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『 フィーバーロボット大戦~アンタとはもう戦闘ってられんわ!~』第1話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】

あらすじ
 時は21世紀末……地球圏は未曾有の危機に瀕していた。人類は官民を問わず、ロボットの開発・研究に勤しみ、なんとかこの窮地を脱しようとしていた。
 そんな中、九州の中小企業である二辺工業の敷地内に謎の脱出ポッドが不時着した……。
 爆笑必至の新感覚ロボットバトルアクション、ここに開戦!
※「戦闘って」は「やって」と読みます。

本編

 ある春の日の朝、九州、長崎県の佐世保市郊外にある『(有)二辺(ふたなべ)工業』の正門を一人の女性が文句をブツブツと言いながら開けた。
「何が掃除は皆でやるから素晴らしいや……朝の掃除、最近ほとんどウチ一人でやってるやんけ……」
 文句は言い続けているが、手際よく開門を終わらせた茶髪を短く後ろでまとめた女性は、さっさと次の仕事に取り掛かろうと、倉庫方面に歩いていった。海沿いにあるこの会社には、時折気持ちの良い潮風が吹く。何度目かにして、わりと強い風が吹き付けてきたことによって、女性も青空を仰ぎ見る余裕が出てきた。
「あ~本日も晴天なり! って感じやな。まさに雲一つ無いとはこのこと……ん?」
 女性が視界に奇妙なものを捉える。はじめは雲かと思っていたが、かなりのスピードをもって、この二辺工業の方に向かってきているのだ。
「敵襲⁉ いや、それならなんぼウチの会社のオンボロセンサーでも感知するはずや!」
 女性は後ずさりしながらも徐々に近づいてくるその物体を凝視した。
「鳥? 飛行機? いや、あれは……」
 その物体が白い球体であると認識した女性はこう確信した。
「脱出ポッドか⁉ ってこっちに来る!」
 女性はその球体の進行方向の延長線上に自分が立っていることに気付き、慌ててその落下予想地点から離れた。そして約数秒後、凄まじい衝撃音とともに、球体が地面に落下した。
「いや……何なん? ……ん?」
 球体は落下したものの、そこで止まる訳ではなく、もう一度バウンドするような形で宙に舞った。そして、何故か女性の方へと向かってきた。
「いやいや! 嘘やろ⁉ ちょっと待ってって!」
 半分パニック状態になりながら逃げる女性。球体は何度か地面を転がった後、女性の目と鼻の先でようやく止まった。
「はあはあ……し、死ぬかと思ったわ……」
 女性は腰の抜けた状態でその場にへたり込んだ。しかし、やや間を置きながらも、なんとか立ち上がり、現状の把握に努めた。警戒しながら、球体に近づいていった。
「やっぱり脱出ポッドか。見たこと無い型やけど……一体どこのロボットや?」
 するとそのポッドが煙を吹き出し、中央の部分がゆっくりと開き始めた。女性は咄嗟に近くに転がっていた竹箒を手に取り、身構えた。
「……! 所属と氏名を! ……って、えええええ⁉」
 女性は驚いた。ポッドから姿を現したのは精悍な体付きをしたフンドシ一丁の男だったからである。男はフラフラとポッドの外に出ると、2、3歩程歩いて、その場に倒れ込んだ。
「だ、大丈夫⁉ ……ってかアンタ誰なん⁉ 何で半裸なん⁉」

 それから数日後……そこには作業服に身を包んで元気に働く青年の姿があった。青年の名前は疾風大洋(はやてたいよう)。年齢は二十歳。以上である。……というのも、それ以外の情報が全く分からないからである。青年のフンドシに挟まっていたIDカードによって、名前と生年月日は判明したのだが、その他の個人情報が殆ど謎に包まれている。大洋の搭乗していた脱出ポッドによる落下に見舞われた、長崎県は佐世保市にある中小規模のロボット企業、『有限会社 二辺工業』の社員が個人データの照会を試みたが、それでも分かったのは、大洋が『西東京工業高校』のエンジニア科を二年前に卒業したということだけである。高校にも大洋について問い合わせをしたが、驚くべきことに大洋の個人情報はほぼ抹消されており、入学年と卒業年しか分からないということだった。
「怪しさ120点満点やな……」
 作業に勤しむ大洋の姿をぼんやりと眺めつつ、紙コップに注いだアイスコーヒーを飲みながら、茶髪の女性が呟いた。この女性の名は飛燕隼子(ひえんじゅんこ)。先日のポッドの落下事故に危うく巻き込まれそうになった女性である。そんな隼子の後頭部を大男が小突く。
「痛っ! いきなり何するんすか、大松さん!」
「なーにを堂々とサボってると?」
 この大男は、大松裕也(おおまつゆうや)、この会社のチーフメカニックである。
「そんなに気になるとね? あの色男が?」
 そう言って、大松は大洋に向かって顎をしゃくった。隼子が慌てて否定する。
「いやいや、そんなん違いますって……まあ、気にならへんと言えば嘘になりますが」
「ほう……」
「だって気になりませんか? 個人情報はほとんど分からへん、乗っていた脱出ポッドも形式番号を照会してみたけど、該当する機体データ無し! その正体に関する、手がかり一切無し! 怪しさが服着て歩いているようなもんなんですよ、あの男は!」
「……まあな」
「一言で片付けんといて下さい! そもそも先日の落下事故も軍どころか警察・消防も一切動いてない! あれだけの衝突音や落下の衝撃があったのに! この会社が町外れにあるとはいえ、目撃者の一人も居ないって、おかしいでしょ!」
「常識的に考えれば、アイツの身を医療機関などに引き渡すべきではあるとね……」
「そう! そうなんですよ! ただ実態はどうですか⁉」
 隼子は会社の作業服を着て、立ち働く大洋を指し示す。
「……エンジニアの腕はなかなか良いモノを持っていると。こんな九州の中小企業ではまず望めない人材が加わってくれたことは心強いばい。人柄も気持ち良か男で、もうメカニックチームの連中とはすっかり馴染んでいるとね」
「~~! しかし、よくウチの社長が許しましたね?」
「社長は最近占いに凝っているそうたい」
「は? 占い?」
「そう、タロット占いか何かは知らんけど、占いの結果、今回の大洋の落下を我が社の『吉兆』と捉えているみたいやね」
「なんぼなんでもポジティブに捉え過ぎでしょ……」
 頭を抱える隼子を再び大松が小突く。
「サボってないで、シャキシャキ働くとね! ほらそっちの資材ば第二格納庫に運べ!」
「……ウチ、パイロットなんですけど……」
「パイロット見習い、やろ? 今はとにかく人手が足らんばい、頼んだとね!」
「ぐぬぬ……」
 隼子が不満気な表情をしながら、資材の乗った荷台を押そうとするが、これが予想以上の重さだった。
「ちょ……大松さん、これ重過ぎますって……」
 隼子が振り返って抗議したが、既に大松は別の場所に行っており、居なくなっていた。他の皆も忙しく動き回っている。大松の言った通り、この時期に人手不足という事情は隼子も理解はしていた。そこでやむなく荷車を押すが、さすがに女性の細腕では難儀する重さである。それでも意地で十数歩程は進んだが、堪らず音を上げた。
「かぁ~! やっぱ無理やって!」
「飛燕さん、代わりましょう」
 突如声を掛けられた隼子が驚いて振り返る。そこには大洋の姿があった。
「あっ……」
「これをどこに運べば良いんですか?」
「あ、あっちの第二格納庫や。お願い出来る?」
「お安い御用です」
 そう言って大洋は軽々と荷車を押し始めた。置き場所を教える必要性があると思った隼子は慌ててその後を追いかけた。
「……じゃあ悪いけど、その辺りに並べてもらえる?」
「分かりました」
 大洋は手際よく、荷車から資材を下ろしていく。数時間はかかるかと思った作業が十数分で終わったことに隼子は喜んだ。
「いや~お陰で助かったわ。ホンマにありがとう。これお礼のアイスコーヒーな」
「あ、ありがとうございます。いただきます」
 大洋は隼子から紙コップを受け取った。一口飲んで、隼子に尋ねる。
「あ、あの、飛燕さん、質問しても良いですか?」
「ん? 何?」
「ここ数日、この会社は随分と慌ただしいですが、何かあるのですか? トラック等も頻繁に出入りしていますが……」
「ああ、それは毎年恒例の『ロボットチャンピオンシップ』、通称ロボチャンの長崎県予選に参加するためや。大会の会場にロボットを移送したり、諸々せなアカンことが一杯あるから、この時期は皆てんてこまいやねん」
「ロボチャン……ですか?」
「え、ロボチャン知らんの⁉」
「何となく聴いたことはある気がするんですが……すみません、思い出せません」
「いや、別に謝らんでもいいけど。そっか~記憶喪失って難儀やな~」
 隼子は空になった荷車に腰を掛けて大洋に説明を始めた。
「ロボチャンは防衛軍やら、政府や大学等の研究機関やら、さらにはウチみたいな民間企業まで、数多くの組織・団体が参加して、各自の開発したロボットの性能を競う場なんや」
「性能を競うというのは?」
「色々な部門があるけど、最も盛んで、尚且つウチの会社も参加するのは『戦闘』部門やな」
「戦闘……」
「そうや、ガチンコで相手のロボットと戦って、相手を戦闘不能に追い込んだら勝ちや!」
「最も盛んと言うのはどれくらいの規模なんですか?」
「う~ん、九州地区だけでもざっと20~30組は参加するんちゃうかな」
「そんなに⁉」
「そうやで……あ、これ見て!」
 隼子は自分の持っていた小型タブレットから今回のロボチャンの公式プログラムを映し出して大洋に見せた。何故か得意気に胸を張る隼子。大洋は少し躊躇いながら口を開く。
「飛燕さん、もう一つ質問しても良いですか?」
「え、うん、ええけど」
「何ゆえにこんなにも多くのロボットが作られているんですか?」
「あ、そこから? 記録によると高校は出ているみたいだから、その辺の事情も把握しているかなと思ったんやけど……」
「座学で様々な講義を受けたという記憶はおぼろげながらあるんですが……」
 大洋が何だか申し訳なさそうに頭を掻く。隼子はその様子を見て思い付いた。
「よっしゃ、疾風くんもそこに座り! 隼子先生による即席授業や、科目は『5分で分かる21世紀の歴史』や」
 いつの間にか、何処からか調達してきた白衣を羽織り、度なしの眼鏡を掛けた隼子が指し棒を片手でポンポンとしながら授業を始めた。
「世は21世紀初頭、人類はこの新たな世紀はきっと希望と平和に満ちあふれた世紀になるだろう! ……と皆が思っとった。しかし、蓋をあけてみると、テロ活動の頻発、国家はそれを鎮圧するために、軍隊を出動させる。各地で規模の大小を問わず戦争や紛争が続いた。そうこうしている内に未曾有の天変地異や全世界規模のパンデミック発生や! それまでの人類の築き上げてきた社会が大きくぐらつき始め、人々は不安と苛立ちに駆られた。数年かかってそのパンデミックも何とか収束……しかし、人類には再び厳しい試練が襲い掛かってきたんや。」
「厳しい試練?」
「2030年代に入ると、天変地異の影響によるものなのか世界各地で巨大怪獣が出現するようになった。巨大な獣たちは世界中で破壊の限りを尽くして暴れまわり、人類を恐怖のどん底に突き落としたんや。」
「巨大怪獣……」
「対立ばかり繰り返していた人類もここにきてようやくまとまりはじめ、新たに発足した『地球圏連合』、通称、連合の軍が、当時最新鋭の兵器・武器を結集して、暴虐な獣たちを次々と駆逐することに成功したんや」
「凄いですね」
 感心する大洋に対して隼子は首を振る。
「……それは終わりではなく始まりでしかなかったんや……」
「え?」
「それまでオカルト雑誌のネタに過ぎんかった、ムーやアトランティス、レムリアといった海の底深くに沈んでいた巨大大陸が突如浮上。その巨大な大陸には大小様々な部族が居住していた。連合は便宜上、そのものたちを『古代文明人』と呼称。古代文明人はそのほとんどが人類に対して友好ムードやったが、いくつかの過激派と見られる勢力が連合に対し、宣戦を布告してきよった」
「ええっ⁉」
「奴らは人類を凌ぐテクノロジーを有していて、中には巨大怪獣を自由自在に操る部族もいた……更に泣きっ面に蜂というしかない状況が人類を襲う」
「ま、まだ何か……?」
 隼子が指し棒で上を指し示す。
「異星人や」
「異星人⁉」
「まだ月にも満足に行けないような状態だった人類にとって、文字通り宇宙から降ってくる異星人の軍隊は脅威そのものやった。中でも一番の脅威やったのが、異星人の操る機動兵器、通称『ロボット』や」
「ロボット……」
「人型やったり、獣型やったり、そのタイプは様々やったが、連合の所有する兵器ではなかなか太刀打ち出来んかった……しかし捨てる神あれば拾う神ありとでも言おうか、それとも敵の敵は味方か、古代文明人がその優れたテクノロジーを人類に提供してくれたんや」
「おおっ!」
「さらに異星人も一枚岩ではなかったようで、一部の戦力が離反。連合と同盟を締結することとなった。異星人側からも様々な技術供与があって、人類のロボット開発や宇宙開発は僅か数年で飛躍的な進歩を遂げた。こうして、人類は古代文明人の操る怪獣や、異星人の操縦する機動兵器に対しても、互角以上に戦えるようになっていった」
「それで倒したんですか⁉」
 興奮気味の大洋に対し、隼子は静かに首を振った。
「穏健派の古代文明人たちが形成する国家群はそのほとんどが『地球連合』の傘下に加わった。しかし、一部の過激派の古代文明人たちはしばらく鳴りをひそめている」
「鳴りをひそめているというのはつまり……」
「いつまた人類に牙を剥くか分からんっちゅう話しや、現にここ数十年で地底や海底にひそんでいた勢力が何回か地上に対して侵略を仕掛けてきた話もある」
「まさか……異星人も?」
「察しがええな、月面に基地を建設したのを皮切りに、多くの宇宙コロニーが衛星軌道上に作られ、火星のテラフォーミング計画も本格化してきたこの数十年、それぞれ色々な思惑を持った様々な異星人からちょっかいを掛けられているのが現状や、さらに……」
「さらに?」
「宇宙に移民した人たちが連合の支配から脱却を目的に、自治政府を樹立した。これを良しとしない連合の強硬派が、軍を派遣して、自治政府を潰そうとしたが、連合の穏健派がこれを必死に押し留めている……というのがここ十数年の流れやね」
「……隼子さん、ひょっとしてなんですが……」
「ん?」
「地球ヤバいんですか?」
「相当ヤバいよ、滅亡への二三歩前ってところやね」
 あっけらかんととんでもないことを言う隼子にやや面食らう大洋。
「し、しかし、そのわりには、飛燕さんも皆さんもなんだかのんびりしていますね。まあ大会が近いということで慌ただしくはありますが……」
「まあさっきも言ったように、この十数年、怪獣の出現やら古代文明人や異星人の侵略行為、反地球連合勢力のテロ活動なんかはそれほど活発なわけではないからね。大体、何故かはよう分からんけど、そういった事態は都会がターゲットになることが多いねん。それに比べたら、ここら辺の地方都市はまあ静かなもんやで」
「そうなんですか……」
「半年に一回位かな、佐世保にそういった緊急事態が起こるのは。それも防衛軍や大企業のロボットが鎮圧してまうから、ウチらにお鉢はほとんどまわってこんけどな」
「……出撃の場合はあの機体を使うんですか?」
 大洋が格納庫の隅に立つ、白い幌を被った機体を指差した。
「いやいや、あの機体はもう現役を退いたアンティークって話しや。大体幌を取ったとこ、ウチも見たこと無いし。出撃で使用するのは我が社自慢のFS(フタナベスペシャル)改や」
「飛燕さんも……?」
「え?」
「飛燕さんも出撃されるんですか?」
「あ、ああ、こう見えてもパイロットやからな、まあウチの場合は主に住民の避難誘導がメインやけどな……」
「でも必要に迫られれば……戦うんですね?」
「そ、そりゃあな」
「怖くはないんですか?」
「いや、そら怖いよ! 当たり前やん!」
「だったら何故、危険なパイロットを……」
 大洋の問いかけに隼子は俯いて小声で呟いた。
「戦わなアカン理由があるからや……」
「飛燕さん……?」
「あ~! ま、まあええやん! 乙女の秘密っちゅうやつや! そんなことよりさ、その『飛燕さん』っていうのをやめへん?」
「え?」
「歳も一個しか変わらんのやし、ウチのことは隼子って呼んでええよ! 何か名字で呼ばれると他人行儀な感じがするわ。同じ会社で働く家族みたいなもんやし、下の名前で呼んでや。ウチの会社の皆もそうやし」
「家族……ですか。分かりました」
「あ~敬語も要らん要らん! 何か調子狂うわ。だからウチもアンタのこと名前で呼ぶわ、そんじゃ改めてよろしくな、大洋!」
「分かり……分かった、よろしく、隼子」
「うんうん、それでええねん!」
 隼子は笑顔で大洋の肩を軽くポンポンと叩いた。その時、サイレンの音が鳴り響いた。
「⁉」
「警報⁉」
「……会社付近の海岸に正体不明の巨大怪獣が出現! 各員持ち場に着いて下さい! 繰り返します……」
 スピーカーから女性のアナウンスが聞こえる。隼子は白衣を脱ぎ捨てて走り出した。白衣が大洋の顔に掛かる。
「っ! 隼子! どこに行く⁉」
 白衣を除けながら大洋が問い掛ける。隼子が振り向かずに答える。
「決まっているやろ! 出撃や‼」
 隼子は更衣室で素早くパイロットスーツに身を包むと、第一格納庫に一機だけ残っていたFS改の元に駆け付け、機体の状態をチェックする大松に声を掛ける。
「大松さん、出撃します!」
「い、いや、しかし……」
「今会社に残っているパイロットはウチだけです! 大丈夫、やってみせます!」
「う~む……」
 大松は腕を組んで考え込む。大会に参加するため、正規のパイロットたちは皆機体とともに出払ってしまっていた。さらに社長以下主だった役職の面々も同様に不在だったため、現場の指揮権は古株の大松に委ねられていた。
「このままでは会社どころか、近隣の住宅地にも被害が及びます! 決断を!」
「わ、分かったばい! 飛燕隼子、直ちに出撃せよ!」
「了解!」
 隼子は敬礼すると、すぐさま機体に乗り込んだ。大松や整備員たちが離れたことを確認すると、全高8mのモスグリーンの機体を起動させ、出撃体勢に入った。一歩二歩とゆっくり前に歩くと、そこから勢い良く走り始めた。ガシャンガシャンという音を立てながら、格納庫から外に出た。
「さて、敵さんは……?」
 隼子がモニターを確認する。画面には海岸に上陸した怪獣の姿が映し出された。二足歩行で歩く、ワニのような外見の怪獣である。
「上陸してもうたか……」
 コックピットに通信が入る。声の主は大松であった。
「先程、付近の防衛軍にも出撃を要請したと! 隼子、くれぐれも無理は禁物ばい!」
「それは敵さん次第です……!」
 隼子は操縦桿を操作し、機体を怪獣に向けて急加速させた。怪獣の動きも案外素早かったため、想定よりも早く相対することとなった。
「うお……! 思ったよりもデカ!」
 FS改の頭部に備えられたモノアイ式のカメラで捉えた怪獣の姿を確認した隼子は怪獣の大きさにたじろぐ。モニター画面に分析データが表示される。
「体長約25m……! こちらの3倍以上のデカさやな! 種別データは……該当無し⁉ ちょっと待った、新種って奴かいな!」
怪獣も隼子の機体を認識したようで、覗き込むような体勢を取った。
「未知数の相手やが……先手必勝や!」
 隼子のFS改がその腰部に付いたホルスターから口径120mmのチェーンライフルを抜き取って構える。しっかりと怪獣の頭部に狙いを定める。
「まずは眼を潰す! 喰らえ!」
 そう言って、隼子はライフルを発射した。放たれた弾は狙い通り怪獣の頭部に命中したものの、眼からは僅かに外れてしまった。怪獣は若干顔をのけ反らせた。
「眼は外してもうたか……⁉」
 次の瞬間、怪獣が右腕を振りかぶり、鋭い爪で隼子の機体を切り裂こうとした。
「危なっ!」
 間一髪で隼子は機体を後退させ、攻撃を躱した。
「あの爪は要注意やな……ただ、手は短いからリーチもたかが知れとる。このまま距離を取って戦えば……⁉」
 怪獣は後ろに振り返ったかと思うと、その長い尻尾を勢いよく振って、隼子の機体に叩きつけた。
「うおっ……!」
 直撃をもろに食らってしまった隼子の機体は派手に吹き飛ばされ、二辺工業の敷地内へと転がった。
「くっ……アホかウチは! ベッタベタな攻撃を食らいよってからに!」
怪獣がゆっくりと迫ってくる。隼子は機体を急いで起こそうとするが、赤く点滅するモニター画面を見て愕然とする。
「な⁉ 脚部に異常あり⁉ 立てへんやんけ!」
社屋内で戦況を見つめていた大松も焦り、臨時でオペレーター役を務めている女性に向かって怒鳴る。
「防衛軍は何をしていると!」
「別地区でも怪獣が出現し交戦中! そちらにはすぐには向かえないとのことです!」
「なっ⁉ 同一地域内でほぼ同時に怪獣が出現⁉ この十数年無かったことが……」
 予想外の出来事に一瞬頭がパニックになった大松であったが、すぐに気を取り直して、会社中に指示を飛ばす。
「全員直ちに緊急避難ばい! 自分の身を守ることば最優先すると!」
 すると大松の視界に上半身だけでも機体を動かそうとするFS改の姿が入った。大松が慌てて通信を入れる。
「隼子、何しとると⁉ 早く機体を捨ててそこから逃げるばい!」
「逃げるとか、冗談……! さっきも言うたけど、ここで食い止めな住宅地に被害が及んでまうでしょ……」
「くっ!」
 大松は格納庫に急いで降りる。車を運転して機体の元に向かい、隼子を無理やりにでも機体から引きずり降ろそうと考えた。格納庫に着くと、頭を抑えてうずくまる大洋を見つけた。
「だ、大丈夫か! どこか怪我でもしたと⁉」
 心配する大松の声に対し、何やらぶつぶつと呟く大洋。
「銀座、原宿、六本木……」
「た、大洋! しっかりすると!」
 叫びにハッと気づいた大洋が大松の方に振り返る。
「大松さん!」
「ど、どげんしたと?」
 一方、ゆっくりと迫りくる怪獣に対して、隼子は機体の上半身だけを起こしてライフルを撃ち続けていたが、弾が当たっても怪獣をその歩みを止めない。
「ちっ……そもそもこのライフルじゃさっぱり歯が立たんやん……」
 いよいよ怪獣が隼子の眼前に立った。怪獣が再び右腕を振り上げる。
「ここまでなんか……?」
 怪獣が爪をたてて右腕を振り下ろす。隼子は思わず目を瞑った。
「っ! ……えっ⁉」
 次の瞬間、目を開けた隼子は驚いた。自らの機体の前に怪獣と鍔迫り合いをする見慣れない金色の機体が立っていたからである。約17m位の大きさながら、自らより大きい体である怪獣の爪による攻撃を左肘から突き出したブレードで受け止めている。
「な、何や……⁉」
 ここから更に隼子は驚くこととなる。なんと金色の機体が怪獣を押し返してみせたのである。バランスを崩した怪獣は後ろに倒れ込んだ。それを見て、金色の機体が隼子の方に振り返って屈んだ。そして右腕を隼子の機体腹部のコックピット部分へと伸ばし、その掌を大きく広げた。
「隼子、ハッチを開けてこっちに乗り移れ! 外に出るよりひとまず安全だ!」
「その声……もしかして大洋か⁉ アンタ何してんねん⁉」
「説明は後だ! いいから早く!」
 予想外の事態に三度驚く隼子を大洋が促す。隼子は戸惑いながら、FS改のハッチを開き、金色の機体の掌に飛び乗った。それを確認した大洋は機体の右手を自らの腹部にあるコックピット付近に持って行く。ハッチが開いた。
「乗れ!」
「お、おう!」
隼子は金色の機体のコックピットに文字通り飛び込んだ。
「よし、とりあえず無事だな!」
「ああ、おおきに……って、えええっ⁉」
 隼子は四度驚いた。コックピットにはフンドシ一丁の大洋が座っていたからである。
「なんで半裸やねん⁉」
「え?」
「いや、え? じゃなくて、何がどうなってフンドシ一丁って状態になんねん⁉」
「馬鹿! そんなこと気にしている場合か!」
「阿呆に馬鹿って言われた!」


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