見出し画像

フランス人のバカンスと老後の話

 過去フランスに何度か行ったが、当然のこととして、まぁまぁまとまった休みを取らなければならない。
 短い時でも1週間、また、せっかく行くのだからと、あれこれ頑張って2週間滞在したこともある。
 やっとの思いでフランスに辿り着くと、決まってこう言われる。
 「えぇ?たった2週間だけ??」
 「2週間で何ができるの?」
 「なんで?なんで休まないの?」
 「働きすぎじゃない?」
 「フランスでは法律で3週間以上取らないといけないんだよ」

 などなど。

 だいたい、夏のバカンス時期に行くことが多かったこともあって、それとの比較になるのだが、もう、こればっかりは国民性としか言いようがない。
 だって、多分、仮に法律で決まってたって、日本人そんなに休まないんじゃないかと思う。事実、日本でも例えば残業の規制は法律で決まっているけど、結構な割合で全然守っていないし、なんだったら「休み取るよりサービス残業してるのがえらい」っていう風潮も、大っぴらには言わないまでもゼロではないと思う。

 これに関しては、一概にどっちがいいというのもいえないかもしれない。
 というのは、この日本人の「他の人が休んでいないのに自分だけ休めない」「自分が休んだら何か困る人がいるかもしれない」という精神が、夜も安全に歩けて夜中でもコンビニが空いてて宅配便が翌日に届き、電車が遅れない社会の一助になっているかもしれないじゃないか。
 そういえば、フランスのスーパーチェーンが日本に上陸したけど、フランス人の幹部がきっちりバカンスを取るために崩壊した、という話を聞いたことがある気が。。

 ともあれ、フランス人は、お客さんが困ろうがなんだろうがちゃんとバカンスに行く。お医者さんだって誰だって行く。それに文句を言う人などいず、そういう社会である。

 どっちかというと、夏休みにバカンスに行くと言うより、「バカンスに行くために一年働いてる」と言う感覚のほうが近そうである。もっと言うと、「フランス人の一年とはバカンスのことであり、それ以外の時間はその準備である」という方が近いかもしれない。
 実際、フランス人の夏のバカンスにかける情熱は、日本人の夏休みとはちょっとけたが違う。大体、南フランスに移動して、貸別荘みたいなのやキャンピングカーで1ヶ月間ただ何もせず遊んで暮らす。ひたすら自由な時間を満喫する。
 自由な時間というのは物理的時間的なことだけでなく、精神的意識的な意味も多分に含んでいて、例えば、子供たちに普段は厳しく接していても、バカンスの期間だけは絶対に何しても怒らないとか、好きなものなんでも買ってあげて甘々になる、という家も多い。
 それくらい、非日常(もしくはこっちが日常か)な時間を、なりきって力いっぱい楽しむ期間だといえる。

 でも、よく考えたら、人生単位で見ても、どうも彼らはリタイア後の人生のことを、バカンスのように捉えている節がある気がする。
 つまり、年金生活になる60歳以降遊んで暮らすために今働いている、みたいな感覚である。
 これは実際何回か耳にした気がするのだが、
 「あーあ、早く60歳にならないかなぁ!」
 っていうようなことを割とみんな普通に言っていたように思う。
 これは日本の感覚とちょっと違うのではないだろうか。

 日本でリタイア後の人生、というと
 「まだまだこれから」「イキイキ元気に」「健康寿命を」「老後を計画的に」
 みたいな感じで、「年取るのが悪いこと前提」みたいな捉え方をすることが多い気がする。なるべく年を取らないほうが良い、若く見えるほうが良い、というのが常識になっているようだ。

 フランスの感覚は、「年取ることのマイナスをなんとかゼロに近づけよう」という雰囲気ではあんまりなく、「年取ったおかげで今までできないことができるようになったから楽しむ」みたいな雰囲気かもしれない。

 なにしろ、60でも70でも普通に恋愛しますしね。
 みんなよく食べるし、飲むし、出かけるし、確かにフランスの老人たち楽しそうにしてます。

 そういえば、うちの母とアンドレもそうでしたが、フランスの人定年後に南仏に移住する人が多いんです。それがちょっと憧れの人生設計というか。。
 そのあたりも「人生のバカンス」っぽくていい感じですね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?