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メール一本書いたら一晩で180万円の売上になった話

シリコンバレーでソロプレナー(独り起業)している田中です。独立してかれこれ7年になります。

前職で草創期から勤めていたスタートアップが317ミリオンドル(当時の為替レートで365億円)で買収されました。そこで得たソフトウェアエンジニアリングやデータサイエンスの実務経験をもとにシリコンバレースタートアップなどを顧客にコンサルティングを始めたのがきっかけです。

やがてコンサルティングから発見した各企業共通の問題を解決するサービスを始めました。複数のオンラインビジネスアプリケーションに散財するデータをひとところに集めて、経営判断に役立てるサービスです。そういったデータのながれはデータパイプラインとよんだりします。

そのデータパイプライン事業、セットアップは無料にして、モニタリングやメンテナンスで定額のお金を継続的に頂く形態を取っています。システムは自分で開発しました。複数のパイプラインを設定・管理しやすいように作ったので、一人でたくさんのお客さんにサービスを提供できます。(*)

ここでタイトルの話になってゆくのですが、長年このサービスを使ってくれているスタートアップから追加の注文が昨年届きまいした。データパイプラインをもう一つつなげるだけなので、例のごとくセットアップは無料で毎月の料金を少しだけ多くもらうつもりでした。

しかし、この新しいパイプラインのデータを拾ってくる元のオンラインアプリケーションとの統合が殊のほか労作業で、通常の設定が1日で終わるのに対し、先方の準備の問題もあって64時間程度かかってしまいました。

コンサルティングをするときは時間で料金をもらっていましたが、データパイプラインサービスは設定後は自動サービスなので定額制にしていました。今回はそれが仇となったというわけです。

顧客とのやり取りが尽きず、ペイしない追加作業が続きます。折しもシリコンバレーのスタートアップやテック企業はレイオフと予算カットの嵐です。長年のお得意さんなので失ってはいけない、ここはぐっとこらえて複数年でビジネスを考えようと言い聞かせて頑張ってましたが、昨日、作業しながらもう限界だなと結論しました。

そこで懇意にしてくれているその会社のCOO(最高執行責任者)にメールを打ちました。上記の事情を伝えて、こちら側に180万円ほどコストがかかっている旨を伝え、交渉の余地はないか相談したのです。(実際、時給で働くときはもっと取るのですが、今回は私の落ち度もあるので低めに出しました)

一日立った今日はミーティングをする予定でした。作業関係の話が一段落した後、COOが私の打ったメールの話を持ち出し、支払いに応じてくれると快諾してくれました。

180万円のコストといっても独り会社なので私の時間給の換算でしかありません。前述のようにそれは取らずに長期的な関係を大事にしようという考えもあったので、入ってこなくても何とかなるお金でしたが、払ってくれるのは非常に助かります。

すべてはメールを打つか打たないかという違いだったというわけです。

私の作ったシステム、提供しているサービスは、その会社の運営で大事なデータ基盤の一部で、何年も信頼されてきたという前提があります。だから今回支払ってくれなくても関係がこじれることはないだろうなという安心感もあって、今回はメールを打とうという判断になりました。

すべては信頼あっての出来事です。

実際、今日のミーティングでも、今後さらに社内需要が高まる予定なので、今年も追加サービスをするから宜しくと言う声もいただきました。

まとめになりますが、私の働くアメリカでは

"Get what you deserve."

という表現があります。つまり自分が受けるに値するものを得る、自分の価値に相応する対価を得るということですね。これは多くの人がそうなって当然、そうでないなら不公平だと考えるところです。

同時に、

"You get what you negotiate."

とも言います。つまり、自分が交渉して勝ち取った分だけもらえる。同じ価値を提供していても、交渉しない人は対価を得られないということです。

物事はすべてが交渉です。交渉するには勇気とコミュニケーション力が必要になります。アメリカ人でもこれを苦手とする人はたくさんいます。交渉もせずに自分が不公平な立場にいると愚痴をこぼす人もいます。

独立してビジネスをしている身として、私は後者の"You get what you negotiate."という教訓を片時も忘れません。

自分でビジネスをしていない人でも、転職時の給料や待遇、物の売買、家事の分担など、人生は交渉ごとの連続です。

それを忘れなければメール一本で180万円転がり込んでくることもあるわけです。おわり。

(*) 同様に自分の時間を超えて提供できるサービスとして、ソフトウェアアズアサービス(SaaS)を作って、多くの人がこの有料サービスを使ってくれています。この話はまた今度。

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