不可能図形のコミュ
~事務所~
ペンローズの三角形「あの……大事なお話ってなんでしょうか? もしかしてクビでしょうか、そうですよね、やっぱり私なんか……」
「ははは、相変わらずネガティブだな、ペンローズの三角形は。むしろ嬉しい知らせだよ。今度のライブで、ペンローズの三角形にセンターをやってもらおうと思ったんだ」
ペンローズの三角形「ええっ、私がセンター……ですか!?」
四角すい「マジか! よかったじゃん、ペンローズの三角形!」
球「ペンローズの三角形ちゃんならセンターできるって、私、信じてました!」
ペンローズの三角形「そんな、私にセンターなんて無理ですよ~!」
「そんなの、やってみなければわからないだろ?」
ペンローズの三角形「だって、私、不可能図形ですよ……。不可能図形にセンターなんかできるわけないです!」
「たしかにペンローズの三角形は目の錯覚だけど、それとこれとは別だ。ただ、ファンの期待に応えてやればいい」
球「ペンローズの三角形ちゃん、センターやりたくないの?」
四角すい「だったらそのポジション、アタシにくれよ! ちょうど前から動かしてみたい点Pもあったんだよね~♪」
ペンローズの三角形「あわわっ! ダメだよぉ四角すいちゃん! やりたくないっていうんじゃなくって、ただ、やりきる自信がないっていうか……」
「まあ、初めてのセンターなら緊張するのは当たり前だ。お前はお前らしく、全力を出しきればいい」
ペンローズの三角形「は、はい……」
~トレーニングルーム~
ペンローズの三角形「ごめんね、球ちゃん。稽古に付き合わせちゃって」
球「ううん、いいのよ。それにしても、ペンローズの三角形ちゃんは何をそんなに悩んでいるの?」
ペンローズの三角形「だって私、不可能図形だから……。みんなはきれいで可能な立体だけど、私だけ脳の錯誤に頼っちゃってて、情けないよ。そんな図形にセンターなんてできっこない……」
球「そうかしら……。でも、あなたを応援してくれる錯視ファンだっているじゃない。精一杯がんばれば不可能も可能になると思わない?」
ペンローズの三角形「不可能を、可能に……! そうかぁ! ありがとう、球ちゃん! 私、いけそうな気がしてきたっ!」
球「……行ってしまったわ。大丈夫かしら、あの子……」
~翌日~
「ペンローズの三角形! メール読んだぞ。昨日のセンターの話、前向きに考えてくれるんだって、って……わあっ、なんだその形状は!?」
ペンローズの三角形「あっ……どうですか? 私、可能図形になってみたんです。見違えたと思いませんか? これならきっと、センターでも頂点を張ってパフォーマンスできます!」
(確かに見違えたけど……でも、なにか勘違いしてしまってるみたいだな)
ペンローズの三角形「あれ……? やっぱり変ですか、私……。そう、ですよね、やっぱり私なんかがセンターなんて……」
「それは違うぞ、ペンローズの三角形。俺は、ファンの期待に応えて欲しいって言ったんだ。今のお前はたしかに可能な図形かもしれない。でも、今のお前は無理をしていて、お前らしくないと思う」
ペンローズの三角形「そんな、別に無理なんて……こんなに可能な形状なのに……」
「プレッシャーを感じるのは当然だ。でも、ファンはお前の不可能な姿が見たくてユークリッド空間に足を運んでくれている。現実にはありえない姿をしているとしても、それこそがペンローズの三角形の大切な個性なんだよ」
ペンローズの三角形「そっか……私、間違えてたんだ。みんなの期待に応えようとして、結果的にファンのみんなを裏切ろうとしてた……。私は、不可能でよかったんだ」
「その通りだ。そろそろ元の形状に戻ったらどうだ?」
ペンローズの三角形「これが、私……」
四角すい「うん、それそれ♪ いいカタチしてんじゃん♪ 」
球「見てるだけでめまいがしてくるシュールな魅力。それがペンローズの三角形ちゃんの持ち味だと思うわ」
ペンローズの三角形「みんな……! ありがとう。私、もう迷わない。この姿でセンターに立ってみる!」
「その意気だ。図形は一つ一つが誰にも似ていない個性を持っている。それがトポロジーなんだよ。だから誰かのマネなんかせず、不可能図形にしか歩めない階段を登ればいい」
ペンローズの三角形「はい……! なんだか、見えてきたような気がします」
私にしか登れない、階段が……!
END
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