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【弁護士から見る】ジブリ作品の写真提供の衝撃

1.ジブリ作品の写真の提供が開始!

スタジオジブリが今月からスタジオジブリ全作品の場面写真の提供を行うことが発表された。

使用条件の記載は、あの鈴木敏夫さんの手書きによる「常識の範囲でご自由にお使いください。」とのメッセージのみ。粋だ。かっこいい。

ただこのやり方は、粋でありかっこいいという以外にも、オープンライセンス(※)の取組みとして、なかなか画期的な意義があると感じるところである。
このいわば「ジブリ式オープンライセンス」がどう画期的か、そもそもネット上にアニメのキャプチャ画像などをあげることに関する法的な問題を整理しつつ、少し語ってみたい。

※オープンライセンスとは
「あるコンテンツの権利者が当該コンテンツの使用条件について個別に合意を行うのではなく、『この条件なら使用していいですよ!』という一定のルール・条件をガイドラインや利用規約などで公表し、皆がそのルールに従えば自由に当該コンテンツを利用することができる状態にすること」をここではオープンライセンスという。クリエイティブ・コモンズなどがその代表例。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/クリエイティブ・コモンズ

2.アニメのキャプチャ画像をアップすることの法的整理

まず、議論の出発点は、ネット上にアニメのキャプチャ画像などをあげることは著作権法的に原則NG(違法)であるということだ。
著作権法上の「引用」等が成立すれば適法となる場合もありうるが、厳格かつ曖昧な要件のため、あまり使い勝手はよくない。実際にネットでよく見かける利用で引用としてセーフであると感じるケースはほとんどない。
そして、このネット上にアニメのキャプチャ画像をあげることが原則NGであるとの結論は、権利者の利益を害さないと思われる利用であっても関係ない。
たとえば、非商用利用、SNSのアイコンとして利用、1コマだけのアップ、原作の宣伝になるような態様での利用でも原則NGである。

ただし、法的にはNGだが、上記のような使い方の場合、権利者が黙認(いわばお目こぼし)をしているという例は多数ある(コミケにおける同人誌販売と同じような感じといえばイメージが湧く方も多いだろうか)。

つまり、法的にまとめると、アニメのキャプチャ画像をネットにアップすることは原則NGだが、「普通に」使用している分には、事実上、特に権利者からのお咎めがない場合が多いというのが現状なのである。

3.現状の不安定さ

こうした現状は、ネットにアップする側(利用者側)と権利者側、双方ともを不安定な立場におくものだ。

すなわち、利用者側としては、「権利者からNGと言われるかもしれない、著作権侵害という指摘を第三者からうけるかもしれない(上述のように法的には原則、著作権侵害が成立する)、時には炎上するかもしれない」というリスクを常に背負いながら、アップするか否かを決断しないといけない。
さらに言えば、権利者側(公式)が本当にお目こぼししてくれているのか、たまたま発見されていないだけなのか、実はやめてほしいと思っているがコスト面を考慮し法的措置をとっていないだけなのか、など権利者側の意向は全くわからないのである。
このため利用者側としては、画像のアップに伴うリスク評価がおよそ不可能であり、一般の一個人はともかく、会社のような団体や名の売れた個人が気軽にネットにキャプチャ画像をあげて利用することはできない。

一方、権利者側としても、ある程度ならネット上で利用してもらっていいと考えていたとしても(実際にSNS等へアップしてもらうことは広告効果が見込めることもあろう)、どこまでの利用をOKとするかなどのルールをしっかり決めることは極めて困難である。また、オープンライセンスとしてルールを明確に決め発信する以上、ケースバイケースでの対応がしにくくなるというリスクを考え、なかなか踏み切れないという事情もあろう。

この点、たとえば発表時に話題となった任天堂のゲーム実況ガイドラインが実例として存在する。

ゲーム実況というコンテンツに光を照らす画期的なガイドラインであったが、あらゆる権利者が、また、ゲーム実況という場面に限定せず、ここまできちんとしたガイドラインを策定できるかという問題はなお存在する。

4.ジブリ式オープンライセンスの意義とは

こうした現状の中、上記利用者側の事情(権利者側の意向がわからずリスク評価ができない)と、上記権利者側の事情(しっかりした利用規約やガイドラインをつくるのは大変、ケースバイケースの対応がしたい)との双方を考慮し、一つの新しいオープンライセンスの形を試みたのが、今回のジブリ式オープンライセンスといえるのではなかろうか。

ジブリ式オープンライセンスでは、本来、緻密かつ一義的に決めないといけないと思われがちな利用規約は、まさかの「常識の範囲でご自由にお使いください。」の一文のみである。
したがって、権利者側(ここではジブリ)としては、オープンライセンスへの意向は表明しつつ、今後なされる画像の利用に対しては引続きケースバイケースの対応が一定程度可能となる。

では、利用者側にとってはどうか。
正直、「常識の範囲とは何か、どこまでの利用ならOKか?」は全く明確ではない(よって、これって常識の範囲内で法的に大丈夫ですか?と法律相談を受けても、法的な答えは存在しない。あくまで基準は常識の範囲内かどうかなのである)。
ただ、利用者側にとって、こんな法的に一義的でない「常識の範囲でご自由にお使いください」というメッセージが全く意味がないのかというとそうではない。

利用者側として、上述のとおり、キャプチャ画像の利用をためらう現状が存在したところ、ジブリ(権利者側)が「常識の範囲内であればどうぞ利用してださい!」という公式なメッセージを発したのである。
そうすると、たとえば、非商用目的によるネット上での利用やSNSのアイコンにするなどの軽微な利用、原作の宣伝になるような利用ならおよそ大丈夫だろうという予測が立つことになり、権利者側から何らの宣言もない場合に比べて一定程度、利用できる範囲がクリアになる(これは弁護士として法的に上記の範囲内であればOKと言っているわけではない。我々が一個人として考える常識の範囲内の使用を例示しただけであり、我々が非常識であれば異なる認識となろう)。
なお、たとえば上記のような利用態様であっても、ジブリ画像をアイコンにしたアカウントで公序良俗に反するようなツイートを行いジブリのイメージを毀損するような使い方の場合は問題視されるだろう。
なぜか? ーーー 常識的に考えてみてほしい。

5.ジブリ式オープンライセンスのその先

このように、ジブリ式オープンライセンスは、権利者側の意向がわからずリスク評価ができない利用者側の事情と、しっかりした利用規約やガイドラインをつくるのは大変だしケースバイケースの対応をしたいという権利者側の事情とを上手く汲み取ったオープンライセンスの仕組みと言えるのではないだろうか。
少なくとも権利者側の最低限の意向がわかり、リスク評価が可能となる点や違法行為をしているという後ろめたさを軽減させる点で、コンテンツの自由利用を後押しするものとして極めて有用な手段と思われる。
もしかすると、「常識の範囲でご自由にお使いください」というライセンスは、太古の昔から「和を以って貴しとなす」を得意分野とし、阿吽の呼吸・空気を大切にする日本人にとって、最も使い勝手のいい、扱い易いライセンスとすらいえるのかもしれない。

今回のジブリ式オープンライセンスの形は、今後、「常識の範囲」という議論を巻き起こすものであるが、その議論の中で、時勢に即した「常識的な」利用方法が明確化されていくのであろう。それこそクリエイティブ・コモンズのようなルールが形成され、ネットにおけるコンテンツの適切な利用が促進されればと思う。
そのためにも「お客様とて許せぬ」として、今回公開されたジブリの画像たちが使えなくならないよう常識的な利用を心がけていきたいところである。

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