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子宮頸がんはセックスでうつる性感染症。
そして20~30代の、まさにこれからこどもを産みたいという世代の女性に多いがんです。しかし、本来は予防も早期発見も、治癒も可能です。
予防接種(ワクチン)は、小学校6年生から高校1年生までの女子には公費で接種できるので、できれば性交渉をもつ前に打つのが理想的。副反応について問題視されていましたが、親子でよく話し合って、予防と病気について考えてみていただきたいと思います。そのヒントに少しでもなればと、大同病院の産婦人科医にお話を聞きました。(2023年9月6日配信)《子宮頸がんについて・その1》


子宮頸がんとは?

タカハシ 子宮は洋梨を逆さにしたような形をしていますけれども、その子宮に繋がる子宮の出口の首の頸部にできるがんを「子宮頸がん」といいます。
 一般的に子宮がん検診と言われるものは、子宮頸がん検診のことを指しています。一方、赤ちゃんができる袋のところにできるがんを「子宮体がん」といいます。

イズミン 原因は何でしょうか?

タカハシ 子宮頸がんのほとんどが「ヒトパピローマウイルス」というウイルスに感染して細胞が変化していくことでがんを発症するとわかっています。これはいわゆる性行為で感染をするものなので、男女誰でも性交渉を持った経験があれば感染の可能性があります。おおむね皆、感染していると考えられるウイルスですね。

イズミン なるほど。性的接触でウイルスを媒介してしまうから「性感染症」と言われるのですね。コンドームなどの避妊具で防ぐことはできないのですか。

タカハシ ずっとそれを使っていればできるでしょうけど、結局、妊娠・出産を経験するわけなので、どこかのタイミングで感染するということになってしまうんですね。ただ、9割以上の人では、体に備わっている免疫作用でウイルスは排除されます。ところがそのウイルスが無くならずに子宮頸部の細胞にいつまでもいると、細胞が変化を起こし、長い年月をかけて「子宮頸がん」という悪性の細胞に変わっていくと考えられています。

イズミン どのくらいの年齢で発症するんですか。

タカハシ やはり若い人にピークがあると言われています。20~ 30代の妊娠期にある世代の人に多くの患者さんがいます。そうやって子どもを産みたいというときに罹ってしまって、子どもを諦めなければならなくなることもあります。
 妊娠すると、妊婦健診の最初にがん検診をするんですけど、そこで初めて、おかしな細胞が見つかる人がいます。妊娠中に諦めるというよりは、がんの治療のために、少し早め、妊娠7~8カ月目くらいに帝王切開で赤ちゃんを出してしまって、手術なり、抗がん剤を使う治療をすることもあります。

性交渉をもつ前に打ちたい、子宮頸がんワクチン

イズミン 子宮頸がんには、いいワクチンがあると聞いています。どんなワクチンなんですか。

タカハシ 「パピローマウイルス」にはいろんな型がありますが、中でも主として子宮頸がんを起こしやすい型の感染を防ぐというワクチンです。2009年から日本でも小6~高1の女の子を対象とした接種が始まりました。これを打つことで、子宮頸がんになる前の「異形成」という“前がん病変”段階のものから、最終的には子宮頸がんを発症する率を5割から7割、あるいはもっと減らせるというデータがあります。
 ただワクチンを接種された方のうち、10万人中数名程度、意識消失とか体が動かしにくいといった身体症状を訴える方が出て、原因はよくわからなかったのですが、2013年から約10年弱、厚生労働省としては「積極的なワクチン接種はやめましょう」というお達しを出したんです。
 その間、日本産婦人科学会としては「打った方がいいです」という姿勢は貫いてました。現在、それらの症状とワクチン接種には関係ないという結論が出て、厚生労働省も2022年からワクチン接種の積極的接種の勧奨を再開しました。 
 ですので今は、小学校6年生から高校1年生までの女の子たちは公費負担で、無料で受けることができます。国が接種勧奨をしていなかった時期に接種機会を逃した20歳前後くらいの世代の方たちにも「キャッチアップ接種」ということで無料券が届いてるはずなので、機会があれば接種を検討いただけたらと思います。

イズミン 自分たちが定期接種の対象だった中学生くらいのときに、「打つ」という選択が難しかった大学生の女の子たちが、今いろいろ自分たちで調べて、接種率の回復について論文を発表したというニュースもありましたね。

シノハラ 2013年当時は、結構マスコミが大々的に報道して、いかにもそのワクチンを打ったら変になってしまうようなイメージをつくり出してしまいましたね。それが日本全国に広まってしまったから、親御さんとしては大事な娘にワクチンは打てないな、と思ってしまいますよね。科学的には、産婦人科学会も因果関係ははっきりしないと言っていたにも関わらず。
 やはりもう少し客観性が必要で、ある程度、科学的に考えて発言する人の意見も取り入れて行動できるといいですよね。新聞や雑誌はどうしても売れる方向に流されてしまうので、もう少し冷静な報道をしていただきたいとは思いますね。

イズミン つい先日も中学生の娘さんを持つ友人が、たまたま産婦人科の先生と話す機会があって、いろいろ話した結果、娘さんとよく話し合って接種を決めたと聞きました。そうやって科学的見地から情報提供してくださる方が周りにいるといいですね。

タカハシ そうですね。性行為でうつるウイルスということもあって、小6の女の子に話すのは、少なくともわが家では不可能です。なので、打つかどうかは親の判断になってしまうことも多いと思うのですが、性教育を兼ねて、ちょっと膝を突き合わせて話してみてもいいのかもしれません。

タカハシ 今は3種類あります。2023年4月から3種類目のワクチンが認可されました。パピローマウイルスには、いろいろなタイプがありますが、最初に出たワクチンは2種類、その次に出たのは4種類の型をカバーしています。新しく出た「シルガード」は9種類をカバーし、また15歳までに初回接種をしたら、通常は3回接種が必要なところ、2回の接種で済むようです。
 カバーするウイルスの種類が多ければ、当然がんになる確率も下がるということになります。

イズミン 3回も打つのは大変ですね。

タカハシ 3回目は高校入試が終わってからでもいいんじゃないかと思うんですけどね。高校1年の終わりまでに打てば良いので。でも、性交渉デビューしちゃったら、意味がないので、海外では小6ぐらいから打つようです。

イズミン 男性が打つのもアリなんですか。

タカハシ オーストラリアでは男性も対象になっているんじゃないかな。咽頭がん、陰茎がんもパピローマウイルスですが、これらを防ぐと言われています。

イズミン オーラルセックスですか…。なるほどワクチンはできるだけ打ったほうが良さそうですね。心配だったら主治医の先生とかに相談できるといいですね。

タカハシ そうですね、小児科とか、予防接種の専門家とか。だいどうクリニックには予防接種センターというのもありますし、婦人科に来ていただいてもいいですし、小児科でもそういったお話に対応しています。相談していただければ詳しくお話することもできると思います。

今日はありがとうございました。

ゲスト紹介

高橋 千晶(たかはし・ちあき)
大同病院 産婦人科部長。日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医。
医師が死亡診断書を書くのは当たり前。でも「出生届」を書けるのがいいと、産婦人科医を志す。思いやり深く、サバサバした感じが患者さんに人気。コロナ前はママさんバレーにチャレンジしていたが手指を脱臼骨折して最近はゴルフをたしなむ。深夜のローカル番組「道との遭遇」(CBCテレビ)にはまるなど、マニアックな側面も見せる。

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