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ビジョン刷新に込めた想いと、リブランディングの舞台裏

創業10年目を迎えた僕たちクロスフィールズは、2022年2月24日にビジョン・ミッションの刷新を発表する。これに伴って、こだわり抜いた特設サイトを日本語・英語の両方で制作したので、ぜひご覧頂きたい。

この刷新と変革のプロセスには、実に1年2ヶ月の時間がかかった。チームとしても僕自身としても、時間的にも精神的にも相当なコミットをした。大げさではなく、魂を込めた想いが結晶化したような感覚だ。

今回の記事では、前半で新たなビジョン・ミッションに込めた僕たちの想いをお伝えし、後半ではビジョン刷新を意思決定した背景と変革のプロセスの全体像を感想とともに書き残してみた。

クロスフィールズの新たなビジョンについて知りたいという方だけでなく、これからリブランディングや変革プロセスを実践しようとしている組織にとっても、少しでも参考になったら幸いだ。

新ビジョンに込めた想いと戦略

特設サイトでも表現しているが、僕たちが新たに掲げたビジョンとミッションはこちらの通りだ。

この10年間で社会は大きく変化し、社会課題について語る人や組織は確実に増えた。ただ、その多くはポーズで留まっていて、SDGsのロゴが免罪符として使われるようなケースも散見される。結果的に、日本にも社会にも、多くの社会課題が放置されたままだ。

社会課題そのものが世界から消えてなくなることは、残念ながらない。むしろ、これからも複雑で困難な課題は増え続けていくだろう。だからこそ、社会課題が放置されず、解決され続けていくという社会システムこそが必要ではないだろうか。これが、僕たちが「社会課題が解決され続ける世界」という新ビジョンに込めた想いだ。

特設サイトのアニメーションは"国内外のさまざまな社会課題が解決され続ける"という世界観を表現している。"赤い鳥"となったクロスフィールズが、この世界システムを実現するための"風"をさまざまな社会課題の現場に運んでいるというイメージだ

この壮大なビジョンを実現するため、僕たちは2つのミッションを掲げた。

1つは「社会課題を自分事化する人を増やす」というミッションだ。創業から取り組んできた留職プログラムで培ってきた「人へのアプローチ」を、さらなるスケールで展開していくことを目指す。

そして、「課題の現場に資源をおくり、ともに解決策をつくる」というミッションを新たに掲げた。10年間で積み上げてきたアセットとネットワークを最大限に活用し、社会課題の解決に正面から向き合う「課題へのアプローチ」に挑戦していく。

これからのクロスフィールズは新ミッションに基づいて、人と課題のそれぞれを対象としたアプローチを"スケール"をもって展開していく。ただ、ここで僕たちが追い求める"スケール"には2つの方向性がある。

上方向には、"Scale-Up"と"Scale-Out"。"Scale-Up"とは、通常のビジネスと同じように、事業規模の拡大によって活動のインパクトを大きくすることを意味する。対する"Scale-Out"はNPOならではの概念で、解決策を同業の組織や行政組織が実装することなどを通じ、自組織は大きくならずにインパクトを拡散していくという方向性だ。

下方向には”Scale-Deep”。規模は大きくならずとも、より深く解決策を突き詰めていくことも、僕たちなりのスケールの形だと考える。安易に解決策を量産するのではなく、本質的な課題解決を志向するという意志の現れだ。

左右に表現した2つのアプローチが組み合わさって、上下方向に2つのスケールを追い求めていくことで、小さな風が次第に"大きな渦"を巻き起こしていくことを目指したい。

2つのアプローチを上下方向に追求していくという大きな座標軸を持った上で、3つの領域でタイプの異なる事業を展開していく。

左下の象限では、これまで実践してきた「Deepな人へのアプローチ」である"EMPOWER"をさらに突き詰めていく。左上の象限では、テクノロジーも活用しながら、「人へのアプローチ」を拡散/拡大する"CULTIVATE"に本腰を入れていく。そして最後に、右側の象限の「課題へのアプローチ」では、新たな挑戦として"CO-CREATE"での価値創造を目指す。これが、新ビジョンの実現に向けたクロスフィールズの長期戦略だ。

以上が、特設サイトでも表現した、今回のビジョン刷新を軸とした変革プロセスの成果の全体像だ。当初はビジョンとミッションの文言を刷新することを成果として想定していたが、議論を重ねるうちに、これからのクロスフィールズが進んでいく航路が浮かび上がってきたように感じている。

ビジョン刷新を決意した理由

ここからは、今回のビジョン刷新のプロセスを振り返っていく。

そもそも、なぜこのタイミングでビジョン刷新を行ったのか。実は過去にも何度か取り組もうとしたのだが、相当な労力がかかるであろうことが分かっていたので、ずっと尻込みをしていたというのが正直なところだ。

では、なぜ今回はそのタイミングだと考えるに至ったのか。社会・組織・自分自身という3つの観点から、理由を語ってみる。

【社会の変化への対応】

クロスフィールズが創業してから10年以上が経つ。この間に、社会は大きく変わった。創業時には想像できなかったほど、国内外で社会課題に対する関心が高まった。特にSDGsが制定され、ESG投資への関心が高まった2015年くらいからの変化は非常に大きかった。ただ一方で、いまだに多くの社会課題は放置されていて、社会の分断はかつてないほど大きくなってしまった。ポジティブな意味でもネガティブな意味でも、社会はガラリと変わった。

こうした社会の変化を目の当たりにすると、2011年の創業時に打ち立てた活動の方向性は、どこか「芯を食っている感覚」が弱まったのでは、と感じるようになっていた。特にここ2-3年の社会の変化は激しく、いよいよビジョンをアップデートしなければ「未来を切り拓く先駆者」としてのスタンスを保つことができないと、僕だけでなく団体全体が感じるようになっていた。

【組織の変化への対応】

2020年のコロナショックは団体に大きな影響を与えた。当初は一環の終わりだと思ったが、チームで全力を上げて新規事業を複数立ち上げ、なんとかして急性期の危機的状況は乗り越えた。(詳しい経緯は以下のnoteを参照)

ただ、正直に言えば、急進的な事業変革でなんとか危機は乗り越えたものの、組織は大きく疲弊していた。旗艦事業が長期間にわたって実施できないなか、「危機は乗り切ったけれど、そもそもなんのために事業をやっているのか」「事業は増えたが、われわれは組織としてどこに進んでいるのか」といった疑問の声がメンバーから聞こえてきていた。

新たな羅針盤を掲げなければチームが疲弊して崩壊するという強い危機感が、背筋をゾッとさせる感覚があった。思えば、重い腰を上げるにあたっては、この理由が一番大きかった気がする。

【自分自身の変化への対応】

創業10年のタイミングで書いたnoteにも書いたが、やはり10年という月日が経てば、創業者自身にも大きな変化が起きていく。

創業当時28歳だった自分が、22歳のときに参加した青年海外協力隊での原体験をドライブに仲間たちと立ち上げたのがクロスフィールズだ。もうすぐ40代を迎える自分としては、20年近く前の原体験をベースに走り続けている自分を褒めたい気もするものの、一方で、自分自身の軸が20年近くもアップデートされていないというモヤモヤ感も強くなっていった。

これから先のことを考えると、改めて自分の進みたい方向を見つめ直し、自分を再び鼓舞し直したいと考えるようになっていた。2018年からは大学院に2年間通って学び直しを行ったり、「40代の自分の方向性」をテーマにしたコーチングも重ねていた。こうした自分自身の価値観やあり方をアップデートしたいという気持ちが、ビジョン刷新へと自分を向かわせたように思う。

以上、こうした3つの背景から来るモヤモヤが臨界点に達したと感じた2020年の暮れ、ビジョン・ミッションの刷新を経営陣に提案した。議論の末、事業への投資を一時的に抑えてでもビジョン刷新を行おうという方向が固まり、いよいよリブランディングのプロジェクトがスタートしたのだった。

ビジョン刷新プロジェクトのプロセス 

ここでは、2021年1月から2022年2月までの1年2ヶ月をかけて取り組んだプロジェクトを、4つのフェーズに分けて具体的に振り返ってみる。

①着手フェーズ(21年1月~3月)

経営陣でリブランディングを意思決定してからは、どうすれば良い形でビジョン刷新ができるかを考えることが最初の宿題だった。この時期、実施したことは以下の通り。

経験者へのヒアリング:ビジョン刷新を実践した経営者数名にヒアリング。特にNPO法人ノーベルさんの事例はものすごく参考にさせて頂いた。ノーベル代表の高さんは、プロジェクト推進は内部だけで進めずに外部パートナーを巻き込むべきと力説していた。

・外部パートナーの選定:クロスフィールズの世界観を理解してもらっていると同時に、ある意味ではNPO業界の常識に縛られない新しい視点を提供してくださる外部パートナーを検討。結果、これまでも何度か活動でご一緒していた佐宗邦威氏率いる戦略デザインファーム・BIOTOPEに依頼することを決定。また、ブランド経営の専門家である岡本佳美氏(クロスフィールズ役員)にもプロジェクトチームの一員として参画して頂き、BIOTOPE社とのやり取りをクロスフィールズ側からサポートしてもらう体制を整えた。

・改めて覚悟を決める:経験者へのヒアリングやBIOTOPE社との打合せを通じ、改めてビジョン刷新は大仕事であると再認識。想定される時間的な投資や予算を改めて眺め、経営陣を中心に、それでもやり遂げる覚悟決めを再度行った。チーム全体にもプロジェクトについて周知し、その意義と今後のプロセスを共有して変革が始まるモメンタムを高めていった。

②発散フェーズ(21年3月~5月)

このフェーズでは団体の全メンバー(20名強)を巻き込んだ議論を行った。全体でのワークショップと経営チームだけでの議論を並行して行った佳境の時期で、自分自身も体感的には業務時間の3割程度の時間を投下していた。

・ワークショップの実施:BIOTOPE社とともに設計した上で、ワークショップ(各3-5時間)を全4回にわたって実施。組織のこれまでを様々な視点で振り返るとともに、これからのありたい姿や行いたいことを、メンバー全員で考えていった。モヤモヤした瞬間もありながらも、チームでの発散的な議論の時間は知的好奇心がくすぐられる非常に楽しい時間だった。

コロナ禍での実施だったため、ワークショップはmiroを使って全てオンラインで実施した。メンバーからは「脱・小沼」というキーワードが多数上がり、自分的には傷つくことも多かった…涙

・経営陣での議論: 上記のワークショップの合間には、経営陣での議論を何度も重ねた。ときにBIOTOPE社にも入って頂く形で、ワークショップで出てきたキーワードや重要なポイントをまとめ、そしてまた次のワークショップを設計するということを繰り返した。議論の回数などは、もはや多すぎて覚えていない…

③意思決定フェーズ(21年6月~8月)

・ビジョン/ミッションと戦略の言語化:経営陣とBIOTOPE社とで、発散フェーズで出たアイデアをもとに言語化していった。このプロセスは極めて難航し、見かねた佐宗氏が僕との1on1をセットして腹決めのサポートに入ってくださったことも一度や二度ではなかった。ただ、途方もなく続いた議論の末、最終的には新ビジョンの原型となる文言が降ってくるような瞬間があった。(あの時の道が開いたような感覚は本当に爽快だった)

・チームへの共有:上記プロセスで明文化した文言をチーム全体に仮案として共有し、反応を聞くというプロセスを設定。もともとワークショップで大枠を合意できていたので大きな修正は入らなかったが、ここでの反応をもとに、さらに表現の精緻化を行っていった。

④整形フェーズ(21年10月~22年2月)

・文言の最終化:佐宗氏と僕とで、ここまでの議論をステートメントとして1万字にも及ぶ長い文章として作文する作業を行った。このプロセスで自分の頭のなかも次第にクリアになり、ビジョン・ミッションのみならず、中長期的な戦略までが輪郭を帯びるようになっていった。

・特設サイトの制作:今回のプロジェクトの最終的なアウトプットとして、特設サイトの制作に取り掛かった。このプロセスからはBIOTOPE社に加えてウェブ制作とクリエイティブを担当するPLUS-D社にも入って頂いた。一方でクロスフィールズ側の人員は更に絞り、広報マネージャーの西川理菜と僕との2名体制でリードしていった。クリエイティブのフェーズはより感覚的になるので、人員は絞ることで精度を高めるのが狙いだった。

デザインや表現の意思決定は非常に感覚的な作業だった。上で紹介した渦ひとつとっても、どの形・線・色が最もクロスフィールズの表したい表現かについて、めくるめく議論が続けた

・特設サイトの最終化:21年12月頃からの最終段階は、ほぼ西川がリードする体制となり、彼女が全体をリードしながらサイトの仕様などを詰めていった。(このフェーズは外部の関係者も多く本当に大変だったので、彼女には本当に頭が上がらない、、、)

・内部お披露目:一般公開に先立って、2月頭に団体内部で特設サイトのテスト版のお披露目会を実施。西川がここまでのプロセスも振り返りながらサイトの表現に込めた想いを詳しく説明。メンバーからは画面越しで拍手喝采が起きた。BIOTOPE社の皆さんからは「リブランディングによる変革の主な対象の1つは、団体内部のメンバーである」と何度も聞かされていたので、この時の反応は本当に嬉しかった。

・一般公開:そしていよいよ2月24日に一般公開を迎える。これまでお付き合いがあった方々、そして、新ビジョンに基づいた事業展開でこれから新たに協働をしたい方々に対して、ぜひ広くクロスフィールズの変革について知って頂けたらと思う。

プロジェクトを振り返っての感想

改めて、今回のプロジェクトは長い長い道のりだったと思う。最後に、このプロセスを振り返っての感想を書いておきたい。

想像以上だった投資と痛み

まずもって、時間的にもお金的にも、とにかく大きな投資が必要だった。とくに議論フェーズは、何をするにもこのプロジェクトのことで僕の頭はいっぱいだった。経営陣がビジョン刷新にこれだけのコミットをしたことで、正直なところ、2021年を通じて事業の推進は想定以上にスローダウンしてしまった。

また、同時に精神的にも苦しい「痛み」が伴うプロセスだった。団体のあり方を刷新する変革では、「創業期から積み上げてきた団体のあり方」を否定することは避けられない。特に創業者にとっては、自分が良いと思っていたことが実は独りよがりだったことに気付いたりと、「見たくないもの」を直視しなければいけないことを多々あった。また、方向性を決める段階では、創発的で建設的な議論ばかりで衝突がなかったといえば、それは嘘になる。

メンバーそれぞれの想いがぶつかりあうなかで、どうやって未来に向かった戦略を固めていくのかは、暗闇のなかで一筋の光を探し求めているような感覚だった。このフェーズを丁寧かつ親身に伴走して頂いた佐宗邦威氏や岡本佳美氏には、感謝してもしきれない。

ビジョン刷新で既に手にしたこと

ただ、改めて考えても、こうした投資や痛みを上回る大きな成果を手にすることができたと強く感じている。(大きな投資と痛みがあったからこそ、その分だけ成果を実感している面もあるかもしれないが、、、)

★新ビジョンを軸にした事業の進化
団体メンバーとは新ビジョンの原型を昨年8月頃に共有したわけだが、それ以降は新ビジョンをベースにした戦略に基づいて事業経営を行うようになっている。その結果、意思決定の軸が明確に変わり、既存事業でも新ビジョン・ミッションの達成に向けた変化が起き始めている。メンバーの意識も揃ったので新規事業への投資もためらいなく行えるようになり、今後は様々な新規事業が生まれていきそうな手応えがある。

★応援と共感の輪がさらに広がる予感
新ビジョンには自分たちの想いをそのまま表現したため、パートナー企業やパートナー団体の皆さん、支援者の皆さんを置き去りにしていないかという不安も強かった。ただ、先行的に意見を伺った方々からは、「すごくクロスフィールズらしさがあって共感できる」「これからもますます協業したい」など、非常にポジティブな反応を頂いた。自分たちの目指す世界観をストレートに表現したことで、仲間の輪は減るどころか、むしろ増えていきそうな感覚がある。

★【創業者⇔組織】と【メンバー⇔組織】の距離感の変化
誤解を恐れずに言えば、クロスフィールズという組織は、これまである意味では創業者である自分と一体化した存在だったように思う。しかし今回色々なプロセスを経てチーム全体でビジョンを刷新したことにより、自分自身と組織とを健全に分離できたという感覚がある。ある意味では、子離れした親の心境なのかもしれない。同時に、今回のプロセスは団体メンバーがビジョンと戦略とを自分事化する機会となり、団体メンバーと組織との距離感は近づいたように感じている。

最後に…

・・・以上、いつもの癖で長々と書いてしまったが、クロスフィールズがビジョン刷新に込めた想いと、そこに至った背景とプロセス、そして僕自身の感想を赤裸々に書き綴ってみた。

今回のプロセスでチーム全員で紡いだ「社会課題が解決され続ける世界」という新たなビジョン。クロスフィールズはこれからこの実現を目指して、チームで力を合わせて活動を行っていく。

ただ、当然ながら、ビジョンの達成は多くの方々との協働がなければなし得るものではない。ぜひ、このnoteを読んでくださった皆さんとともに、一緒に進んでいきたい。

そんな想いもあり、より詳しく今回のビジョン刷新についてお伝えすべく、新ビジョンをテーマにしたオンラインイベントを3回連続シリーズて3月に開催する。BIOTOPE佐宗邦威氏、Stanford Social Innovation Review Japan井上英之氏、法政大学石山恒貴教授、かものはしプロジェクト本木恵介氏といった豪華ゲストとともに、クロスフィールズの新ビジョンについて掘り下げていく。ぜひとも、ご参加頂けたらと!

vol 1. 「10年目で感じた限界とビジョン刷新に至るまで」(3/10)
ゲスト:BIOTOPE代表・佐宗邦威氏

vol 2.「社会課題を自分事化する人と文化の創り方」(3/17)
ゲスト:Stanford Social Innovation Review Japan発起人・井上英之氏
    法政大学・石山恒貴教授

vol 3. 「社会を変えるために、NPOはどう変わり続けるか」(3/22)
ゲスト:かものはしプロジェクト理事長/JANIC理事長・本木恵介氏


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