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家庭の誕生

本多真隆、家庭の誕生−理想と現実の歴史を追う、筑摩書房、2023年11月10日発行

”私たちはしばしば、『家庭』の問題と、社会や政治の問題は離れたものだと理解しがちである。しかしこれは必ずしも正確ではない。福祉や雇用環境などの社会のしくみは、何らかの家族モデルを想定して組まれている。
近現代日本の『家庭』をめぐるさまざまな対立は、私生活のあり方に関する見解の相違であるだけでなく、社会構造の相違でもあった。『家庭』について考えることは、私たちがこれからどのような社会をつくっていくかという問いと不可分である。”

家庭の誕生

人は一人では生きられない。多くの人や共同体(コミュニティー)に支えられ、また支えながら私たちは生きています。
最も、近くの共同体は家族。
しかし、近くにいるからこそ考える機会が少なかったり、つい即時的な効果−例えば関係性の改善など−を求めてしまうかもしれません。

リハビリテーションや医療福祉の現場で、ほとんど必ず、クライエントのキーパーソンや家族や家庭について確認します。

当然、年代や地域、住み方などによって、家族の在り方や価値観、関係性も異なります。現場レベルでは、家族を変えること自体は困難であり、ある程度は受け入れながら支援を続けていきます。

しかし、家族観や家庭観は日本の歴史的な動きや変遷があり、世代や立場、地域などによって、大きく価値観が異なります。それらの理由及び背景について、本書を読むと良くわかります。

そもそも、「家庭」は日本に古くからある言葉ではなく、始まりは、明治時代。そして、大正、戦前、戦後、平成と時代が変わりゆく中で、哲学者、政治家、作家、フェミニスト、主婦、男性労働者など、様々な人が、家庭について模索してきました。それこそ、時代や立場によって、発言が変わったり、行ったり来たりしたり、読んでいて混乱しつつ、面白いところでもあります。それほど、多様な解釈、変遷がある言葉なので、人による相違があるのは、ある意味当然だと理解できます。

そのような変化の中で、仕事、社会保障、教育など、家族と国の役割や在り方を変えながら、試行錯誤し、そして現代にどのような問題が残ってきているのかが見えてきます。

例えば、高齢者ほど、長男か家督をなぜ重視するかと言えば、1898年施工の明治民法の家制度が基盤になっているからだと分かりました。この特徴は、家名、家産、家業を継承させる仕組みであり、それが言わば家族において最も重要性が高いことであった。また、明治維新後、産業の変化や農村の貧困による人口問題、また江戸からの身分改革、そして立身出世などもあり、長男以外が都市部に行くなど、人の移動がにつながった。
そして、第二時代戦後の生活困窮期には都市部に出ていた家族が農村に帰って飢えを凌ぐなどしながら、家族を支えていた。

このような歴史があり、おそらく農村の高齢者ほど、農家に家があることの意味を強く感じているのではないでしょうか。それこそ、食糧安全保障の面や、自然環境の面においても。だからこそ、そのまま農村に住み続けたい。しかし、その家族においても、また別の歴史を歩んでいるので、違う価値観になっていく。それらが、家族の関係性や緊急期に問題として顕在化しやすいのではないでしょうか。問題自体は変わらなくても、その構造や原因が理解、推察できると支援の質にも関係していくると思います。

同様に、各年代、地域によって価値観は異なりますが、歴史や地域における流れも俯瞰できるので、とても参考になると思います。

そして、家庭について考えることは、私たちの社会や働き方について考えることと同義です。クライアントの背景にある価値観や思いは、潜在的であり言語化できないことがほとんどだと思います。だからこそ、それについて気づき、また対話出来れば、良い支援に繋がる可能性があります。それと同時に、ご自身の価値観や家庭観についても新たな問いや気づきに繋がるでしょう。

医療従事者だけではなく、多くの方に読んでほしい1冊です。

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