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両手いっぱいの檸檬。

両手にいっぱいの檸檬を抱えて、家に帰る。
薄くスライスして檸檬をつけるシロップは楓の蜜でつくりました。

ふたりは同じ部活で知り合い、ショートヘアのあなたは、明るく朗らかでみんなの人気者。

帰り道が同じ方向のあなたとわたしは、電車に揺られます。
あなたはわたしをドアの隅にかばうから、わたしの視界にはあなたしか入らない。電車のドアが開くたびに近づくあなた、揺れる度にドキドキする鼓動、わたしが緊張していたことをあなたは気づいていたのかなぁ?

同じ駅を降りるとふたりで食べる校則違反のアイスクリーム。わたしはストロベリーチーズケーキ、あなたはいつものロッキーロード。甘いご褒美を手に男の子みたいに、わたしの頭をポンポンして、クシャッと笑ってくれるから、この時間がいつまでも終わらなければいいのになぁ。アイスが溶けなければいいのになぁ。

部活の差し入れは檸檬と楓のシロップでつくった甘い飲み物。
あなたがハチミツは苦手だと言うから工夫してつくりました。
あなたの活躍を陰で見守るわたしにも、木々の間に注がれる木漏れ陽の様に優しさを分けてくれました。

どんなにふたりつりあわなくても、どんなにその差があっても、ふたりの心は、いつも同じ。星降る夜空を見上げて、月が照らす顔を見つめ、ふたり笑って過ごしました。

懐かしさに、今も見上げてしまう、夜空に光る三日月を

ふたり別々の道を歩いてきました、互いの気持ちに気づかないふりして。
あの時繋いだ手も、あなたの瞳を覗き込めたのも、同じ部活のただの友達だったから?同じ帰り道、ホームのベンチに座り、帰りたくないと何本も電車を見送ったことを覚えていますか?

切なくて、今もあの頃と変わらない駅のホームのベンチにひとり、缶コーヒーを包みこむ手で温もりを想い出そうとしています。

卒業して、久しぶりに会うあなたの髪が肩まで伸びていました。
好きな人の話をするあなたの声が最後まで聞こえませんでした。
なにげない会話に淋しく想って笑った、もう会えないことに気づいてしまいました。

あの日ふたりの影が夕陽に伸びて「面白いね」と写真に収めた影法師。
「今も、まだ」とだけ言って「さよなら」して電車に飛び乗った。小さくなって見えなくなるあなたの姿、わたしはドアの隅で涙を隠して、小さく泣きました。

檸檬を両手にいっぱい抱えて帰ろう。
楓の蜜でつくるレモネードは甘酸っぱく、わたしの心も慰めてくれるから。
いつも、どんな時も、きっとこの先も忘れない。
わたしの想い出の檸檬。






最後までお読みいただきありがとうございました。


タイトルのイラストは
ユイじょり様のイラストを使わせていただきました。
ユイじょり様ありがとうございました。





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