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迷い子が集う家

あれは私が小学校四年生ぐらいの時だろうか。

そろばん塾を終えた私は自転車をこぎ
夜帰宅した。
家族は既に夕飯を食べ始めていたが
何やら盛り上がっているようだ。
玄関先まで家族のガヤガヤワヤワヤとした声が響いた。

私「ただいま~。どうしたの?」

 
父「おかえり。今、迷子が来たんだよ!迷子の子!」

 
私「迷子?」

 
 
話によると、私がそろばん塾で珠はじきをしている間に
我が家ではドラマがあったらしい。

 
 
家族が夕飯の支度をしていると突然、3歳くらいの見知らぬ男の子が家の中に入ってきた。

「歩いてきた。」

その子はそう、応えたらしい。

 
親御さんはさぞ心配し、探しているだろうと、慌てて警察に連絡したり、家の近所に親らしき人がいないか探したり、その子の様子を見たりと
バタバタしたらしい。

警察からは、我が家が誘拐をしたと決めつけられ
通報者の父親はだいぶ嫌な思いをしたらしい。

 
その男の子の家族は、子どもが家からいなくなったことに気づいていなかった。
だから捜索願いが出されていなかったのだ。
その話から推測するに
親だけ大人だけで、だいぶ盛り上がっていたのかもしれない。

 
 
やがて親は子どもがいないことに気づいて、警察に捜索願いを出した。
我が家が保護していた子と特徴が一致し
無事家族に引き取られていった。

向こうの家族の言い分や状況から
我が家の誘拐疑惑は晴れて、無事一件落着した。

 
それが、私の帰宅するほんの10分前の出来事だったらしい。

 
私「ちなみにその子は、どこの子だったの?」

 
父「●●辺りだって。」

 
私「●●!?家から1kmくらいじゃん。夕方だし、大きい道や信号もあるし、車も通るし、よく引かれなかったね。あそこからだと、街灯ない道もあるじゃん。」

 
父「無事でよかったなぁ。」

 
私「しかし………なんで我が家だったんだろう?あそこから家までの間じゃ、家たくさんあるじゃん。」

 
母「うちは玄関の明かりが強いから、歩き疲れた時に光を見てホッとしたのかもしれない。」

 
私「確かに。うちは近所の中で一番明かりが目立つね。あとは、お母さんの声がうるさいからじゃない?」

 
母親は声が大きく、朗らかな性格で、笑い声は庭まで聞こえた。

 
母「あ~ら?お母さんの声は小さくてお上品だから外まで響かないわよ。」

 
家族一同「お母さんの声は大きいよ。」

 
 
その男の子との縁はそれきりだ。
その後どうなったか分からないが、無事でよかったと今でも思う。

 
  
 
それから数年後、我が家では烏骨鶏をペットとして飼いだした。
あくまで家畜ではなく、ペットなのだが
庭には立派な烏骨鶏の小屋が作られた。

 
烏骨鶏を飼いだしてしばらくすると
朝、庭には見知らぬ烏骨鶏がいた。

 
持ち主はあらわれない。
烏骨鶏がどこかに行く様子もない。
迷子か捨て烏骨鶏かは分からないが
我が家の庭にちゃっかり居座り
逃げる様子が見られなかった。

 
男の子の次は、迷子の烏骨鶏が我が家に………!

 
迷子の烏骨鶏は、そのまま我が家に新メンバーとして加入した。
新メンバーだから、「シン」という名前だった。
そのまんまだ。姉が名づけた。

 
烏骨鶏小屋には何羽も烏骨鶏がいて、数年飼っていたが
やがて祖父母高齢化や姉の短大進学に伴い、全羽親戚に譲った。

結局何年経っても迷子の烏骨鶏がどこから来たか分からずじまいだが
きっと捨てられたのだろうと、家族内で結論づけた。

 
 
 
そんな烏骨鶏迷子騒動から数年後のことである。

「来ちゃったー!」

いきなり我が家に、親戚の子が一人でやってきた。
多分5歳に満たないくらいで、我が家からその子の家は2km以上離れていた。

  
私達家族「一人で来たの!?」

 
親戚「一人だよ!すごいでしょ!みんなに会いたかったの!!」

 
慌てて親戚に電話した。
どうやら周りには何も言わずに家を飛び出してきたらしい。

確かに我が家には何回も遊びに来ていたし
道もそんなに複雑ではないから
道自体は覚えているだろう。

 
だが、親戚の家から我が家まで歩いていくとなると
急カーブで見通しが悪く、車がスピードを出す箇所もあるし
信号を渡る必要も出てくる。

 
好奇心旺盛で行動力がすごい。
よほど私達に会いたかったのだろう。

 
私や姉は慎重派で、迷子になったことがない子どもだった。
親から「ここで待っていなさい。」と言われたら
じっと待つのが私達姉妹だった。

 
そんな娘達を育てた親だ。
両親はそれはもう、ビックリしていた。

 
親戚がすぐに迎えに来たし、こっぴどく怒っていたが
凝りもせず、数ヶ月後に再び一人でやってきた。

 
事故だけでなく、誘拐も心配だから、本当にヒヤヒヤした。
親戚バカかもしれないが、その子はめちゃくちゃかわいい子だし、声も愛らしいのだ。

 
なんとか無事でよかった。
彼女にとっては勇敢な冒険なのかもしれないが
我が家は二回とも非常にヒヤヒヤした。 

 
 
 
 
見知らぬ男の子、烏骨鶏、親戚と我が家に迷い子が来た数年後、我が家は家を建て替えた。

二度あることは三度ある。
三度あることは四度あったりする。

 
家を建て替えた後も、迷い子はやってきた。

 
 
 
あれは今から、8年前のことである。

朝起きると、母の車が停まったカーポートの下に、茶色の犬がいた。
成犬で雑種、首輪と鎖がついたままだ。
あの日の朝は霧が濃かった。

 
父「庭に犬がいる!!」

 
私「嘘っ!?」

 
父に言われて、慌てて家族みんなで庭に出た。
いた。
確かにいる。
あのシルエットは犬だ。
間違いなく、犬だ。

 
なんでまた犬が???

 
とりあえず、様子を見ることにした。

 
 
母は餌をあげ、近所をあちこち散歩した。
もしかしたら近所の犬で、散歩することで自宅に帰るかもしれないと思ったのだ。
だが、近所を散歩してもシッポを振って喜ぶだけで、その犬は私の家に真っ直ぐ帰ってきた。

 
その犬は逃げなかった。
大人しく、愛嬌があり、かわいらしい犬だった。
我が家全員になつき
私達が姿を見せると、シッポを振って喜んでいた。

 
か、かわいい…………。

 
私は絶対的な猫派で、犬は普通だった。
小さい頃に野良犬に追いかけられて以来
よく吠える犬や獰猛な犬、強面な犬が苦手でさえあった。

 
そんな私が、犬をかわいいと思っている。
庭にいるその子を見ると、嬉しく思っている。
自分で自分にビックリした。

 
 
父親は父親で、幼い頃に野良犬に追いかけられて以来
犬が大の苦手だった。
私は犬は犬種によっては大丈夫だったが
父親は犬全般苦手だった。

 
そんな父にさえ、その犬はシッポを振った。
やたらと吠えず、ただ嬉しそうな様子だけを見せた。

 
「あの犬、このままうちで飼うか?」

 
父親からそんな言葉が出たのだから、我が家では大事件だった。

犬に悪態を吐き、近づこうとしなかった父が!
動物を飼うことに反対の父が! 

 
犬を飼う方向で気持ちが揺らいでいる!!!

 
家族全員、ビックリした。
父親さえ自身の感情にビックリしただろう。

それほどまでに、その犬は運命的な出会いだった。

 
元々犬好きな母も、犬普通な私も乗り気であり
成り行きの出会いではあったが
この子をこのまま引き取っても構わないと思った。
家族満場一致で
その犬を我が家で飼いたかった。

 
だが、首輪や鎖をつけている。
愛嬌があり、賢い犬だ。

おそらく捨て犬ではなく、何かの弾みで鎖が外れただけだろう。
こんなにかわいい犬だ。
飼い主はきっと心配して探している。
飼い主が丁寧に世話をしたから
きっとこんなに愛嬌があり、賢いのだろう。

 
飼い主を無碍にはできない。
この子もきっと、本当の家に帰りたいだろう。

 
母は保健所に電話をし、その犬は引き取られていった。

 
 
もう庭を見ても、いつもの場所にあの犬はいない。

私が仕事に行く時や帰る時に 
「いってらっしゃい。」や「おかえり。」を言うように
シッポを振って見送ってくれたり、私を待っていたのに
あの犬はもういない。

 
我が家にいたのは3~5日くらいだろうか。 

それなのにすっかり情は移り
家族全員の気持ちは下がった。

 
玄関の扉を開けると、あの犬がいる方を見る癖がすっかりついてしまった。
毎日、元気かどうか気になるようになってしまった。
我が家の犬になりつつあった。
飼いたくなるほどに、かわいくて、よくなついていたのに。

 
保健所に引き取られていった時
両親が見送り、私は仕事でその瞬間に立ち会えなかったが
一番悲しがったのが父親だ。
父は涙を流した。

 
 
 
あれからあの犬がどうなったかは分からない。
一緒に過ごしたのはほんの数日だけだったけど
今でも忘れられない。
 
私「あの後、無事飼い主に会えたのかな。」

 
母「だといいけどね。」

 
父「お父さんは今でも少し後悔しているし、夢を見ることがある。あのまま、我が家で引き取るべきだったのではないか、ってね。」

 
私「本当にあの子は、かわいかった…。」

 
母「かわいくて、賢かった。」
 
 
保健所への連絡は正しかったと今でも思うが
それでも時々考えてしまう。

もしあの子が今、ここにいたら、と。

 
 
 
 
あの犬を最後に、今のところは我が家に迷い子は来ていない。

 
我が家は住宅街だ。

どの迷い子にしても、何故他の家ではなく、我が家だったのだろうか。

 
迷い子達が怪我もなく、我が家に無事辿り着いてくれて、命が無事でよかった。
神様、迷い子達を見守ってくれてありがとう。

 
   
もう彼等にとっては昔のことで、忘れてしまうほどのことだったのかもしれない。

それでもあれは私達家族にとっては、ささやかな出会いと別れであり、ご縁だった。

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