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こんな本を読んだよ、という感想文の話

お前はやたら読書家アピールしてるにしては、取り上げた本が少なくないか?という疑問を抱く方もいらっしゃるかもしれない。まぁ、1人くらいはいるんじゃないか。いない?それは寂しいな。

私の感想文が少ないのは、シンプルに私がバカだからに過ぎない。高踏的にテーマを読み取り、それを言葉にする能力が無いからだ。じゃあ何で読書が趣味だなんて言うのかって、そりゃ本を読む以外は楽器イジるくらいしか趣味らしい趣味がないからだよ。
実のところ、私の感想文嫌いは小学生まで遡る。読書は好きだった。寝ても覚めても本を、それも漫画でなく小説を貪り読んでいた。
娯楽小説ばかり。
純文学なんて睡眠導入剤でしかない。何が言いたいのか難解で、やたら悩んで、やたら気取った文章で、結局何も起きなかったりして、人の一人二人は奇抜に殺して謎解きせーや!と読み終えた徒労感に本をぶん投げたくなった。
私にとって純文学とはその様なものだ。何の感慨も読み取れないガサツな精神の持ち主の私には、とことん合わない精妙幽玄な世界だった。
また小学校中学校の夏休みの宿題ときたら、推薦図書とかほざいて戦争だのを取り上げて左翼思想で洗脳してくるもんだから、忌避感が半端なく、何を読まされているんだ、とわざわざ購入までしたことを後悔するものばかりのラインナップ。
その千円があれば、角川文庫の山田風太郎の忍法帖が2冊買えたよ!!
私が小学生の頃の角川文庫はとても元気で、横溝正史ブームを巻き起こしたり、山田風太郎の忍法帖を取り揃えたり、「文学?文学で飯が食えるか」と言わんばかりのエンタメ路線をひた走っていた。
その功罪はあるだろうが、面白くなきゃ小説じゃないというハッキリとした態度は、子供心にワクワクしたものだ。
そこへ来て角川映画だ。もう夢中だよ。
『犬神家の一族』なんて学校で逆立ちしちゃ「スケキヨーっ!」とか意味も判らず叫んでいたものだ。
本当に本好きなのかよ、というバカさ加減で哀しくなってきた。
まぁとにかく、感想文を書かなければならない、というのは一種のトラウマとなっている。面白くもない本を読んで、面白がらなければならないのだから、なんと莫迦げた話だろう。
ここで読書そのものが嫌いになるという選択肢もあったろうけど、既に私はミステリーやSFの虜となっていたので、多少後ろめたくも感じつつ、結局は「頭部を切断したのは、重量バランスを取るため」だとか「別の惑星で進化した人類が地球に渡った」だのといった、与太話こそ至上と開き直って今に至る。
可哀想なのは、私の娘だ。
彼女にしてみれば、これだけ本を読んでいるのだから読書感想文なんてお手の物と思うのも無理はない。
彼女が推薦図書から選んだ本は、相も変わらぬ戦争に絡んだ犬の話で、読んでみたのは良いが何の感想も無い、などと困ったことを言い出した。
途中で犬が死んでしまい、可愛そうで読み進むのが苦痛になり、詰まらない本という評価になってしまったそうだ。
しかし私もただ無意味に読書し続けた訳ではない。多少なりとも力にならねば、親の沽券にも関わる。
「詰まんなかった。これじゃ書けない」
「まぁ待てや。どこが詰まんなかった?」
「だって、犬が出てきて可愛いと思ってたら死んじゃうんだよ?」
「それそれ。犬が死んで哀しいんだろ?その気持を書けば良いんだって」
とかなんとか、娘の感想を聞き出し『感想というのは本の面白かった部分だけではなく、詰まらないと思ったなら何が詰まらなかったかを説明すれば良い』ということを、娘に力説した。
それだって立派に感想だ。
娘の中では肯定しなければならないという思い込みがあったのだが、否定するのも立派な書評なのだ。
あれこれ感想を聞き出して箇条書きにし、インパクト重視で冒頭を「私はこの本を読んで詰まらないと思った」と書かせてから、あらすじ、犬の死、何故犬は死んだのか、「賢く可愛い犬も死んでしまう様な戦争はけっして合ってはならないと想う」と結ばせた。この辺は少し誘導したのでカンニングみたいなものだが、何、どうせ教育委員会が読みたいのは、こういう紋切り型の感想なのだ。
「ツマンナイなんて書いていいの?」
「お前の正直な感想なんだろ?構うもんか、書いちまえ」 
酷い親もあったもんだが、娘は娘なりに合点がいったらしく、するすると書き始めると、半日で完成させた。
恙無く提出されたそれは、夏休み明けに娘の感想文はクラスだか学年だかの代表に選ばれてしまい、感想文のコンクールだかに提出することになったようだ。
担任に大幅に朱を入れた原稿用紙を返され、元の文章とは似ても似つかない変貌を遂げた文章を、娘はうんうんと呻吟しながら書き上げて提出していた。
お陰様で娘も私同様に読書感想文嫌いとなってしまった。感想文なんて、読書した楽しさとは掛け離れた、詰まらない作業なのよね。
今後もちょろちょろと書きはするだろうけど、何の考察もない、タメにならない駄文となることは私が受け合う。

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