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『ダブドリ Vol.17』インタビュー05 佐藤賢次(川崎ブレイブサンダース)

2023年5月12日刊行の『ダブドリ Vol.17』(株式会社ダブドリ)より、佐藤賢次HCのインタビュー冒頭を無料公開します。

川崎ブレイブサンダースを率いて4年目となる佐藤賢次HC。悲願のチャンピオンシップ(以下CS)王者に向けた想いや独自のコーチ哲学を聞いた。(取材日:3月5日)

Interview by マササ・イトウ/photo by 菅野高文

やるべきことと目標を計画的に決める。「これってスポーツも一緒だよな」と思っていました。

―― コーチの方々に「シーズン前にどんな計画を立てたのか」という質問をするんですね。でも皆さん、期間で区切って進捗を見る川崎のような「ロードマップ」という考え方ではなかったんです。
佐藤 そうなんですか。
―― 最初にゴールを設定して計画を立てる、B.LEAGUEでは意外と珍しいのかなと思っています。これはコーチが就任されたときにチームに持ち込まれたのでしょうか。
佐藤 そうですね。サラリーマンとして東芝で働いていた当時、配属されたのが環境保全担当で、マネジメントシステムの仕事に関わらせてもらって、そこでは年間の計画が決まってるんです。外部の監査を受ける日が決まっていて、そこまでに事業所内の取り組みを計画的に決めて、やるべきことと目標を決めて、そこに向かってやっていくことに慣れていたんです。「これってスポーツも一緒だよな」と思っていて、ヘッドコーチになるときにまずゴールを決めて、今の状態を把握して、4つに期分けをして、期毎にターゲットになる試合を設定して、ここまでにどうなっていたいか、次のフェーズではどうなっていたいか組み立てて、チーム作りに活かしたのが最初ですね。
―― 川崎は毎年優勝を目指すチームじゃないですか。優勝への定義は難しいですよね。コーチも「『これをすれば優勝』という確かなものはない」とコメントされていました。まずどこから決めていったのですか。
佐藤 1年目は、私がどういうバスケットをしたいかを何も知らない状態から始まって、外国籍選手もニック・ファジーカス以外は新しい選手を獲りましたし、他クラブから日本人選手も獲得して、お互いにそれぞれの強みとか特徴を知る期間が必要だったり、「何を軸にしてこのチームは勝っていくんだろう」「苦しい時に何に立ち返るんだ」という土台の部分をまずは作る時期があって。試合では勝つために相手に対応するとか、色々なスカウティングがあるんですけど、そんな中でも、できるだけ土台で戦って結果を出していくのがフェーズ1だったんです。今もその手法はあまり変わらないんですけど、そこからバイウィークというリーグの中断期間があるので、そこまでを一括りにして振り返って、その時期に修正をかけて、フェーズ2に入る形でした。フェーズ2はその修正をしっかりとやり切る。年が明けると後半戦に入って、その土台の上に、勝つために必要な相手に対する対応だったり、変化球を投げるような戦術だったり、そういうものを作り上げていく。最後はポストシーズンに向けて雰囲気も含めて一気に上げていく。「俺たちは強いんだ」っていうのを最後の雰囲気作りにした終盤戦がフェーズ4でした。1年目はそこに行くまでに終わっちゃったんですけどね。
―― シーズン中止になりましたね。
佐藤 はい。怪我人も出ましたけど、すごく手応えも感じながら、1年目にしては良いプログラムを進められました。毎年大まかなところは変わらず、そういう感じでプログラムを作っています。
―― 2年目も3年目も天皇杯優勝という目標をクリアして、CS優勝を残すのみの状態が続きましたが、この4年間を振り返ってどうでしたか。
佐藤 一番大きかったのは2年目にレギュレーションが変わって、外国籍選手の登録が1人増えたことですね。選手達の強みを組み合わせて、強いチームになっていくことを目指したいので、外国籍選手が1人増えて、強みの活かし方が難しくなったところがありました。プレーイングタイムもそうですし、ビッグマンが4人いたので、バランスに凄く苦しみました。その結果、2年目は「ビッグラインナップ」という解答を出して、それを我慢して成長させて、最終的に天皇杯優勝まで辿り着いて、でも、結局チャンピオンシップはそのビッグラインナップでも勝ちきれなくて。3年目はマット・ジャニングというアウトサイドの外国籍選手が来て、より幅も広がってビッグラインナップもノーマルのラインナップも、どっちの強みも活かして、その繋ぎの部分をスムーズにして、どっちになってもリズムを崩さず戦っていく、という状態を目指していたんですけど、最後の試合でパブロ(アギラール)がいなくなって(笑)。
―― 最後はそうでしたね(笑)。
佐藤 はい。でも、3年目もいい形で進んでいたと思います。
―― ロードマップは各選手に分解されていくのですか。例えば「このフェーズでこういうことができてほしい」とか。
佐藤 基本的に選手に伝えるときは、私はチームの話しかしていなくて、それを噛み砕いてひとりひとりに伝えているのはアシスタントコーチ達なので、よりコーチ達とのコミュニケーションを増やして、上手く役割分担をしています。特に今年は、序盤で怪我人が出たり、開幕戦の激戦の影響がその後まで出ちゃったんですね。フェーズ1でやるべき土台作りが本来の姿ではないままでした。ビッグラインナップを使って、質を高めようとした時もあるんですけど、それを止めるとリズムが悪くなったり、こっちを取ったらこっちが悪くなるというのを繰り返しているのが現状なんです。ただ、それもそのまま選手達に話しました。今はその修正をして、選手もそこについてきてくれている手応えがあるので、楽しみにしているところです。
―― ロードマップ自体を見直すこともあるのですか。
佐藤 最終的に目指しているものは変わらないですね。ただそこに辿り着くまでの道が変わることはやっぱりあります。今は、土台作りに躓いた分、苦しくなった時に立ち返るものがグラグラしている状況です。例年この時期は、苦しくなっても一気に固まって強くなれる、そういうのが出来上がっているんです。だから毎年3月、4月は勝率が高いんですけど、未だそこに辿り着いてない。それがこの2ヶ月の大きなチャレンジですね。

苦しい時にチームが一つになる、その課題を乗り越えないと優勝はない。

―― 実は佐藤コーチの試合後の全コメントを確認したんですけど(笑)。
佐藤 ハハハハハ。
―― シーズン序盤は「フルスロットルじゃない選手がいる」とかですね、手厳しいコメントもありました。
佐藤 そういう時期もありましたね。最初からフルスロットルじゃないわけではなくて、ガーって行くんだけど、ちょっと上手くいかないと、そのことばかり考えて、目の前のやらなきゃいけないディフェンスをやってないとか、リバウンドにいかないとか、走ってないとか、そういう状況にすごくフラストレーションが溜まっていた時期ではありましたね。
―― 今日の練習でもありましたね。
佐藤 はい。何がダメで次は何をしなきゃいけないのか、大事なのは、次のことだけなのに、終わったことばかり気にして、それでは絶対に勝てないです。
―― その頃は「まだ成長している段階」「どんどん強くなっている時期だから」というコメントが多かったんですが、信州戦(第21節)から「危機感」という言葉が初めて出てきました。このタイミングで選手にもそういったコミュニケーションを取られたんでしょうか。
佐藤 実際に選手に話したのは、このバイウィークですけど「ここで本当に頑張らないと本当に終わっちゃうよ」と伝えました。土台作りが上手くいかない時期があって、11月に色んな修正をしつつ、それでもバイウィーク明けに名古屋D(第6節)と仙台(第7節)に1勝1敗だったり、なかなか2連勝できない。そこからビッグラインナップを使って、連勝がちょっと続いて、でもA東京と千葉には2連敗して、その時期にマットが戻ってきて、本来のやりたかった編成に戻ったときに、ビッグラインナップから戻すのに苦労して、あともう少しで上手くいきそうだなというのが信州戦あたりだったんですよ。あそこで何か形を残してバイウィークに入らないと、修正するポイントも見えないままだったので「危機感」という言葉だったんです。
今年は天皇杯に負けたことが大きくて、毎年天皇杯って一発勝負なので、天皇杯で区切りをつけていたんですね。今年は負けて「リーグ戦の残り50試合ぐらい使って成長できるぞ」って考え方に転換したんです。なので、序盤はまだまだ「この試合を通して成長できる」というコメントが多かったんです。
―― ああ、なるほど。
佐藤 マットが戻っても、こういう状況が続いていたら、シーズンが終わっちゃうよっていう危機感が出てきたんです。
―― ここからは、他地区の上位チームとは試合がないので、自分達で高い水準を保つ必要が出てくると思います。
佐藤 とにかく目の前の試合で、自分達がやるべきことをどれだけできるか、それがこのB.LEAGUEでトップになるために本当に通用するものなのか常に頭に置きながら、2ヶ月を過ごさないといけないなとは思っています。ただ、残留争いもある中で、試合自体も滅茶苦茶タフになりますし、とにかく一試合一試合を全力でやるしかないなとは思っています。
―― 今日の練習でも、コーチが喝を入れていてすごく印象に残りました。チーム内のコミュニケーションの取り方に課題が残っているところでしょうか。
佐藤 そうですね。自分がヘッドコーチになってから、「伝統と変革」というキーワードを使っています。変革の部分で最初に選手に伝えたのは意識改革で、全員がリーダーシップを持たないといけない。誰かが優勝させてくれるわけじゃないですし、誰かにボールを渡せばシュートを決めてくれるわけではない。ニック・ファジーカスという特別なスキルを持っている選手がいる中で、彼に全部ボールを渡せば優勝できるのかと言ったらそうではないですし。全員が優勝ということに対して当事者になっていかないといけない。それが今年は、良い時は良いんですけど、苦しい状況になった時にひとつになれない。その課題を乗り越えないといけないよってミーティングでも話しているのに、練習の場でまだそういうことが起こる。それを乗り越えないと優勝はできないだろうなって思います。
―― 練習中も、チームの中で練習を止めて話をするのは今日はファジーカス1人しかいなかったですよね。選手同士がリーダーシップを取るという姿を想像していたので、驚きはありました。
佐藤 そうなんですよ。そこが課題ですね。良い時は自分の意見を言えるんですけど、ミスしちゃうと自分のことを棚にあげられない。そんなの関係なく言えるのがニック・ファジーカスなんですけど。自分がミスしようが、サボろうが何しようが。ハハハハハ。
―― サボろうが何しようが(笑)。
佐藤 はい(笑)。勝つために必要だったら、バーって言えるので。そこの強さは今年はないですね。ずっと課題ではあるんですけど、そこがないとうちは勝てないなって思いますね。
―― コーチとしてはどうやってそれを戻していくんですか。
佐藤 一つは言い続けるしかないなとは思っていて、選手も頭ではわかっていると思うんですよ。ここを変えないと勝てないだろうなって。ここが今課題だなって頭ではわかっているけど、それを実際にコートで身体を動かしながら表現するのってやっぱり難しいんだろうなって思うんですよ。自分がワーワー喋って練習が止まったりとか、色んなことを気にするじゃないですか。それもわかるんですけど、勝ちたくて、優勝したくてそうやって表現することを僕は止めたことは一切ない。むしろ求めている(笑)。
―― 出してほしい。
佐藤 なので、そこを刺激してあげる。「もっともっと言っていいんだよ」って伝え続けるしかないのかなと思っています。あとは、ディフェンスでチームのコミュニケーションが増えるような戦術を試したりしていますね。

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