見出し画像

ー詩と形而上学ーNo.33


この夏のこと


駅前から堤防に向かって歩いたその先にある
カーブミラーに映った黄昏
その、ブルーモーメント
被写体として最適化された
青の導きに身を任せながら
嫋やかな名画を透かしたような
嘗ての時代の肖像画を眺めている
黄色のスケッチブックを一枚破いては
機械的に折り畳んでいる


飛行機として秋空に放したその紙は
螺旋としても楕円としても不十分なまま
何かを語りかけるようにして
東部戦線の戦場で散った兵士の
最後の優しさのような柔らかな着地をした
それは花の冠を探すような手つきのまま
陽射しのあたる場所に心地好く根を生やした
芝生の艶やかさを撫でるようにして消えていく


シベリアの針葉樹林で白い狼が通り過ぎていく
カレンダーが存在しない世界で
ほぼ永遠に流れ続けている小川のせせらぎの
その傍の苔の中に琥珀色の音楽を見つける
永久凍土が数世紀溶けないように
君の背負った孤独も溶けないのだろう
長い夏の冬眠から目覚めて
北半球の哀しみの半分を抱えている


渇きすぎて濃度を増した青色
それは、記憶されるまでもなく
無為に、追憶されていくのだろう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?