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よしばな書くもん

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限りなく小説に近いエッセイと、短編〜中編小説のマガジンです。 全く規制はなく長さもまちまちですし、校正がかかってないので誤字脱字もあります(だからここでしか発表できない)。ライブ… もっと読む
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記事一覧

めざめようか

めざめようか

 中学校のときの同級生の伊藤くんが交通事故にあって、植物状態になってしまった。そのニュースはすぐにメールで回ってきた。
 彼の家庭は複雑で、彼には両親がいなかった。お父さんはひとりっ子の彼をお父さんの両親の元に置いていって別の女性と結婚し、そのあと行方をくらましたそうだ。
 お母さんは彼を産んで数年後に若くして亡くなっていた。
 だからずっと父方のおじいさんとおばあさんが彼を育てていた。そのおふた

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下町を歩く

下町を歩く

ニューヨークタイムズから来た依頼で文章を書いたのですが、質問と答え形式じゃなくちゃいけなかったらしく、結果的に没になったのでここに載せることとします。

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「死に触れる」中島英樹さんの新雑誌に寄せた文章。追悼のまえがきを添えて。

「死に触れる」中島英樹さんの新雑誌に寄せた文章。追悼のまえがきを添えて。

まえがき

「吹上奇譚」「ハチ公の最後の恋人」「チエちゃんと私」「どくだみちゃんとふしばな」「BANANA DIARY」、その他にもたくさんの私の本の装丁を手がけてくださったデザイナーの中島英樹さんが脳梗塞で急に亡くなったのは、中島さんが編集長をやる新雑誌を作っている最中のことだった。
そこに私の文章を載せたいと依頼されて書いたのが、下記の「死に触れる」という原稿だった。
〆切はもっと後だったけれ

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よしばな書くもん 6 「炎」

よしばな書くもん 6 「炎」

同級生のデュークが失踪したのは、大学2年生の初秋のことだった。
僕は
就職だとか進路だとか口には出していても、まだ未来は海のように茫洋としていて、ただ流されているだけなのに舵を取ることさえ思いつかず、自分の人生がいつか終わる実感などまるでなかった。
デュークがいなくなったことによって失われた僕の小さな一部分は、最後に残っていた無邪気な子ども時代の懐かしい果実だ。
昨日いた人は今日もいる、離れてもみ

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よしばな書くもん3 「夢でもし逢えたら」

よしばな書くもん3 「夢でもし逢えたら」

父が亡くなったとき、ほんとうは死についてどう思ったのかをもう聞くことができないことに愕然とした。
そんなことは私が生まれてから一回もなかったからだ。
父の感想を聞けない、それは父がもういないということ以上になじめない感覚だった。
生きてないとどっちにしても聞けないんだからそんなはずはないのだが、ほんとうにそうだった。
死んじゃったこと以上に、不思議だったのだ。
逆にそのことで、父が一生してきたこと

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よしばな書くもん2 「豆粒を見逃すな」

よしばな書くもん2 「豆粒を見逃すな」

不倫をする人の気持ちはわからないけれど、私は思う。
きっと不倫って、学生のときのあの気持ちを思い出すから、ときめくんだ。

たとえば高校生のふたり、まだこの世のだれともセックスなんてしていないふたり。
つい最近のことだった。
道で進藤くんとばったり会って、お互いが私服なのがとても新鮮で、うっすら知っているそれぞれの家に向かう分かれ道まで、初めてじっくりとおしゃべりしながら歩いた。今やっているゲーム

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よしばな書くもん1 「ほんとうはデラウェアが」

よしばな書くもん1 「ほんとうはデラウェアが」

私の見た目はちょっと特殊で、とにかく細くて背がひょろひょろ高い。ティム・バートンの映画に出てくるお人形みたいな感じというとよく伝わるのではないだろうか。
目はまん丸で大きく、上も下もまつ毛がびっしり。いつもびっくりしているみたいに見えるねとよく人に言われる。口は大きい。胸はあまりない。筋肉質の体だ。おしりはわりとしっかりしている。
ファッション誌のモデルのバイトはたくさんしたけれど、直そうとしても

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