大学教員の採用人事を知る3―面接・模擬授業編

2017/2/11若干改訂

面接で落ちるのはつらい

いよいよ大学教員の採用人事シリーズ最終回である。大学の教員採用人事において、面接・模擬授業は選ばれた人だけが到達できるステージだ。面接に呼ばれたら、それまでの自分の努力に少しだけ自惚れてもいいかもしれない。

それだからこそ、面接で落とされるとそのダメージは計り知れない。ごく親しい仲間に、面接に呼ばれたことを告げて称賛され激励されていたかもしれない。今まで支えてくれた家族に面接に呼ばれたことを告げて、あとひと踏ん張りだと応援してもらっていたかもしれない。それゆえ、面接に呼ばれた後の不採用通知は書類審査で落ちた時のダメージの比ではない。

この話は、自分の経験談である。自分は面接に何回か呼ばれたのだが、その中で採用に至ったのは1校だけであった。落ちた大学はいずれも超有名大学だったので、周囲の憐れみと「でもまあ、やっぱりね」という軽い蔑みを含んだ視線は、不採用で落ち込んだ心をさらに傷つけた。家族の「次があるから、大丈夫」の声は、悪気がないのは十分承知しているが、さすがに何回も聞くとストレスになっていった。

なぜ落ちたか?

正直なところ、面接に呼ばれ続ければ、かならずどこかで採用される自信はあった。一方で、面接に呼ばれ続けなければ採用は難しいとも考えていた。なぜなら、大学教員公募の面接に関するマニュアルがないので、数をこなして経験値を上げていくしかないと思ったからだ。

公募の面接に関する情報は非常に少ない。民間企業の就活では、模擬面接などを就職課が企画していることも少なくなく、またマニュアル本も豊富にあるので、雰囲気をまったく知らずに面接に挑んだという就活生はほとんどいないと断言できる。しかし、大学公募の場合こうしたものが一切手に入らない。

その理由として、主に次の3点が考えられる。第一に、面接経験者が圧倒的少数だという点である。1つの公募において、面接までたどり着く応募者は多くない。それゆえ、身近な同年代の仲間たちを見回しても、面接経験者は少数である。つまり、市場が限られているのである。これは逆に、公募の面接がいかに狭き門かを窺い知ることができるというものである。第二に、面接経験者であっても、民間の就活のように何十社もこなしているわけではないという点である。応募者側の立場よりも、当然ながら採用者側の方が多く面接を行っている。つまり、採用者側の立場にない限り、公募面接について指南できるほどの経験値を持っている人は少ないのである。第三に、公募の面接は独自色が強く一般化し難いという点があげられる。少なくとも自分が経験した面接は、応募者側であれ採用者側であれ、一度として同じ面接であったためしがない。それゆえ、公募の面接は○○である、と言いにくい部分がある。

これに付け加えるとするなら、面接まで到達した人は基本的に優秀な人ばかりなので、いずれ決まる場合が多い。すると、いざ自分が面接に呼ばれた時、周囲からアドバイスをもらおうにも、そのときには自分の周りから消えていなくなってしまう。しかも大学教員になった人は、特に仲の良い可愛い後輩以外にはそうした内部事情を伝えたがらない。もちろん、上述したように「大学公募の面接マニュアル」というニーズは圧倒的に少ないので、口頭で伝えたがらないものをあえて文字化する必要もない。

自分が落ちた理由をマニュアルのなさに求めるのは情けない気持ちもあるが、しかしこうした事情は厳然とした事実なのだ。仮にマニュアルがあったら、それを参考に面接の練習を必ずしていたに違いない。大学教員公募の面接は、相手をまったく知らずに、丸腰で戦いにいっているようなものなのだ。

この記事を必要とする人へ

したがって、この記事は大学教員公募の面接に関する、はじめての文字化されて一般に公開されたものと言えるだろう。(ほかの記事もそうかもしれないが) 丸腰で戦いに挑むより、ある程度の情報があったほうが余裕をもって戦えるのは、面接でも同じである。ぜひ、この記事を読んで戦いに備えてほしい。

この記事は、主に以下のことについて解説している。

・模擬授業

・面接

内容を先取りして言うと、模擬授業は通常の授業とはまったく異なる。いつもと同じようにやればよい、と考えるのは間違いである。断言するが、いつもと同じようにできることは皆無である。また、面接でよく質問される項目についても解説している。この質問を中心に準備をしておけば、大きく外れることはないはずだ。加えて、面接に臨む場合のポイントも書いた。

この記事の情報量は約10,500字である。今年度の担当した人事の模擬授業について、よかった点と悪かった点を詳細に書いている。多くの人にとって参考になるのは間違いない。その他、控室にいるときから審査がはじまっていることなど、出し惜しみせず面接のすべてを書いた。面接を通れば晴れて大学教員である。その価値は計り知れない。

それでは、早速すすめていく。

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