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日曜のマクドナルドで号泣したおっさんの話

未来の桜音加(おとか)ちゃん、こんにちは。
僕は2023年を生きる、あなたの父親です。

こっちの世界を生きる君は今4歳。

今日は僕らが過ごす2023年の「秋祭り」のお話。
に見せかけた「父親の涙腺」と「幸せ」の話です。

4歳の君を夢中にさせるもの

僕らが住む町、大阪の堺市は「秋祭り」が盛んです。
君はご存じの通りここの町では、秋祭りを「ふとん太鼓」というお神輿(みこし)が彩ってくれます。

町中に鳴り響く太鼓の音。
「べーら、べーら、べらしょっしょい!」
という威勢の良い掛け声とともに、ライトアップされたふとん太鼓が神社に宮入する姿はなかなか壮観です。

昨年3歳の秋に、君は初めて「ふとん太鼓」と「獅子舞」を見て、とても興奮していたのです。

それ以降3歳の君は、毎日のようにYoutubeで「ふとん太鼓」と「獅子舞」の動画を見まくっています。

「人間として一番大切なものは何か?」と聞かれるとしたら
僕の答えはきっと「夢中になれるもの」。

だから当然、君にも「何か夢中になれるもの」を見つけて欲しいと思っています。

そんな中で君が
「人生の中で最初に夢中になったもの」
は、堺の名物「ふとん太鼓」でした。

4歳の君と「堺の文化」

先月、僕らは家族で「秋祭り」に行って、ふとん太鼓の「宮入」を見てきました。

ふとん太鼓の宮入

3歳の時は興奮したけど、さすがに1年経つと飽きちゃってるかな?

と思ってたんだけど、4歳の君もやっぱり楽しんでくれて一安心。
ただ「獅子舞」はまだ怖いみたいで、顔を背けていました。

それなのにママから
「獅子舞に頭を噛んでもらうと幸せになる」
という「それマジで?」と思わざるを得ない都市伝説を聞いてから、
「次は頭を噛んでもらう!」と張り切っています。

来年はどんな反応を見せてくれるのか、僕はひそかに楽しみにしるよ。
(予想:絶対に逃げ回ると思う)

「ヘビさん赤ちゃん」のお話

今日は「4歳のお祭りの日」に起きた出来事を、君に伝えようと思います。

この日の朝、君が僕の布団に飛び込んできました。

「今日、ふとん太鼓だよ!」

前日から楽しみにしていたから、待ちきれなかったんだろうね。そして、まだ眠くて布団でゴロゴロしてる僕に言いました。

「あれ?
 ダディのお布団に何か付いてる」

良く見るとそこには、ボロボロに黒ずんでカピカピになった「切れた輪ゴム」がこびりついていたのね。

「ダディ、コレなに?」

と言って、黒ずんだカピカピの切れた輪ゴムを僕に見せてきました。

僕は眠くて「おいおい、勘弁してくれよ」と思いながら適当に言いました。

「それはきっと、ヘビの赤ちゃんだね」

でも、コレは僕の大きなミスだった。
なぜなら4歳の君は「動物の赤ちゃん」が大好きだから。

その瞬間から
「ボロボロに黒ずんでカピカピになった切れた輪ゴム」は、君の中で「守るべき愛おしい存在」に変わってしまったのです。

その後、君は朝ごはんを食べてる時「ヘビさん赤ちゃん」にも食べさせてあげたり、ベランダに出てお散歩させてあげたりと、4歳の君の精一杯の愛情を「切れた輪ゴム」に注いでいた。

ゴミはすぐに捨てなさい

と日々口うるさく言ってる父親だけど、この展開で「捨てろ」なんて言うと悪魔を通り越して、もはや「魔王」になってしまう。

そうこうしていると、町をねり歩く「ふとん太鼓」の太鼓の音が近づいてきたんだよ。これが大阪・堺の秋の風物詩。
僕らは2人で「マンションの最上階に上ってふとん太鼓を探そう」ってことになった。

すると君は何やら作業を始めた。
プラスチックのおもちゃの双眼鏡に「ヘビさん赤ちゃん」をテープで貼り付けたみたい。

そして僕らは最上階(20階)から、おもちゃの双眼鏡でふとん太鼓を探した。
その時、双眼鏡に輪ゴムが貼られている事に気付いた僕に君は言いました。

「ヘビさん赤ちゃんにも見せてあげるの。
 ここが顔だよ。」

良く見ると、切れた輪ゴムの端っこの一番黒ずんだ部分の1cmぐらいがテープからはみ出している。どうやらこのヘビさんは黒い顔らしい。
きっと松崎しげる似だ。

4歳の君の宝物「ヘビさん赤ちゃん」

輪ゴムはどこへ消えた?

僕らはマンションの最上階から部屋に戻った後、
「今夜は神社に行ってふとん太鼓を近くで見よう」
という事になった。

その前にまずお昼ご飯だ。
僕らは自転車でまずマクドナルドに向かった。

ママチャリの後部座席に鎮座する君の首には、プラスチックのおもちゃの双眼鏡。
もちろん双眼鏡からはテープで貼り付けられた「シゲル・マツザキ」がニヤリと微笑んでいる

この日は日曜日。
案の定マクドナルドは混雑していた。

マクドナルドでも君は、いつも夢中になるハッピーセットのおもちゃに目もくれず、双眼鏡から外した輪ゴムに揚げたてのポテトを食べさせてあげていた。

そして僕のベーコンレタスバーガーのベーコンも輪ゴムに食べさせるという。

もはや悪魔の所業である。

ベーコンの無い「レタスバーガー」を食べながら、僕は何度かシゲル・マツザキと目が合った気がする。

それからしばらくして僕らが食事を終える頃に、君がポツリとつぶやいたんだ。

「ヘビさん赤ちゃんがいないの」

そう君がポテトやナゲット、そして僕のベーコン(結局ヘビさんにあげた後、君が食べた)を食べている間に、輪ゴムがどこかに消えちゃったのです。

「ダディ、ヘビさん探して!」

という号令のもと、4歳児の下僕である僕らはマクドナルドのテーブルで必死に「黒ずんだカピカピの切れた輪ゴム」を探した。
でも見つからない。

お盆の下にも、ハンバーガーの包み紙の中にも無いのです。

僕らは立ち上がって、各自の服に輪ゴムが張り付いて無いかを確認した。
もちろん下僕中の下僕、家庭内カーストの最下層である僕は、床に顔を近づけてライトを当てながら店内を探した。でも見つからない。

役立たずの下僕に呆れたように、普段は自分で探そうとはしない4歳の女王様まで「シゲル・マツザキ救出プロジェクト」に乗り出した。

しかし「ヘビさん赤ちゃん」は見つからない。

僕らはいったんプロジェクトを中断して席に着いた。
冷静になって考えてみると、我々は何をやっているのだろうと思えた。

そんな中、ママが言った。
「ヘビさんはきっとお空に帰ったんだよ。」

ママ!!ナイスフォロー!!
よし、輪ゴムの捜索は終わり終わり!

僕は君を抱き上げて、いつも通り自分の膝の上に乗せた。

父親の涙腺

輪ゴムの捜索を中止した僕らは、来月に行く旅行の話をしていた。
でも君は僕の膝の上で黙ったままだ。

もしかしてママが言った
「お空に帰った」
というワードで寂しくなったのかな?

と思った僕は、膝の上に座る君を後ろから抱きしめた。

しばらくしてふと、カバンの中を見てママが言ったんだ。

「あれ?あ、あったあった!
 こんなところに落ちてたんだね」

そう、カピカピの輪ゴム「ヘビさん赤ちゃん」はテーブルから落ちてママのカバンの中に入ってたんだ。

ママは丁寧に「ヘビさん赤ちゃん」を取り出して、4歳の君の小さな手に渡した。

すると君は肩を震わせはじめ、口がどんどん「へ」の字になっていき、声を出さないまま目から涙がこぼれ出てきた。

普段、毎日のように理不尽に泣く「君の泣き顔」を見るけれど、僕は君のこんな静かな泣き顔を見るのは初めてだった。

失って「もう会えないのではないか?」と思った「愛おしい大切な存在」との再開

君にとっては、きっとそういう瞬間だったのだろう。
君は涙を流しながら、本当に愛おしそうに「ヘビさん赤ちゃん」を握りしめていた。

僕はこの時の君の顔、そして君が握りしめた小さな手を生涯忘れないと決めている。

4歳の小さな君の中には
壮大な世界が広がっている。
そして目には見えないけど
君の心は間違いなく成長しているのだ。

そんな思いが頭の中を駆け巡って、僕の目からは涙が流れていた。

この涙が何なのかは分からない。
でもその時、僕は涙を止められなかったんだ。

ただ一つ間違いないのは、とても気分の良い涙だったこと。
そしてとても誇らしい気持ちになれたこと。

お客さんで賑わう日曜日のマクドナルド。
輪ゴムを握りしめた少女の隣で、なぜか涙を流す40代のおっさん。

とても不思議な光景だっただろう。

世界で一番の幸せ

マクドナルドを出て家に帰る途中、君は自転車の後部座席でウトウトと寝落ちしていた。
その手にはまだ黒ずんだ「ヘビさん赤ちゃん」が握りしめられている。

その姿を見てママが言ったんだ。

「きっと世界で一番幸せな輪ゴムだね」

僕は「ああ、本当にその通りだ」と思った。
こんなに愛されている輪ゴムがこの世に存在するだろうか。

僕らはこの日の夜、約束通り神社のお祭りに行ってふとん太鼓の「宮入り」を見た。
近くで体感すると、それはとても迫力があって、会場は熱気に包まれていた。

そんな人混みの中、君は必死に手を上にあげていた。

その手には青いプラスチックの双眼鏡。
もちろん双眼鏡には黒ずんだシゲル・マツザキがテープで貼り付けられている。

きっと彼もふとん太鼓の迫力を味わえただろう。

結局この日、僕らは夜の22時過ぎまで神社にいた。
神社に残っているのは神輿の「担ぎ手」たち、そしてその家族やスタッフ。
みんな誇らしげにこの日の労をたたえあっている。

ライトアップされたふとん太鼓の影が、皆の笑顔を包みこむ。

それが僕にはとても美しい光景に見えたんだ。

僕はこの街に40年以上住んでいながら、ガッツリと最後までふとん太鼓の「宮入り」に立ち会ったことは無かった。

慣れ親しんだこの小さな街に
こんな壮大な文化があった

そんな事さえ知らずに僕はここまで生きてきた。
人間というのは年を取るにつれ、近くのものが見えにくくなるもんだ。

近くにいる小さな君の中に
壮大な世界が育まれている

僕はこんな大切な事にさえ、気付くことなく生きていくところだった。

「堺の秋祭り」と「世界で一番幸せな輪ゴム」
が大切な事を教えてくれた

家族3人で家に帰る途中、僕は思ったんだ。

「ああ、幸せだなぁ」ってね。

あれから1か月が経過するけど、
「ヘビさん赤ちゃん」はまだうちにいます。

今はキーホルダーの中に入っていて、4歳の君のお守りになってるんだよ。

これは世界で一番幸せな輪ゴム
きっとどこの神社で買うお守りよりも君に幸せを届けてくれる


僕は本気でそう信じています。

これを読んでる「そっちの君」は幸せを感じていますか?

幸せは気付くもの。

周りを見渡してごらん、

世界で一番の幸せってさ
きっとすごく近くにあるものだからね。

2023年11月 ダディ

















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