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059.山手234番館

 ■日本人設計の暖炉付きの震災復興洋館アパート
 港の見える丘から歩いていくと、横浜山手聖公会の先、元町公園を上がるとエリスマン邸の横で山手本通りに出るが、向かいの「えの木てい」の左に見えるのが、1階に円柱が並ぶ山手234番館。

横浜山手の洋館を知る人たちの中でも、この建物が好きだという人が結構いる。理由を聞いてみると、何よりも、集合住宅でありながら、ゆったりした間取りで、こんなアパートなら住んでみたい、という人もけっこういるのだ。
アパートといっても、延べ床面積436.34平方メートル、坪数にして132坪。2階建てで、上下2住居ずつの4戸があり、1戸分が40坪、居間に暖炉がありながら、創建時にボイラー室があり全戸にスチームが送られてヒーティングが完備されているという、日本の住宅にはなかった本格的な住居である。日本人があこがれるというのもうなずける。

改修前の間取り図。40坪のアパートは上下にほぼ同じ間取りで2つずつある。
一つ一つの部屋も広めで、ぜいたくな造りだ。同じ間取りで、各階の両側の住居は
ほぼシンメトリーに作られている(施設配布資料)
改修後の現在のレイアウト。幾つかの部屋は展示、イベント会場として貸し出されている。

 建てられたのは昭和2(1926)年。関東大震災で山手地区も壊滅的な状態になり、ここに住む外国人商社員たちは住む家を失い、神戸などに避難し、住民の数が半数に減ってしまった。そこで、復興事業として外国人用の住居の建設が急がれ、作られた建物の一つがこのアパートだった。
ここに住んだ人の氏名が掲示されているが、中には生糸貿易に携わった商人もいたに違いない。
設計したのは日本人の浅香吉蔵。隣にある「えの木てい」のほかに浅香のデザインになる建物がここに何棟かあったようだが、今はえの木てい1軒とこの建物だけになってしまった。

正面の円柱の裏、居間の外側は、山手通りの面してテラスになっていて、
居間からも出られる。2階のこの部分はベランダ。

 居留地は、長期の借地権契約で外国人に貸していたところなので、復興事業といってもなかなか難しい。復興計画等については行政の協力なしではなかなか難しいと思われるので、横浜市の協力もあって建てられたものであるようだ。設計者が日本人ということからも、発注者が行政だったことがうかがわれる。

■快適さを考慮した合理的な3LDK
居間は当時とは改修されているが、改修前の建物を見ると、1階は左右対称、真ん中に玄関用のポーチがあって入り口のドアがある。真ん中に2階住居用に2つのドア、その左右に1階の住居用のドア。1階はドアを入るとそのまま居間につながっているが、玄関ドアは入ると2階への急な専用階段がまっすぐあった。

2階への階段は玄関フロアーにドアがあって個別に2階の部屋に1本で行かれる
ようになっていたが、いまは折り返しがつけられて2階への共同階段
になっている。黒光りして、手入れの良さを感じさせる。

 1980年代でアパートとしての使用は終了し、平成元(1989)年に横浜市が歴史的景観の保全を目的に取得。平成9(1997)年から保全改修工事を行い、平成11(1999)年から一般公開している。
改修される前の平面図を見ると、上下は同じ間取り、左右が対照的に作られていたようだ。いずれも3LDK。居間から奥に向かって廊下が伸び、その片方に、キッチンと2部屋、片方にボイラー室にトイレ・風呂に使用人部屋がある。暖炉の煙突も共用。
かなりの広さがあり、居間には暖炉がついているという作りは、日本人には夢のような住居だったに違いない。改修前は創建当時のままで、専用のボイラー室もありスチームのセントラル・ヒーティングだったとのことだが、昭和2年にこれがあったとすれば、まさに夢のような家だ。 いずれにしても合理的でありながら住む人の快適さなども考慮した、落ち着いた住居だ。現代の家と思って見てもまったく違和感がない。

表に面した広い居間・ダイニング。天井のアーチ形の梁がユニーク。
右にある暖炉の煙突が右の外壁に出っ張っている。1階。フロアーはほぼ昔のままで、
年代を経ていい色合いを出している。


居間の食器棚と蓄音機
居間から奥に続く廊下。左にキッチンが見える。
キッチンは4畳半ほど。厨房機器は新しいものが入れられているが、レイアウトは昔のまま。面白いのは奥の左に見える縦長の扉。この中に作り付けのアイロン台が立てかけられていて、
開けるとアイロン台が出てくるのである。キッチンでアイロンがかけられるようになっている。

展示室には、昭和初めのころの蓄音機やミシンなど様々な道具が集められていて、蓄音機ではSPレコードを再生して音楽を聴く会なども催されている。暖炉の煙突とボイラー用の煙突など中からではわからない部分は、模型が展示されていて確認することができる。何人かのスタッフが常駐していて、聞けば詳しく説明してくれるのも親切だ。
2階は貸しスペースとして提供されていて、室内楽の演奏会やイベント、各種展示会などの会場として申し込めば使える。






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