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臨床と宗教〜死に臨む患者へのスピリチュアルケア〜

死に向き合う医療者の苦悩や恐れに対する医療では解決できないヒトの根源に触れる1冊。

誰もが死を迎えることを考えると、全ての医療、福祉関係者にも大切な内容。

本書は主に、著者の孫大輔氏と5名の医師や宗教家との対談をベースに、各識者の専門性や実践、またその領域における歴史的な変遷と共に、孫氏の臨床上の経験や苦悩、教育や普及について幅広く纏められています。

特に、日本における宗教の立ち位置や人々の認識はとても重要で、歴史や現在地を知る上で非常に参考になります。
グリーフケア、スピリチュアルケア、死生観、ACP、哲学、マインドフルネスなど関心のある方にはとても学びになると思います。

巻末の「スピリチュアリティのかなたに」は圧巻の内容で必読です。

1)宗教の2つのタイプ_創唱宗教と自然宗教

創唱宗教はキリスト教やイスラム教、仏教など。
自然宗教は、八百万や先祖代々、自然に対して畏敬の念を感じるような日本人が古来からある死生観の様なもの。
日本では、無宗教とは「創唱宗教の信者ではない」ことを指すが、広い意味では自然宗教やお盆、冠婚葬祭などの宗教観を持っている。

2)論理や医療の侵襲性

個人の価値観やグリーフなどの繊細な話題を扱うときや触れる時に、論理的な説明を求めて単純化することは侵襲性を伴う。
その人の世界を謙虚に丁寧に聞くことが必要。例え分からなくても、その人の中から溢れてきたものを一緒に大切に眺めさせて頂く。

理解しようするあまり、相手を傷つけることはまさにコレ。仕事面だけではない。論理の限界や功罪を意識しないとすれ違う。

3)成果を求めるアプローチの限界

結果や効率性を求めるデジタル的な医療では、網の目からこぼれ落ちるものがある。
デジタル的なアプローチをしている医療は死というカテゴリーを持っていない。  

4)エンパシーの育て方

医療には文学といった芸術的なものが非常に重要。これからの医療従事者に必要とされる能力の一つがエンパシー。
教官は相手の心理を想像する認知的能力と言える。それを伸ばすために良い文学作品を読む。
文学は科学的あるいは実証研究的に取り扱いにくい主観の世界をリアルに描き出す一番良い形。

5)日本における集合的な悲嘆

共に同じ様なことで苦しんでいる、心の痛みを持っている。そのことを分かり合えるということが大変大きな経験である。水俣病の時代くらいから始まったことが大きな文化動向になってきた。事件、事故、災害、紛争、戦争などを通した集合的な悲嘆、グリーフにである。これが現代人のスピリチュアリティにとって、実は、とても重要な経験。太平洋戦争、日本航空墜落事故、阪神淡路大震災、やまゆり園事件、東日本大震災など。
  

6)「悼む」という言葉と「行為」

島薗進先生は、「悼む」という行為を、「祈る」とは異なり、罪悪感がかかわる行為だと述べる。啓蒙主義と合理主義が行き着いた先に人類が20世紀で経験したものは2度の世界大戦と悲惨な虐殺や無惨な死であった。

また、日本人の私たちは大きな災害を何度も経験し、その度に大量の死者が発生するのをみてきた。その時、生き残った私たちは罪悪感と共に死者を入れいし、悼む行為をおこなってきた。

7)キーワード

サファリング、医療社会学(タルコット)、患者と一緒に限界に佇む、冥の世界、もやい直し、のさり、念定慧、インタービーイング、表層と深層、不二、霊性



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