。

著者はアメリカ建国の歴史に隠された暗黒史、ベトナムの歩んできた歴史を知る。「ああ、なぜ俺に教えてくれなかったんだ??なぜ国は俺達に嘘をつき続けたんだ?」をの怒りがこの著作にあらわれている。

「それは地獄のような恐怖の檻をくぐりぬけていく道のりだった。つまりそこでは、考えられる限りの恐怖と真っ暗闇の悪夢とが、突然、過酷で、冷酷で、絶望的な現実となり、ベトナムの水田地帯とジャングルで初めて抱いた醜悪な疑問点のすべてが、いきなり生々しく無慈悲な言葉で解き明かされ、そして俺が18年間信じてきたもの、その後も(精神的な)痛みと飢えに苦しみながらも4年もの間、必死に信じようとしてきたものが、突如として灰と化してしまったからだ」

「その灰は毒々しく乾ききっていて、息がつまるようなもので、とても呼吸などできないほど濛々と立ちこめていた」

「戦争の恐ろしさを知ることは簡単なことだ。しかし戦争の後始末が如何に困難で、恐怖と痛みを伴うものであるかを理解するのはそう簡単なことではない」

「この戦争は恐ろしいほどに間違っている。俺の愛する国はそのために死にかけているのだ。アメリカはベトナムの水田で、ジャングルで、血まみれの瀕死状態にある。そして今、その血は俺たちの住んでいるこの街まで流れ出している」

「間違い?ベトナムが間違いだって?冗談じゃない。調子のいい二枚舌の権力者達が力ずくでこの世界を造りかえるための計算ずくの企みだったのさ。奴らが俺たちを道連れにして沈んでいったその奈落とは、およそ底なしとしか言いようのないほど深いものだった」

「俺は馬鹿だった。無知でお人よしだった。ペテン師。そんな奴らのために俺は殺人者となってしまった。・・そんな奴らのために、俺は自分の命まで投げ出そうとしていたのだ。奴らにとって俺はほんの借り物の銃、殺し屋、手下、使い捨ての道具、数の内にも入らない屑でしかなかった。ベトナムから戻って何年か過ぎ去り、そうした懸念は膨らむばかりであったが、真実がこれほど醜悪だったとは想像すらできなかった」 

「・・あのいまいましい戦争を考えてみろ。畜生!まだ続いてるんだぜ。連中に勝てる訳がないさ。勝てたなんていままでなかったのさ。しかしあいつら(ニクソンら)、東南アジアをまるごとディズニーランドの駐車場にしてしまうまで人殺しを続けるつもりでいるんだ。何人死んだって、マイク、ここアメリカでは誰も気にかけない。自分達の息子が死体袋で帰ってこない限りずっと続くのさ・・・」

「奴らはまるで幽霊だ。いいかい、これは第二次大戦とは違うんだ。俺達はこちら側、君達は向こう側、ここが両サイドをわける線とはなっていないのさ。・・誰も見分けがつかない。同じ服装で畑を耕してる。出会うのは全部べトコンかもしれない。そうは見えない奴に限って多分そうなんだ。女、子ども、誰もがそうなんだ。地獄さ・・・」

「トラックに向かって食べ物をせがんでいる群れに、小さな固いレイション缶をなげつけると、あの小さなアジア人の目が、まっさらな雪のように白く変わった。小さな口をあけたまま、小さな腕と足を四方八方に伸ばして飛び上がり、缶があの子達の胸や肩、頭で跳ねかえると、小さな身体はサンドバックのように沈んでいった・・・」 

「(交際相手を殴って)やってしまった・・彼女は恐怖を剥き出しにした眼差しで俺を見つめていた・・・・彼女の目は何百という村で何千という顔に俺が見てきたのと同じ目だった・・・」

ベトナム戦争から学ぶことは本当に多い。まだまだ続きそうだ。

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