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エガオが笑う時 第9話 ハニートラップ(3)

 私は、姫様の変装用に身につけていたティアラを投げ捨て、シルクの手袋を外し、ヒラヒラして動きにくいスカートを大鉈で裂いて動きやすい長さにする。
 そして爪先で馬車の床板を叩く。

 タンッタンッタンッタタンッ!

 私は、両手で大鉈の柄の中心を握って垂直に構え、両足の踵と爪先でリズムを刻んで飛び跳ねる。
「チャコ離れて!」
「分かったにゃ!」
 チャコは、敬礼の姿勢を取ると馬車から飛び降りる。そしてオーガ達の足元を身を屈めて潜り抜け、逃げ惑いながらも見物している民衆の中に入り込んだ。
 さすが猫の獣人、とても素早い。
 さあ、これで遠慮はいらない!
 私は、胸と、腰と、足を旋律リズムに合わせて動かし、畝り、回転させ、大鉈を縦横無尽に振り回してサークルを描く。

 タンッタンッタンッタンッ!
 ターンッタッタッタッターン!

武舞踏ダンス!」
 私は、大鉈を振り上げる。
 その刀身に革袋がぶつかり、赤目蜂の蜂蜜が覆う。
 私は、馬車の上から飛び跳ねる。
 オーガが群れをなして襲い掛かる。
 私は、刃の腹を前にし、大鉈を振り下ろす。
 大鉈は、オーガの肩に直撃し、そのまま地面に沈める。赤目蜂の蜂蜜が刀身から溢れ、オーガの巨体を地面に縫い付ける。
 怯むオーガ
 私は、旋律リズムを刻み、大鉈を縦に、横に、斜めに振るう。
 オーガ達は、私に拳を振るい、足を蹴り上げ襲い掛かるも私の旋律リズムに乗ることが出来ず、全ての攻撃が宙を叩く。
 大鉈の一撃を肩に、腹に、足に食らい、そして地面に、壁に縫い付けられる。
 刀身から蜂蜜が無くなるとすぐさま、革袋の球が飛んできて刃を黄金色に染める。
 遠くの屋根の上ではイリーナが木剣を振るい、ディナが蜂蜜を詰めた沢山のお手製の革袋の球を風の力で宙に浮かせていた。森と共に生きるエルフの血を引いてる為に僅かだが風を操る力があり、球を宙に浮かせていた。
 サヤは、いつもの眼鏡を外して長い木の棒を弓矢のように構えて私に標準を合わせ、イリーナに狙うべき方向を指示していた。何でも母が狩人の一族で子どもの頃から狩りに連れ出されて弓矢の技術を学んだそうだが「野蛮なことはしたくない!」と言ってその技能を封印していたらしい。
 そしていつの間にか合流したチャコがサヤの両肩に自分の手を置いて指を動かしている。ピアノの調律師の娘であるチャコは音感が抜群で私の武舞踏ダンスのリズムを掴んでサヤの補助をしている。
 単純に凄い!
 4人の総合的な技能を合わせればメドレーの戦士達なんて足元にも及ばないかもしれない。
 しかも、オーガへの感染対策予防も何度か教えるだけで身につけることが出来た。
 私は、彼女たちを信頼し、戦いに身を置くことが出来た。
 私は、旋律リズムに心と身体を浸し、足を動かし、大鉈を振るう。
 視界を狭めず視野を広く持ち、最大限の手加減をして蜂蜜に染まった大鉈を振るう。
 刃は、ぶつけるだけでいい。
 後は蜂蜜が動きを封じてくれる。
 私は、次々に襲いくるオーガを次々に地面に、壁に叩き伏せ、縫い付けていく。
 紫電が舞う。
 私は、旋律リズムを変えて反射し、紫電を全て避ける。オーガ達が巻き込まれ、感電する。
 私は、大鉈を振り回しながらマナの上に立つヌエを睨む。
 そして訝しむ。
 弱い・・・。
 あの時の紫電に比べて威力が遥かに弱く、受けたとしても痺れる程度であったろう。
 オーガ達がダメージを受けないようにしてる?
 しかし、私はそれ以上、そのことに思考を向けていられなかった。
 オーガ達は蟻の群れのように溢れてくる。
 街道から、家の隙間から、そして屋根の上から・・。
 私は、蜂蜜に濡れた大鉈を振るい、オーガ達の動きを封じるも倒した数よりも出現する数の方が圧倒的に多い。
 本当に国民全てが感染しているのではないかと錯覚を起こすほどに。
 ヌエもマナもこんなに近くにいるのにこれでは近づくことすら出来ない。
 刀身から蜂蜜が消える。
 しかし、蜂蜜を補充する為の革袋の球が飛んでこない。
 私は、視線のみを4人組の方に向け、絶句する。
 私は、4人組のいる屋根の上にオーガが数体が現れ、襲い掛かろうとしている姿が見えた。

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