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『こちら転生者派遣センターです。ご希望の異世界をどうぞ♪』第2話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】

「どういうことだ……?」
「勇者様! 良かった……!」
 スティラが俺の手をか細い両手で握り締めてくる。俺は彼女に尋ねる。
「ひょっとして、貴女の魔法ですか?」
「はい、わたくしの回復魔法で治癒させて頂きました。まだまだ未熟ですが……」
 スティラは目に溜まった涙を拭いながら答える。出逢ったばかりの俺の命が助かったことに感激してくれているのか、良い娘だな……いや違う、そうじゃない。ほぼ即死級の傷を完璧に治癒してしまったというのか? なんてこった、彼女の方がチートじゃないか。
「……生意気なことを申し上げますが、勇者様が傷付いたら何度でも治して差し上げます。ですから、思いっ切り、何の遠慮も無く、モンスターと戦って下さい!」
 スティラは決意の固まった表情で俺に語りかけてくる。あーこれはあれだ、今一つ自分の能力に自信が持てなかった娘が覚醒のきっかけを掴むってやつだ。でも生憎、俺が自信喪失気味なんだよな……いや、気味じゃなくて、もう粉々に砕け散っているのだが。
「スティラさん……」
「は、はい?」
「良い眼差しだ、勇者の供に相応しい……」
 いや、何を言っているんだ、俺は。確かに綺麗な顔立ちをしているが。そんな言葉を掛けている場合じゃないだろう。しかし、言葉と行動が全然一致しない。俺はすくっと立ち上がると、剣を構えて叫ぶ。
「さあ、モンスターを討伐し、この地に平穏を取り戻しましょう!」
「はい‼」
本当に何を言っているんだ、俺。ああ、このカッコつけたがる癖をどうにかしたい。
「それで、どうなさいますか?」
「……」
 スティラの問いに俺は黙り込む。真正面から突っ込んでもどうせさっきの二の舞だ。ここはやはり戦い方というものを考えなければならない。体は軽い、かなり素早く動くことが出来るはずだ。左右に揺さぶりをかけてみるのはどうだろうか。よし、やってみよう。俺は再び聖堂の中に入り、ミノタウロスに向かっていく。
「⁉」
「勇者様!」
 気がつくと、俺はまたもや聖堂の外に吹っ飛ばされ、倒れ込んでいる。そこをスティラの回復魔法で死の淵から生還したようだ。
「ぐっ……」
「大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫です、この位、なんともありません」
 なんともないのはスティラのお陰だろうが、と我ながら突っ込みを入れたくなるが、この世界でも見栄っ張りは治らんようだ。しかし、あのミノタウロスめ、巨躯のわりに速さも備えているときた。完全に逆を取ったと思った次の瞬間、金棒が俺の体を潰しにきた。とても嫌な音がしたのは覚えている。激しい痛みが走ったことについては忘れる。
「勇者様?」
「スティラさん、この聖堂に裏口はありますか?」
「え、ええ、ございます」
「では……」
 スティラが聖堂の入口に立つ。ミノタウロスがそれに気を取られる。俺は裏口からこっそりと奴に近づく。これが果たして勇者の戦い方だろうかと思わなくもなかったが、まずは相手に近づかなくては話にならない。狙い通りに奴がスティラに向かい出す。俺は助走をつけて飛び掛かる。どんなモンスターでも、首を切られるか心臓を刺されれば終わりだ。俺は前者を選ぶ。Cランク勇者の豊富な経験から得た意表を突いた攻撃を思い知れ。
「喰らえ! ⁉」
 思ったより高く飛び、ミノタウロスの首に剣を振り下ろすことは出来た。だが……硬い、硬すぎる。想定以上の首の硬さだ。剣は僅かに食い込んだ程度だ。ミノタウロスは俺の体を掴むと、地面に叩きつける。俺は何度かバウンドし、三度聖堂外に無様に転がる。
「勇者様!」
 俺はまたも、スティラの回復魔法によって息を吹き返した。数分ぶり三度目だ。
「ふう……」
 俺はやれやれと言った風に溜め息をつきながら立ち上がる。余裕ぶっている場合じゃないだろ、俺。さてどうしたものかと考えていると、スティラが口を開く。
「あの、重ね重ね生意気なことを申し上げるようで恐縮なのですが……」
「ん? なんですか?」
「勇者様は魔法をお使いにならないのですか?」
「!」
「ああ! すみません! 気に障ったのなら謝ります!」
「い、いえ……」
 俺は慌てて頭を下げるスティラを制しながら考え込む。そうか、なんでそんな簡単なことに思い当たらなかったんだ。勇者が魔法を使ってはいけないという決まりなど何処の世界にも無い。剣が無理なら魔法を使えば良いじゃない。俺はスティラに尋ねる。
「この世界の魔法は詠唱などが必要ですか?」
「い、いえ、必要な系統の魔法もありますが、ほとんどは必要ありません。魔力が備わっている方ならば、ただ、念じるだけで出すことが出来ます。お見受けしたところ、勇者様にも魔力を感じられます」
「魔力……そうですか……少し離れていて下さい」
「は、はい……」
 俺はスティラを遠ざけると、盾を背中に掛けて、空いた左の掌をパッパッと開いては閉じてみる。ふむ、そう言われると、そこはかとない魔力を感じないでもない……気がする。俺は誰もいない方向に向かって、左手を突き出して叫ぶ。
「はあっ! ⁉」
 俺は驚いた。左手を突き出した先の地面に小さい木が生えたからだ。凄いっちゃ凄いが、これでどう戦うというのだろう。俺は軽い失望と、念じるだけでいいと言われたのに「はあっ!」とか叫んじゃった己が恥ずかしくなり、両手で顔を覆ってしゃがみ込む。


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