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メモリアルフォト

病院で余命宣告を受けてからの2週間は
常に目が届くところで世話をして
私は最高の従者となるべく
ラルゴの挙動を見逃さないようにしていた。

至らない点はいくらでもあって
準備不足や勉強不足を悔やんでいるけれど
あの時に出来る最善を尽くした
それだけが救いになっている。

今、1番の後悔は何かといえば
ラルゴとの写真が少ないことに尽きる。

ラルゴの写真は残しているけれど
ほとんどは私が、自分のスマホで撮ったので
単体か、旦那の上で寛ぐラルゴが多い。
解せぬ。

ラルゴと一緒の写真といっても
スタジオでポーズをとって撮影したような
他所行きで、ぎこちないものではなく
わがまま放題の王様ラルゴに
振り回されている従者といった
日常そのままの写真。

もし、そんな写真が残せていたら
見返すたびに苦笑して
ラルゴとの毎日を振り返ったかもしれない。

撮ってないのだから、言っても仕方ない。
案外と割り切っている自分もいるので
泣いて悔やむ程の執着はないように思う。

ただ淋しい、そればかりだ。 





我が家の周りは、元々が畑だったそうで
その名残りか、住宅街とはいえ川が流れ
都会型のカワセミが生息している。
雑木林や小さな山も周囲にあるので
四季折々の景色は美しい。

私は人ごみが嫌いなだけでなく
見知った人でも出会すのは苦手だから
人の少ない時間、少ないルートを選んで
こっそり散歩に出掛けていたけれど
ラルゴとの散歩で眺める景色は
とても好きだった。

落ちていた八重桜の花を食べようとしたり
青々と茂る草の中をいつまでも探索したり
積もった落ち葉の中を恐々と歩いたり
寒がって5分もせず抱っこをせがんだりと

30分程度の散歩でラルゴがしていたことは
いくらでも思い出せる。

病院に挨拶へ行った帰りと、その翌朝に
ラルゴを抱っこして散歩コースを辿った。

病院帰りの散歩は残暑が厳しくて
早々に打ち切って家に帰ったが
翌朝は、それでも空気が涼しかったので
スマホを片手に、一緒にみる風景を
出来る限り写した。

川の近くでは、水音や鳥の声を聞きながら
賢者のような顔をしていたラルゴも撮る。

周囲の音に聞き耳を立てていたラルゴ

賢そうなラルゴを撮れたと満足する一方で
その時の私が一緒に映っていないことは
やはり残念に感じていた。

そんな中、植えられた花が綺麗なお宅があって
偶然、掃除をしていた奥様と挨拶をした。

パイプを咥えながら、花壇の手入れや
DIYをしているご主人様の姿はよく見かけ
挨拶やちょっとした世間話をしていたが
時折、奥様も一緒にいらしたので
お互いに顔は知っている。

奥様は、抱っこ紐の中のラルゴに
今日は少し元気がないの?と
声を掛けてくれたので、事情を話した。

そして、いつも見ていた花壇を
思い出に撮りたいとお願いもした。
花壇は夏を思わせる鮮やかな色の花々が
綺麗に咲いている。

花壇は外壁に取り付けられた4段の棚に
鉢植えの花が飾られているのだけれど
顔の高さまで色とりどりの花があるのは
中々に壮観だ。

この棚を、ご主人様が作っていらして
完成までの経過を見ていたから
何となく感慨深い。

ラルゴと見る、最後の花をスマホで撮ると
奥様が、よければ一緒の写真を撮りましょうか
そう言ってくださった。

ほとんど寝ずに、泣いてばかりいた私は
赤く腫れぼったい目の酷い顔だったが
それでも写してもらった写真は
ラルゴを抱いて笑う、嬉しそうな自分がいた。

家の中ではなく、散歩道で撮った
ラルゴとの貴重なツーショット。

いつもの道、最初で最後の1枚は
本当に良い記念になった。 





もし時間とお金の余裕があったら
クラウドソーシングでカメラマンを依頼して
ラルゴと散歩をする私と旦那の姿を
何日か撮影してもらったと思う。 

写真好きの親友に謝礼を出して
お願いしたかもしれない。

撮影中に、顔見知りとばったり会えたら
動物病院の先生にお願いしたように
一緒に記念撮影をしてもらう。

時間だけが作れたなら
旦那と私で順番にカメラマンをして
散歩の様子を写真に残したかもしれないし
旦那にスケッチを頼んだかもしれない。

その中から良いものを選んで
フォトブックでも作れば
よい思い出になっただろう。

ふと、今ある画像でも作れるのでは?
思い付いて検索すると色々と出てきた。
無印良品でもフォトブックが出来るようで
布製の表紙は、静かな趣がある。 

【 BON(ボン)  Order Book 】

素敵だなと思いながら
本が手元に届いたときまでも
私は想像する。

ラルゴを慈しむように眺めながら
やはり泣いてしまいそうになって
本棚の奥に封印してしまうだろうなと。

今までのクセで、椅子の上で胡座をかき
頬杖をついて、ぼんやり考えていると
いないラルゴが膝の上で身を乗り出し
スマホ画面を覗き込んでくる。

長い尻尾が、目の前を行き来する様子まで
ありありと感じて、泣きながら笑う。

ラルゴの気配が、色濃く漂っているのに
膝の上に飛び乗ってくる犬は、もういない。

まずは、椅子での胡座をやめようと思う。










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