見出し画像

【読書記録】ローマ人の物語Ⅻ 迷走する帝国 / 塩野七生

要約

シリーズ12作目となる本著では、3世紀の衰退しつつあるローマ帝国を描きます。
1世紀末から2世紀にかけて栄華を極めた五賢帝時代が終わり、蛮族の侵入、ペルシアからの攻撃、財政難や疫病、災害に苦しむ時代に突入します。

本巻で特に印象深いのは、皇帝が次から次に変わることです。それも自然死ではなく、兵士による殺害や自死、戦死といった不幸な死が目立ちます。

3世紀以前のローマ皇帝は、血統ないし前皇帝の近親者から誕生しています。
もし皇帝に息子がいない場合は、わざわざ有能な者を養子にした上で継がせています。
このプロセスにより、皇帝の正統性を担保していたのです。
しかし3世紀に入ってからはこのプロセスは無視されます。
皇帝になるには軍事面の実力があることが最重要であり、推挙するのは主に兵士となります。

これにより元老院の立場がどんどん弱いものになっていきます。
共和制から帝政に移ってからも、皇帝就任を承認するという点でなんとか面子を保っていた彼らですが、軍という物理的なパワーに抗うことはできず、兵士が皇帝を擁立した際にはイエスと言うしかない状態になります。
つまり政治機関と軍事機関のパワーバランスが崩れた時代と言えます。

ではなぜそのような事態になったのかというと、蛮族やペルシアとの戦いが増えたからということになります。
ではさらになぜ戦いが増えたかというと、ローマが弱体化したからと言わざるを得ません。
弱体の原因は多岐にわたりますが、以下の要因が絡まり負の連鎖を起こしていたことが読み取れます。

  • 税収の減少(アントニヌス勅令が発端)

  • 蛮族の侵入やペルシア戦役による軍事費の増大

  • 上記に伴う財政難

  • 財政難により疫病対策や災害復興ができないこと

国が求めるのは、ローマの平和を取り戻した上で荒れた地を復興することになります。それが経済の復興にもつながるのです。
そうなるとまずやることは蛮族やペルシアを始めとする外敵を倒すことです。
だから皇帝にはとにかく軍を率いる強さが求められるようになるのです。
そして軍才が無いと見限られた皇帝は簡単に兵士たちに殺されてしまいます。
皇帝という地位に任期はありません。従って、不信任の表明は殺害しかないのです。
本書では211年に皇帝になったカラカラ帝から284年に死亡するカリヌス帝までを扱いますが、その70年余りで実に22名の皇帝が誕生しています。
(比較として、五賢帝時代は90年余りで5名です。)
これはつまり、それだけ殺されてしまったことを意味します。
先にも述べた通り兵士たちの不信任によるのですが、皇帝殺害があまりにもカジュアルな時代と言えます。
かつて皇帝が絶対として畏敬の念を抱かれていた時代は終わっていたのです。

皇帝アウレリアヌスの死に方もこのプロブスの死にようも、この時期の統治する側と統治される側の距離が、限度を超えて短縮していたことを示している。

要約と書きつつ、長くなってしまいました。。

感想

最強と思われた帝国も徐々に衰退へと向かいつつあります。
その過程として、政策の失敗や外敵の脅威が複雑に絡み合い、軍が主導する国家に成り代わっていきます。
この様子を読んでいると、太平洋戦争期の日本と重ね合わせてしまう自分がいます。
まさに「歴史は繰り返す」という格言を感じられる著作となっています。

そして単純に本巻は面白いです。
ハンニバルと戦った2巻やカエサルが登場する4,5巻はワクワクする面白さがあるのですが、12巻は衰退しゆく帝国でもがく人々の様子がそれはそれでドラマチックで面白いのです。

本シリーズは塩野先生の推測が多分に含まれていることもあり、歴史研究者から批判されることもあるようです。
それが分かっていても、読むのをやめられず12巻まで来てしまいました。
なぜなら本当に面白いからです。
さすが小説家であられることもあり、次が気になるという書き方をされていてどんどん読みたくなるのです。

残り3巻も楽しみです。


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?