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日産の自動運転椅子で企業文化を考える

2016年に発表された日産自動車の自動で戻る椅子、INTELLIGENT PARKING CHAIRのビデオが、8年の時を経て何故か海外でシェアされています。

日本の技術力に注目して称賛する形でのシェアがほとんどです。これは大変に喜ばしいことだと思います。でも私はあえて違う切り口で海外の読者向けにリンクトインで投稿をしてみました。すると活発な議論が生まれました。

先に断っておきますが、以下の投稿の和訳を読んで気分を悪くされる方もいると思います。否定的な反応も大いに歓迎します。

以下のような投稿です。

技術の話を違う角度から突いてみる

日本の企業文化

オフィスの椅子が完璧に揃っていなくても誰が気にする?日本人だけだ。

日本人は礼儀正しさ、清潔さ、きちんとしていることなどで知られ、海外でも評価が高い。しかし、いったん日本国内に住んでみると、それは往々にして行き過ぎで窮屈である。日本の会社では形式的なことに数え切れないほどの時間とエネルギーを費やし、新入社員が一歩でも怠ったり逸脱したりすると先輩から叱られる。

若い人には同じ時間とエネルギーをもっと大切なことに使ってほしい。

現代の日本人は、こうした形式が永遠の伝統だと信じている。しかし、その多くは1950年代以降の高度経済成長期に生み出されたものである。一世代、30年を越えた視界を持つのは難しい。身の回りの「伝統」は私たちが思っているほど古くないのだ。既得権益を握る年寄が伝統ぶって若者を搾取している事例はたくさんある。目を覚まし、無駄なことを学び直せ。

頭は良いが賢くない

日本には優秀な技術者はたくさんいる。自動運転の椅子を作るのに必要なものを想像してみてほしい。驚くべき技術の凝縮だ。

でもため息が出る。日産のエンジニアたちがどのようにこのアイデアを思いついたかを想像してみてほしい。彼らは会議の後に椅子を直さなければならない苦痛を感じていたのだ。一方、アメリカではオフィスの椅子が完璧に揃っていなくても誰も気にしない。

何が人々の生活に本当の痛みをもたらしているのかを知るために、彼らはもっと社会勉強に行くべきだ。

海外読者からの反応

私の突いたポイントに賛同してくれるコメントが多かったのですが、反対されるケースもありました。ここで海外読者からの私の見方に否定的なコメントと肯定的なコメントを一つずつ紹介します。

日本企業のこれからを考える上でも大事なポイントを以下の2つのコメントは突いていると思います。

否定的コメント

非日本人として、主要な運動学チェーンと位置決めシステムは多くの種類の自律走行車に適用可能であり、簡単に転用できるのに、これを時間の無駄と考えるとは驚きだ。これはあまりラテラルシンキングではないが、予想されることだ。

無駄だったのは、ここで止まっていることだ。なぜなら、日産には、車両設計とダイナミクスにおいて、18年間マイルドな、あるいは全く革新的でなかった小康状態となったものに対して、彼らが持っていた先発性を活かすだけの十分な意味のあるリーダーシップがないからであり、現時点では、トヨタやヒュンダイに追いつくためにできることはほとんどない。EVでも、ハイブリッドでも、ロボット工学でも。オイル漏れはあるかもしれない。
実際、スカイラインやGTRを追い求める熱狂的なギア・ヘッドと、90年代の技術を持つ人たち以外には、日産がうまくいっているとは思えない。

私なら、20年間の居眠り運転のせいにするだろう。

フェアレディZ Z33 所有者

リンクトインコメント

ひとつ断っておくと、この人は少し誤解しています。私が「無駄」と言ったり、「エネルギーをもっと大切なことに」と言ったのは、高度な技術開発努力に対してではなくて、企業文化について述べたものです。ですから、この方のコメントの核心部分、リーダーシップの部分に私も同感します。このことについてはコメントをくれた方にも説明しておきました。

肯定的コメント

一方、実際に日本企業と仕事を誌ているアメリカ人の方からこんなメッセージを頂きました。

日本のビジネス文化についてのあなたの投稿を見て、興味を持ちました。私は現在、日本の超大手複合企業のコンサルティングをしていますが、社員は信じられないほど優秀で勤勉です。しかし、経営陣は実際の戦略や戦術よりも、名刺や電子メールの署名、スライドのフォーマット、大きな形式的な会議の議題について議論することに、はるかに多くの時間と情熱を費やしています。

筆者へのメッセージ

これはまさに私の頭にあった数々の事例ですが、日本企業と仕事をしている外国人が、日本のリーダー、特に中間管理職が形式を全うすることにのみ神経をすり減らしているのを見て、ウンザリしている点が衝撃的でした。

若い人材を型にはめる時代ではない

Alfred Wahlforss氏のジェンスン・フアンに関する投稿

先日、Merlin AIというスタートアップの共同創業者のAlfred Wahlforss氏のリンクトイン投稿が大きな注目を集めていました。写真に一緒に写るのはエヌビディアのCEO、ジェンスン・フアン氏です。

AIによるGPUチップ特需で勢いがとまらない同社を率いる台湾生まれのフアン氏。Wahlforss氏はそのフアンCEOから受けた教訓を綴っています。その中で以下の内容が印象に残りました。

Nvidia bets on new grads to lead huge projects. Their inexperience means no boundaries. (エヌビディア、巨大プロジェクトのリーダーに新卒を起用。彼らの経験の浅さは、境界がないことを意味する。)

Wahlforss氏のリンクトイン投稿

未経験者という言葉は非常に否定的な響きがあります。しかし色がついていないということでもあります。旧習に疎いことを武器に境界のない発想で暴れてもらうということでしょうか。

見出した活路のスケールを広げたのが高度成長時代。スケール化には標準化、形式化は大事な要素だったのだろうと思います。しかし高度成長時代の成長材料は何十年も前に賞味期限が切れてしまいました。ふたたび活路を模索して久しい日本。活路を見出すには古いやり方に囚われず、常識を疑い、核心部分に最短距離で切り込む若いエネルギーが必要です。

おじさんと年寄りはどいてなさい。

追記:

上述のリンクトイン投稿をきっかけにアメリカ企業幹部の方からメッセージを頂いてズームでのミーティングとなり、私の専門であるデータ関連の仕事の誘いがありました。上のトピックからはズレますが、こうしたオンライン上での「別の話題」から会話がはずみ仕事の依頼につながることもあります。だからリンクトインで頻繁に発信するとこんな形で仕事のネットワークが広がります。

筆者について

田中乃悟です。米国大学院で博士号をとり、石油企業などを渡り歩いていました。前職で草創期から勤めていたシリコンバレースタートアップが317ミリオンドル(当時の為替レートで365億円)で買収されました。今ではソロプレナー(独り起業)しています。独立してかれこれ7年になります。

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