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私の県はサメの肉をよく食べる

世界三大珍味がキャビア・フォアグラ・トリュフと知ったのは
おそらく小学生の頃だったと思う。

 
テレビや漫画でそれらが取り上げられるたびに
小学生時代の私は目を輝かせて憧れた。

キャビアはサメの卵で黒くてキラキラしているとか
フォアグラ用のガチョウはひたすらに太らせるとか
トリュフは豚が探すだとか

私は知識を着々と増やしていった。

 
給食に三大珍味が出るはずもなく
そのうち、高級食材としてフカヒレスープやツバメの巣にも憧れを抱いた。

高くて珍しい物は、一度は食べてみたかった。

 
既に食したことのある父親は、「特別美味しくない。」と言っていたし
実際私も、食べた感動よりも、食べる前の感動の方が強かった。
メニュー表でそれらを見つけ、料理が運ばれてくるまでの間や、目の前に料理が置かれた瞬間が一番テンションが高かった気がする。

口の中に入れてみると、「…こんなもんか。」という感想だった。
ツバメの巣はまだ食べたことがないから分からないが
父親と同じく、三大珍味やフカヒレスープは特別リピーターになりたいほどの好みの味ではなかった。

 
ただ、世界三大珍味やフカヒレスープを食したという経験は
確かに私の財産となり、話のネタになった。

 
 
 
 
あれは私が社会人なりたての頃だ。

私の職場は給食が出ていて
毎月一回はモロのフライが出た。
モロは安く、仕入れやすい。
魚のメニューの日に重宝されていた。
調理師さんが、モロのフライが好きだったのもある。

 
祖母は生前、よくモロの煮付けを作ってくれた。
だから私の中でモロは煮付けのイメージが強かった。

小中学校でモロのフライが出た記憶はない。

義務教育時代、給食はいつも「白身魚のサクサクフライ」というメニュー名だった。
その白身魚はモロだったかもしれないが
魚名はいつもハッキリ書かれていなかった。
多分モロとは違ったと思う。多分だが。

 
 
私の職場の給食は実に美味しかった。

自宅ではまずモロのフライは食べないし
毎月一回は食べるモロのフライは私の大好きなメニューとなった。
安くて美味しいのは最高だ。

 
 
そんな生活の中、私は偶然テレビで知ってしまった。

モロとはサメの肉であり、栃木県民が好んで食すこと。
栃木県は海なし県のため、保存がきくサメの肉を食べる文化が根付いたのではないかとのこと。

 
衝撃的だった。
日常的に食べている安価な大衆魚は
全国的に食べられているものではないし
モロがサメだということにもビックリした。

 
モロって、魚の名前じゃなかったんだ…。

 
サンマの塩焼きとか鮭のムニエルとかと同じ類で
モロの煮付けやモロのフライという料理名な以上
モロはモロという魚と私は信じてやまなかった。 

考えてみれば、わざわざ私はモロを調べたこともなかったし
他県民と話題にしたこともなかった。

  
サメの卵は、ニワトリの卵と異なり
わざわざキャビアと呼ばれている。
だからサメの肉をモロと呼んでもおかしくない。
なんといっても、サメは特別な魚のイメージだ。
クジラが王様なら、サメは騎士団長くらい格式高いイメージだ。

 
かつて、そのクジラを給食で食していたと聞き
雄大なイメージを知っているだけに、衝撃的だった。
だが、私がサメを食べているということも
他県民にとっては、実は衝撃的なことだった。

 
サメの卵は高級食材なのに
サメの肉は安く売られ、海なし県民だからこそ食される。

 
脱力感だった。
サメの肉を食べる背景が切なく、侘しい歴史だった。

 
世界三大珍味やフカヒレスープよりもある意味食すことがレアなのかもしれない。

 
社会人になりたての頃、私は世界三大珍味やフカヒレスープに憧れていたけど
それらを食べたことがある人よりも
私は実はレアなものを安く食べていた。

 
自分の常識や当たり前は
あくまで狭い世界で培われたに過ぎなかった。

 
 
 
やがて私はアラサーになり
世界三大珍味やフカヒレスープを食した。

その頃、献立を作る人が変わり
給食のメニューからモロのフライは消えた。

モロの煮付けは祖母から私や母に伝承はされず
祖母が亡くなった後、我が家の食卓にモロの煮付けが並ぶこともなかった。

 
毎月一回は食べていたモロを
こうして私は食べなくなっていった。

 
 
 
 
この前、鍋でモロを食べているとツイートしている人がいた。
他県出身の、栃木県に今住んでいる方だった。

「俺は煮付けで食べる。」
「私はフライが好き。」

と、栃木県民の方がリプをした。

 
確かに淡白な魚だから鍋も合うだろうが
モロといったら、代表的な調理は煮付けかフライだ。

鍋という発想が、他県出身ならではだと思ったし
鍋も美味しそうだなぁと感じた。

 
 
 
 
私がモロを食べなくなった頃、姉や甥はジンベイザメブームが始まり
持ち物や私物にジンベイザメが増えた。
私はよくそれを見掛けた。

 
 
そして去年、ジンベイザメの膝掛け?を見つけ、甥二人にプレゼントした。
足を通すタイプで、かわいくて、かつ、あたたかい。
インスタ映えするタイプで、ジンベイザメに食べられているように写真撮影も可能だ。

甥長男は喜んだし、甥次男も喜んだのだが
甥次男には使い勝手が悪く、私がもらうことになった。

note更新している時は、ほぼ、このジンベイザメ膝掛け?を使っている。
なくてはならない大切なものだ。


 
海なし県民の私は、思いがけず間接的にサメライフを楽しんでいる。




 

 
 







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